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020 推しとカフェに行く

「さぁ〜、遊ぶぞー!」


 テストから解放され、学校から飛び出した未来ちゃんは拳を突き上げて叫んだ。いい声だから目立つのなんの。


「未来ちゃんはどこに行きたいの?」

「いっぱいあるよ! まずね〜、スタパ!」

「す、スタパ!?」


 スタパ……それはノートパソコンをわざわざ持ち運び、俺スタパで仕事してますよ感を出すマウントを取る場所(偏見)

 呪文のような注文をスラスラと言って、噛んだ陰キャは笑われる場所(偏見)

 そもそも陰キャ単体で言ったら串刺しにされる場所(事実無根)


「うん、可愛いメニュー多くて美味しくて好きなんだ! この前勉強した時、池下さんと一緒に行ったよ」

「池下さんとスタパに!?」


 でもあの人なら似合いそう。なんでもできるスーパーウーマンって感じだし。


「というわけでレッツゴー!」

「ちょ、心の準備が〜!」


 再び未来ちゃんに手を引かれ、最寄りのスタパに着いてしまった。ほらほらいるいる。ノートパソコンかたかたしながら仕事していますよ感出している人。

 未来ちゃんはなんの躊躇もなくスタパへと入っていってしまった。ひぇ、でも私も行かないと未来ちゃんに失望されちゃう!


「み、未来ちゃん! 私注文とかできないんだけど……」

「安心して! 私がオススメの頼んであげるから!」

「ほ、本当? 助かるよ……」

「すみませーん! ハロウィン限定スウィートポテトフラペチーノのトールサイズを2つで、両方ともハチミツ多めのカスタマイズでお願いします!」


 ……呪文だ。噛まずに言えるのは声優だからだろうか、それとも陽の者だからだろうか。

 私は未来ちゃんに甘えてお店の端っこの方でスマホをいじっていた。顔を上げると声をかけられそうだから、苦肉の策である。

 推しをパシらせるなんて、オタク失格だ。


「お待たせー! はいこれ文ちゃんの」

「あ、ありがとう。いくらだった?」

「お金はいいよ。勉強教えてくれたお礼」

「で、でも……」

「もー、私これでも結構稼いでいるんだからね? まぁ文ちゃんなら理解ってるか〜」


 ニヤニヤと、こちらの未来ちゃん理解度を承知した上で話しているようだ。魔性の女やで……!

 まぁ未来ちゃんの出演本数的に、高校生のアルバイトでは到底稼げないようなお金を稼いでいるのは知っている。


 貸しを作るような状況をダラダラと続けたくないし、ここは甘えて奢ってもらおうか。こういう姿勢も時には大事だったりする……よね、たぶん。


「ほら、あの席に座ってゆっくり飲もう?」

「う、うん」


 店内はテスト終わりの女子高生たちでガヤガヤしているけど、この席は少しだけ店の死角のようなところにあってゆっくりできそうだった。

 人生初のスタパか。どれ一口……甘っ。


「どう? 美味しい?」

「う、うん。甘くて美味しい」


 甘いといってもポテトの自然な甘味だ。人工甘味料どーん! という感じではない。


「ふふっ、大好きな友達と来られて嬉しいな〜」

「〜〜っ!」


 ふた口目はさっきよりも甘く感じた。

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