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39:今の嬉しい気持ちが

 ヨシノさんには、クロアちゃんから聞いたコユルギさん情報を伝えておいた。が、がんばります!と宣言されたので、内心応援している。


 いつからセノのことを好きかは詳しく聞いてないけど、何度か彼女が変わるのを見て後悔したと言っていたし、決して短い片思いではないのだろう。

 俺なんかまだ片思い歴半年も経ってないから、言ってみればヨシノさんは大センパイ。是非いい知らせでもって後輩の背中を押していただきたい。


 そんなことを思っている俺はというと、今度の遠出の際にクロアちゃんに気持ちを伝えるべく、色々頭を悩ませている最中だ。

 現金なもので、この間のクロアちゃんの反応を見て勝算は高いんじゃ?と浮かれ気味だったりする。もしこれでクロアちゃんに、え!ごめんカナトのことそんな風にみたことなかった…とか言われたら、ダメージデカすぎて死にそうだ。どうかうまくいって欲しい。


 そんなことを思いながら仕事を終えて帰る準備をしていると、急にずしっと肩に重みが乗っかった。


「ササマキー」

「ここは部外者立ち入り禁止ですが?」


 ていうか、久しぶりだな。

 振り返ると、当たり前のようにセノが立っていた。


「そんなのササマキが勝手に言ってるだけじゃん」

「ご用件は?」

「つめたぁいっ!外の空気より冷たくない?」

「なに、コユルギさんにフラれて暇になったの?」

「しかもストレートに傷を抉ってくるし。てか何で知ってんの」

「何でコユルギさんと合コンできたと思ってるの」

「くっ、オルソーちゃん情報か…」


 ぐぬぬ、と悔しそうにしているセノの腕をぺいっと払う。ヨシノさんに伝えた情報は正しかったようで何より?だ。


「で、なんの用?もうクロアちゃんと合コンは行かないからね」

「オルソーちゃんはいなくていいんだけど、ササマキは今日暇?ちょっと急な欠員で合コンメンバー1人足りなくてさ」

「はぁ?もう彼女探してるの?本当落ち着きないなぁ」


 この切り替えの速さと行動力は絶対真似できない。こりゃヨシノさんが迷ってる間に彼女ができてしまったのも仕方ないなと内心同情する。今回は間に合って欲しいけど。


「失礼な!これでもイイ感じかな?って段階までいったら付き合ってなくても二股かけませんけど?超超超誠実じゃない?」

「んー、そこはちゃんとしてるよね。なのに何ですぐフラれるの?」

「俺が知りたいし!」

「ま、それは置いといて。俺も似たような理由で合コンにはいけない身なので無理」


 キッパリ断ると、セノがびっくりしたように目を見開いた。


「え、ササマキ相手はもしかして….」

「愛があれば歳の差なんてって言ったのはセノでしょ?」

「なんだぁ気持ち認めちゃったんだ。むしろ、いい感じですって気配がする」

「頑張ってる最中だけどね。だから合コンとか無理」

「く、なんだか分かんないけどすごい敗北感!」


 ガックリ肩を落としたセノに、なんだか勝った気分になる。いや、まだ付き合えてないんだけど。


「セノもいい加減落ち着いたら?ノリと勢いだけじゃなくてさ、ちゃんと将来を考えられる人を探しなよ」

「うぅ、ササマキに恋愛面で説教されるだなんて…」

「お互いいい歳でしょ?しかもセノは転勤の可能性高いし、今適当に彼女作っても遠距離ムリってフラれる未来しか俺見えないんだけど」

「今日のササマキ殺意高くない?もー、わかった!ササマキは誘いません!別の人探しますーっ」


 そう言って部屋から出て行こうとしたセノ。その腕をガシッと掴んで、近くにいる後輩くんに声をかける。


「ヤナセ君、彼女募集中って言ってなかったっけ。セノが合コンメンバー探してるみたいなんだけど、どう?」

「え、俺っすか?予定ないし、セノさんがいいなら…」

「だって、セノ。よかったね」

「え?イケメン君だねー、じゃあよろしく!もうすぐ会社出なきゃなんだけど、行けそう?」

「大丈夫っす」

「じゃあ2人とも楽しんできてね」


 バイバイっと手を振って2人を見送り、俺もクロアちゃんが待ってるだろうお店へ移動すべく急いで身支度を整える。

 さすがにセノがセッティング済の合コンにいくのを阻止はできない。できるのは、イケメンな後輩君を送り込んでセノの勝率を下げることくらいだ。


 ヨシノさん、うまくいくといいけどなぁ。自分のことでもないのになんだか焦りを感じながら、クロアちゃんと待ち合わせしているお店へと向かったのだった。







 お店へ着くと、クロアちゃんはまだ来ていないようだった。待つことなく席に通されたので、メニューを開いてどれを頼もうかと考えながら時間を潰していると、少ししてクロアちゃんもお店に到着した。


「お疲れさま」

「カナトもお疲れさま。ごめんね、待った?」

「ううん、俺もさっき着いたところ。先にメニュー見てたんだけど、期間限定の蟹鍋が美味しそうだよ」

「どれ?あ、ほんとだ。なんか豪華だね」

「ね。じゃあこれコースで頼もうか」

「うん!」


 俺もクロアちゃんも新しいメニューは試してみたい派なので、お店に来て期間限定のメニューがあるとそれを注文することが多い。こういうところで気が合うと、食事も気を使わず楽しめて助かる。

 しばらくして料理が運ばれてきたが、どの料理も、もちろんメインの蟹鍋も美味しくて、とても満足して食事を終えた。


「美味しかったねー」

「うん。鍋のスープが絶品だったぁ」


 クロアちゃんも満足した様子だけど、何となくいつもより元気がない気がして、疲れてるのかなと心配になる。食欲はあるみたいなのでそこは安心だけど、寒くて体調崩しやすい時期でもあるし、気をつけて欲しいなぁ。


「クロアちゃん、なんか疲れてる?体調悪いとかではない?」


 念の為聞いてみると、驚いたように目を丸くされた。


「え?だ、大丈夫だよ。んー、今日ちょっとお客さん多かったから、疲れたのかも」

「そう?なら今日は早めに休んでね。そろそろ出ようか」

「うん…、カナト」

「ん?なに?」


 クロアちゃんが何か言い淀んだので、席を立とうとしたのをやめて座り直す。でもクロアちゃんはすぐにニコッと笑って席を立った。


「ううん、なんか呼んでみたかっただけ」

「えぇっ、なにそれ」


 クロアちゃんを追って立ち上がるけど、本当は何か言いたいことがあったんじゃないかと感じて心がざわつく。とりあえず会計を済ませて、店の外へと出た。

 白い息を吐いて歩き出すと、少し風が吹くだけで温まっていた体がすぅっと冷えるようだ。


「はー、ホント寒いね。カナトがくれたマフラーが手放せないや」

「今が一番寒いくらいだからね。北部は雪もたくさん積もってるよ」

「ふふ、お出かけ楽しみだなぁ」


 クロアちゃんが本当に嬉しそうに笑うので、思わず頭を撫でてしまう。するとちょっと視線を泳がせた後、おずおずというようにクロアちゃんがこちらを見た。


「あの、さ」

「ん?」

「明日も、一緒にご飯食べたいって言ったら、困る?」


 予想していなかったお誘いに、ちょっと驚く。さっき言い淀んでたのってこのことかな?明日は俺が休みの日だから、いつもはごはんも別々だ。


「困らないよ。1人で食べるよりクロアちゃんいてくれる方が嬉しいし。どこで食べる?今日蟹だったしお肉系にする?」

「え、と。ならあたし作るから、うちでもいい?」

「いいけど、仕事の後だし疲れない?俺休みだし、うちに来てくれたら俺が作っとくよ」


 そういうと、クロアちゃんはちょっと目を丸くした。


「カナトの手料理?」

「言っておくけど、そんなに期待しないでね。クロアちゃんみたいに料理上手じゃないからね、普通の独身男の料理です!」

「前作ってくれたスープ美味しかったよ!すっごく楽しみ。嬉しい、ありがとカナトっ」


 ぱっと笑顔の花が咲いて、その表情を見るだけで俺も嬉しくなる。頑張って美味しいもの作らないと。アピールになるほどの腕前かは疑問だけど、料理できない男よりはできる方がポイント高いよね、きっと。


「じゃあ、明日俺の家ね」

「うん!」


 なんだか期待値が高そうなので、帰ったらなに作るかよくよく考えないと。

 明日の約束をした後のクロアちゃんは、いつものように楽しそうにしている。冬の気候のせいでちょっと寂しくなってたのかな?


 クロアちゃんが望んでくれるなら、いくらでも時間作るのに。こうして甘えられると、とても嬉しい。むしろもっと会いたいし甘えて欲しいし、頼って欲しい。

 嬉しさにいつの間にか寒さが気にならなくなっている自分に、どれだけ浮かれているんだとちょっと笑えてきた。でも、いい。今の嬉しい気持ちがたくさん降り積もって、きっと告白する勇気になるのだから。





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