016 推し、オススメしてくる
ちょっとだけ不評だった日曜日の更新に嫌気が差しつつ、学校のために早く就寝した。まぁぶっちゃけ辛辣感想から逃げたかったのもある。
夜というものは残酷で、目をつぶったらすぐに光刺す朝になってしまう。
「よし、切り替えて学校行かなきゃ!」
月曜はいつも憂鬱だったけど、今週はそうでもない。なぜなら未来ちゃんが転校してきたわけだからね。
アフレコはどうだったんだろ。よく考えたら素人の私のアドバイスなんてなんの役にも立たない可能性があるよね。ひぇぇ……なんか怖くなってきた。
恐る恐る教室を覗くと、すぐに未来ちゃんと目が合った。まるで誰かが教室に入ってくるのを待ち構えていたみたいだ。
「文ちゃんおはよー!」
「お、おはようございます……」
大声(めっちゃいい声)で挨拶してくるものだからクラスメイトからの視線が痛い! 私なんて名前も覚えられているか怪しいくらいなのに!
「だ、誰か待っていたの?」
「もちろん文ちゃんだよ! 文ちゃんしか友達いないしね」
「えっ……」
今、なんとおっしゃられたでしょうか。
友達……私にはそう聞こえた。
友達とは互いに心を許し合い、一緒に遊んだりする人のことを指す。未来ちゃんにとってのそのポジションに、私が!?
「ポゥ!!!!」
「また出た! 文ちゃんのそれ何!?」
未来ちゃんはニッコリと笑いながら、ずっこけた私の顔を覗き込んできた。あぁ、推しの顔面強い高校校歌を歌いたい……。
「そ、そういえばアフレコは……」
私が起き上がりながら尋ねると、未来ちゃんは指をVの形にして微笑んだ。
「文ちゃんのお陰でほとんど1発オーケーだったよ! 文ちゃんありがとう〜」
「ぎゃい!?」
感動した勢いそのままなのか、未来ちゃんは私に抱きついてきてしまった。やべぇ推しの匂い甘ぇ〜。あと柔らけぇ〜。
…………はっ! キショい限界オタクやってると引かれる! なんとか自我を取り戻せ!
「そそ、それなら良かったよ」
「池下望さんって知ってる? 大先輩なんだけどね、その人も褒められちゃった」
「改めてすごい環境にいるね……」
「ふふ、まだまだいいことあったんだよ」
そう言って未来ちゃんはスマホを操作し始めた。
マリアの演技1発オーケーと並ぶようないいことがあったのだろうか。
「ほら、この前紹介した『花森学園:高等部』の最新話!」
「ぶっっ!!」
「文ちゃん!?」
「だ、大丈夫。続けて……」
まさか最新話を追ってくれているとは。
「それでね、新キャラの佳子ちゃんって子が声優さんなの! 共感できるところばっかりで楽しかったんだ〜」
「そ、そうなんだ……」
そりゃ共感できるでしょうね。だって佳子のモデルは未来ちゃんなんだから!
「ぜひ文ちゃんも読んでみてほしいな、ライトな文章だから読みやすいよ」
「う、うん……読んでみます」
小っ恥ずかしい! でも同時に超嬉しい!
これから最新話更新の度に未来ちゃんと自作について話すのだろうか。だとしたら熱すぎるね、それ。




