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26:アンダスへ向かう旅

「うわぁ、おっきなお肉っ!美味しそう!」

「なんか見るだけでお腹いっぱいになりそうだ…」

「食べよ食べよ!あんまり動いてないはずなのに、なんかお腹減った!」

「確かに、じゃあ食べますか」


 俺とクロアちゃんは今、アンダスとトウワコクの間の街の宿屋にいる。アンダスは距離があるので、列車も一日では移動できないのだ。


 雑誌で宿の料理が豪快でおすすめ!とあったので興味本位で予約してみたのだが、本当にどーん!という感じの巨大なステーキが出てきて驚く。ナイフが添えられていて切り分けて食べるのだが、2人用でも結構大きいと感じるのに3人前や4人前もあるらしく、隣のテーブルの一行はこちらよりさらにデカいステーキを前に大笑いしていた。


 豪快極まりない料理に、クロアちゃんはテンションが上がった様子で目がキラキラしている。添えられた野菜も大きめにカットされていて、迫力がすごい。

 確かフォレスオックス(牛型モンスター)の肉だったと思うけど、低温でじっくり火を通しているらしく、切り口は綺麗な赤色でとても柔らかい。


「どう?お味の方は」

「おいしいよ!これ色々ソースもあって楽しいね」

「んー、本当だ。お肉自体も美味しいね。ソースも全部試さないと」

「ね、試さないと」


 たまにスープやパンに手を伸ばしながら、お肉の塊を2人で攻略していく。ソースの種類があるおかげで、思ったよりお腹に入っていく。とはいえ、割と脂もしっかりあるお肉なので、途中で攻略の手は止まってしまった。


「うぅ〜っ、悔しい。でもお腹いっぱい」

「俺も。でも悔しがらなくてもランチボックスセットにしてるから、残りは加工してもらって明日列車の中で食べられるよ」

「そうなの?なら、いい…」


 と言いながらまだ悔しそうな表情をするクロアちゃんに、ちょっと笑ってしまう。クロアちゃんは小柄だけど健啖家で、美味しそうにパクパク食べてくれる様子は見ていて気持ちがいい。だからこの宿選んだんだけどね。安全面も問題ないみたいだったし。


「さ、お腹いっぱいになったし部屋で休みますか」

「ん、そうだね。明日の夕方にはアンダスかぁ、久しぶりにみんなに会えるの楽しみ」

「そうだね、俺なんて5年ぶりだもん」

「そんな昔なんだね。懐かしいなぁ」


 5年前からすっかり大人になったクロアちゃん。その胸元にはアダマスのネックレスが光っている。上品な輝きの宝石が似合う素敵な女性になったクロアちゃんと、こうして一緒にアンダスへ向かう旅をするなんて、あの頃は想像さえしていなかった。


 そして、そんなクロアちゃんに恋をしている自分なんて、それこそ予想外すぎる。きっと過去の自分にこのことを知らせても、5年前の自分はきっと信じないだろう。

 なんだか不思議な気分になりながら、当てられた部屋へと移動する。


「何かあったら遠慮なく呼んでね。ちゃんと部屋の鍵閉めるんだよ」

「ん、わかった!じゃ、カナトまた明日ね。おやすみ」

「うん、おやすみ」


 クロアちゃんが部屋へ入るのを廊下で見送って、俺も自分の部屋へと戻る。部屋自体はこぢんまりしていて広くはないけど、清潔に整えられていて、食事を抜きにしてもまたこの宿を選んでもいいかななんて考えながら、休む支度に入った。

 汚れを落としてベットに腰掛けると、意外と疲れていたのかすぐに眠気が襲ってきた。

 ちょっと早いけど、もう寝ちゃおう。

 そう決めてあかりを消すと、すぐに眠りへと落ちて行った。







 トウワコクの冬の長休みは12月の終わりから1月の下旬まで、会社勤めの人にとっては一年で一番長い休みだ。だから大半の人はその間に故郷に帰り、普段離れている家族と過ごしたり、遠方へと旅行へ行ったりする事が多い。


 逆に宿や土産屋などは繁忙期なので、その間はフルに仕事をして、長休みが終わった頃にポツポツ長期休業のお知らせを掲げている。

 ビスリーも似たようなものだが、トウワコクよりは冬の休みが短くて、その分夏の休みが長い感じだ。


「もうすぐ着くねー」

「うん、長かったぁ」


 今日も朝から列車に乗って移動だ。ずっと座っているのも結構しんどいよね。景色も飽きてくるし、楽しみはパンにサンドされた昨日のお肉がメインの、華やかなランチボックスを食べるくらい。


 たまに足や背中を伸ばしながら時間を過ごして、今は夕方間近くらいの時刻。やっともうすぐアンダスへ到着だ。


「お父さんはもう休みなの?」

「うん。家でご馳走作って待ってるからなって手紙に書いてあった。迎えは兄ちゃんがきてくれるみたい」

「そっか。俺実は、初日はナガセさんちにお呼ばれしてるんだよね。それ以降はミマサカ魔具近くの宿だけど」

「え!ずるい!あたしもマキのとこ行きたい!」

「だーめ!ちゃんとお父さんたちに家族サービスしてきなさい」

「うーっ、いいもん。あたしもちょっと先だけどマキとお泊まりの約束してるもん」


 ちょっと拗ねた様子のクロアちゃんだが、娘が帰って早々に別の家に泊まりに行ったらクロア父の方が拗ねてしまうだろう。家族も大切にしないとね。まぁ、俺は実家に帰ってくるなって遠回しに言われたけど!近くに住む息子の扱いなんてそんなものだ。


「あ、速度落ちてきたから降りる用意しなきゃ」

「ん、忘れ物なし!大丈夫!」


 そしてようやく、5年ぶりのアンダスへ到着したのだった。



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