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41:誤解

 いよいよ明日は雪まつりに行く日。

 そしてそこでクロアちゃんに気持ちを打ち明けるつもりだ。そう決めてから、なんだか気持ちが落ち着かない。


 クロアちゃんの反応からうまくいきそうな気はしつつも、全部俺の自惚れで恋愛対象になんて見られないとフラれるんじゃ?という恐れも定期的に心に湧いてくる。

 期待と不安が交互に襲ってくるのは、もうどうしようもない。でもこの不安に足を止めてしまえば、間も無くクロアちゃんは遠く手の届かない人になってしまうだろう。


 ここで踏み出せる者にしか、幸せな未来は掴めないのだ。

 がんばれ、俺。

 そうやって自分を鼓舞しつつ、仕事を終えて会社を出る。今日も会社の近くの店でクロアちゃんと晩御飯の予定だから、変にそわそわしないよう気をつけないと。


 そう気を引き締めて店に向かおうとした時だった。


「サ、ササマキさんっ」


 呼び止められて振り返ると、ヨシノさんがこちらへと駆けてくるところだった。セノが合コンへと繰り出してから少し経つが、その後どうなったのだろう。ヨシノさんは、間に合ったのだろうか。

 足を止めて待つと、すぐに追いついたヨシノさんがぱっと笑顔を浮かべた。


「そのっ、お騒がせしたので一言だけご報告を、と!」

「うんうん、セノが合コン行くとか言ってたから気になってたんだ。うまく行った?」


 その表情から悪い話ではなさそうだと思って、思わずストレートに聞いてしまう。


「1週間ほど粘って押して押してと奮闘した結果」

「奮闘した結果?」

「お試しですが、セノさんの彼女に就任しました!」

「おおぉぉぉ!おめでとう!」


 思わずテンションが上がって大きな声が出そうになる。あー、やばい。人ごとなのに自分のことのように笑み崩れてしまう。


「まぁお試しで、付き合い始めたことは社内の人には今のところ秘密でって感じなんですけど」

「え、それって俺に言っちゃってよかったの?」

「事情を話して了解は得てます。….ちょっと、嫌そうでしたけど」

「ははっ、でも俺との縁もセノのお節介のせいだしね。あー、でも嬉しい報告が聞けてよかったぁ」


 明日告白するのに、いい後押しをしてもらった気がする。ヨシノさんのやり切った勝者のオーラを感じて、自分もやってやるぞという気持ちが湧いてくる。


「俺も負けてられないなぁ」

「え、ではササマキさんも?」

「うん、実はその予定なんだ」


 そう言うと、ヨシノさんの顔に笑みが浮かぶ。明言したことはないけど、もしかして俺の相手は見透かされているのだろうか。


「私も本採用目指していっそう努力しなきゃなんで、お互い頑張りましょうね!」

「うん、お互い頑張ろう」


 なんとなくガシッとかたい握手を交わして、お互いを鼓舞する。


 と、次の瞬間。ヨシノさんにバッと勢いよく手を解かれて、びっくりした。そのヨシノさんの視線は俺の後ろに固定され、焦りの表情を浮かべている。


「?なにが………」

 不思議に思って振り返ると、少し離れたところにクロアちゃんが立っているのに気がついた。今日はうちの会社近くのお店に行く予定だったので、その途中だったのだろう。タイミング良く出会えてなんだか嬉しくなる。このまま一緒にお店へ移動できるし。


「クロアちゃ…、え?」


 そう思って声をかけたのに、クロアちゃんはそれを無視してパッと走り出した。あっという間に離れていく小さな影。拒絶の見えるそれに、一気に思考が凍りつく。


「あーっ、すみませんすみません誤解させたかもしれないです追いかけてくださいすみません早くーっ!」


 真っ白になった頭にヨシノさんの猛烈な謝罪が入ってきて、ようやく我に返る。え、誤解ってまさかヨシノさんとの仲をってこと!?なにそれ全然タイミング良くなかったんじゃんマジか。


「ごめんっ」


 ヨシノさんに一言投げかけて、とりあえずクロアちゃんの走っていった方向を追いかける。

 でも自分で言うだけあってクロアちゃんはかなり足が速い。すでに姿が見えないし、このまま真っ直ぐ追いかけていいのか途中で曲がってしまったのかすら分からない。


 いやでも、この方角はクロアちゃんの家の方か?このミマサカでクロアちゃんが逃げ込む先なんてほとんどないし、でたらめに走るのでなければ家に向かったと思う方が自然な気がする。


 とりあえずクロアちゃんの家に行ってみて、いなければ周りを探すしかない。もしがむしゃらに走って迷子になっちゃってたら、もう暗いし心配だ。焦るけど、普段運動なんてそんなにしない身はすぐに息が切れてしまう。冷たい空気が喉に痛い。


 それでも必死で足を動かしてクロアちゃんの家へと向かう道の途中。もうすぐ家が見えるかなという辺りで、ポツリと立ち竦む影が見えた。


 項垂れるように1人寂しく道の端に佇むのは、間違いなく、クロアちゃんだった。




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