27:お迎え
列車の扉が開かれるとちょうど目の前にクロアちゃんのお兄ちゃんが立っていた。なんか体つきが大きくなって、ますますお父さんにそっくりになってるなぁ。
ひっそり感心していると、クロアちゃんはパッとお兄ちゃんの方へと駆けていく。
「ただいまーっ」
「おー、クロア。やっと戻ったか、元気そーだな。あ、カナトさんもお久しぶりっす」
「お久しぶりです。じゃあクロアちゃん、お父さんによろしく伝えておいてね。って、あれ、シルウェン、さん?」
「お久しぶりです。お変わりありませんね」
駅にはクロアちゃんのお兄さんだけではく、なんとナガセさんの旦那さんのシルウェンさんもお迎えに来てくれていた。手紙には書いてなかったのでこのサプライズにはびっくりだ。
家に帰るクロアちゃん達とはそこでさよならして、俺はシルウェンさんが手配してくれていた人力車で、シルウェンさんのお宅まで運んでもらうことになった。荷物も割と重たいから凄くありがたい。
車を引いてくれるのは犬系の獣人さんだろうか。爽やかな笑顔と羨ましくなるステキな腕の筋肉が魅力的だ。
「迎えにきていただいてありがとうございます。それに人力車まで手配してもらって、とても助かりました」
「いえ。こちらこそ度々珍しいものを送っていただきありがとうございました。特にスノーモップのぬいぐるみは、子どもたちのお気に入りです」
「気に入ってもらえたなら、こちらも嬉しいです」
今まで数回しか会った事はないが、旦那さんのクールな美貌は相変わらずだ。表情の動きの少なさもあり、静かで不思議な雰囲気が目を引く。
「マキも、あなたが来られるのを楽しみにしています。子どもたちが騒がしいとは思いますが、寝つきも良い子たちです。夜には思い出話の時間もできるでしょう」
「お気遣いありがとうございます」
あー、なんか大人の男ってこういう人のこと言うよなぁ。落ち着いてて気配りもできて。自分との差に密かに落ち込む。
こういう人こそクロアちゃんのタイプなんじゃなかろうか。ナガセさんが捕まえてくれてよかった。いつか時間がある時に、2人の馴れ初めとか聞いてみたいな。
そんなことを思う内に、ミマサカ魔具アンダス支社からはちょっと歩いたところにある、庭付きで広そうな一軒家に到着したのだった。
「どこかな?どこかなー?」
「………」
「……………」
「みつけたー!」
「きゃー!みっかったー!!」
「にげろー!」
「まてー!!」
俺は今、ナガセさんの子ども達とエンドレス隠れんぼ兼追いかけっこに勤しんでいる。
ルーヴ家に着いてナガセさんと久しぶりーっと言い合った後、ヒトの男の子と獣人の女の子の2人(どちらも両親に似てとても可愛い)を紹介されたのだけど、俺は一瞬で遊び相手認定されたようでお土産を渡すのもそこそこにこの状態。
たまに捕まえて高い高いしてやると、めちゃくちゃテンションが上がって楽しそうだ。そしてまた逃げて隠れてを繰り返している。
「こら、2人とも。カナトお兄ちゃんは長旅で疲れてるんだからそれくらいにしなさい。ほら、お兄ちゃんが持ってきてくれたイチゴジュース飲む人!」
「のむー!」
「あたしもー!」
見かねたナガセさんがジュースで子ども達を釣って、遊びを強制終了させた。
「ごめんね、ササマキ君。ついて早々…」
「いえ、今日お世話になるしこれくらい大丈夫です」
「ありがと。さ、ササマキ君も喉乾いたでしょ。これどうぞ」
そう言ってナガセさんが渡してくれた飲み物を飲むと、レモンの爽やかな香りとハチミツの甘みがすっと喉を通っていく。
「わ、これクリスタルビーのハチミツ使ってますよね。めっちゃ美味しい!」
「そうでしょ。クロアちゃんのお父さんがたまに持ってきてくれるのよ」
「ははっ、まだ付き合い続いてるんですね」
「そうなの。クロアちゃんのお兄ちゃん達もたまに子供たちと遊んでくれるし、こっちも助かってるわ」
にこやかに笑うナガセさんは幸せそうで、なんだかこちらも胸が温かくなる。6年前に結ばれた縁は、まだまだこうしてしっかりと続いているらしい。それを目の当たりにすると、不思議な感動を覚えた。
初めてクロア父を見た時はその貫禄に2人とも顔が引き攣ったものだが、こうして良い関係を築けていて何よりだ。クロア父が体を小さくしながらがナガセさんに娘のことを頼んでいた姿が懐かしく思い出される。
穏やかな気持ちで周りを見ると、ご飯前だからと控えめに注がれたイチゴジュースを、子ども達はあっという間に飲み干したようだった。けれど一旦座ったら自分たちが疲れていることに気がついたのか、座ったまま大人しくしている。
ちなみにシルウェンさんは注文しているというポロの丸焼きを取りに出かけている。ポロの丸焼きは野菜やパン、ハーブを中に詰めて焼き上げるのが一般的な、見た目も映えるパーティー用の料理だ。アンダスではお祝いなどの席で出されることが多いが、その場合はひときわ大きなポロを使うので、お店に発注するのが一般的なのだ。わざわざ頼んでくれたみたいで、その心遣いが嬉しい。
さて、もうすぐ夕食の準備もできるらしいので、それまで子ども達にスノーモップのお話でもしてあげることにしようか。ぬいぐるみ気に入ってくれたらしいし。
そう決めて、忙しそうにたくさんの料理を並べているナガセさんからちょっと離れたところで、子ども達に遠くフロレスのお話をしてあげたのだった。




