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28:初めて口にした想いは

 ポロの丸焼きに大はしゃぎした子ども達と、ナガセさん手作りのたくさんの料理が並んだ夕食を楽しんでしばし。


 あれだけ元気だった子ども達は、入浴後に電池が切れたように大人しくなり、シルウェンさんに回収されて寝室へと連行されていった。


 片付けが済んだダイニングに座っていると、ナガセさんが温かいハーブティーを出してくれる。


「疲れてるのに子ども達の相手してくれてありがとう。お土産も喜んでたわ」

「いえいえ。こっちこそ夕飯めっちゃおいしかったです。ありがとうございました」

「ふふ、ちょっと色々作りすぎちゃったわ。5年ぶりだものね。ササマキ君全然変わってなくて、なんか安心したわ」

「それは喜んでいいんですかね…?」


 渋い大人の男への道のりはまだまだ遠そうだ。向かいに腰掛けたナガセさんはちょっと笑って、静かにハーブティーを口に含む。


「ま、この年代はそんなに大きく変わらないわよね。でもクロアちゃんには驚いたんじゃない?ササマキ君がびっくりしてるところ、私も見たかったわ」

「そりゃもう…。最初誰だかわからなくて焦りました」


 そう答えながら、心臓が早鐘を打つのを感じていた。ナガセさんは、俺の相談事がクロアちゃん関係だと察してるみたいだけど。

 これから言葉にすることに、どう思うだろう。きっと驚くだろうな。軽蔑、されてしまうかもしれない。そう思うとなんだか口の中が渇く。


「そ、の…」


 どう切り出したら、いいのかな。

 言葉が詰まった俺に、ナガセさんはちょっと小首を傾げると席を立った。そして新しいグラスと、ボトルを机に並べる。


「ふふ、旦那が相談事にはアルコールがいいんじゃないかって、ね。言いやすいことならハーブティーでもよかったかもしれないけど、そうじゃなさそうだし」


 そういうと、俺のグラスにそれを注いでくれる。色からして、この辺りでよく飲まれる果実酒みたいだ。ミマサカで売ってるお酒より、この辺りのお酒の方が少しアルコールはきつい。それも美味しいけどね。


「ありがとうございます」

「いーえ、私も少し飲んじゃお」


 そう言ってナガセさんは自分のグラスにも少し注いで、それを掲げる。


「じゃ、ササマキ君との5年ぶりの再会に乾杯!」

「ははっ、乾杯」


 軽くグラスをあわせて、果実酒を口に含む。うん、久しぶりに飲むけど美味しいや。芳醇な香りが鼻に抜けて、少しだけ気分が落ち着く。


「いい旦那さんですね」

「ふふ、まあね。初めて会った時は無表情でなんだこの人!って思ったけど、今は出会えてよかったと思うわ」

「ナガセさん幸せそうですもん。とてもお似合いです」

「そう?人から言われるとなんか照れるわ」


 くすぐったそうに笑ったナガセさんが、そう言うササマキ君は?とこちらに視線を向ける。


「ササマキ君は最近どうなの?気になる人はできた?」

「そう、ですね」


 ひとつ、大きく息を吸う。少し落ち着いていた心がまた、ざわめく。


「あの。こんなこと、気持ち悪いとか軽蔑するとか言われても、しかたないかも、しれないんですけど」


 ああ。声がみっともなく震えそうになる。グラスを持つ手に、無意識に力が入る。


「俺、クロアちゃんのこと。1人の女性として、好きになって、しまいました」


 初めて口にした想いは音にした瞬間、荊のようにキツく、心を締め付けた。




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