20:可愛い彼女さん
「うわぁ、雪だあ」
「あらら、結構降ってきたねぇ」
今日はクロアちゃんと休みが被ったので、トウワコク列車で少し遠出していた。目的地はイチゴ農園なのだが、列車から見える景色は雪で霞んでしまっている。
「ね、こっちって雪積もるの?」
「んー、積もることもあるよ。そういえばアンダスはあまり積もんないね」
「そうなんだよね。前絵本で見たことあるかまくら?あれ作ってみたかったんだけど、ぜーんぜん雪が足りないの」
「ははっ、ミマサカもカマクラ作れるほど積もることは少ないね。でも、もう少し北の地域へ行けば積もるよ。今度行ってみる?」
「うん、行きたい!」
「じゃあ年明けてからが雪多いから、その頃休みが合う日に行こっか」
「やった!」
喜ぶクロアちゃんに満足していると、ゆっくり列車が減速し、目的の駅が近づいてきた。
あいにくの天気になっちゃったけど、まぁ温室の中は暖かいし大丈夫でしょう。
「じゃ、ここで降りるから荷物確認してね。忘れ物すると大変だから」
「ん、大丈夫!」
「よし、じゃあ出ようか」
同じくいちご狩り目的なのか、家族連れなども数組同じ駅に降りる。みんな口々に寒いねーと言ってしまうほど、外に出た瞬間寒さが身に染みた。
まぁ、フロレスに比べれば全然マシだと思ってしまうあたり、俺は5年の間に寒さ耐性を身につけていたようだ。
「ふわぁ、寒い」
「結構冷えるね」
「うん。カナトにもらったコートのおかげで体はあったかいけど、耳は痛い…」
「あー…」
耳か…。
今日のクロアちゃんは、俺が去年フロレスで見つけて送った白い毛皮のコートを着ている。着ている姿を見られるとも思ってなかったのでとても嬉しかったけれど、フードは付いていないので耳は外気にさらされたまま。
フロレス仕様で見た目以上に暖かいはずだが、耳って結構寒さに直結する器官だから辛いよなぁ。とはいえ、ちょっと田舎でイチゴ狩り推しのこの駅周辺には、さすがに帽子とかは売ってないだろうし。
「温室ついちゃえばあったかいと思うから、少し我慢してね。でも、あそこのお土産屋さんに先に寄って行こう、傘くらいは売ってると思うから」
「うん、わかった」
駅に降りた面々も、雪の中を元気に走る人たちと、俺たちのように傘を探しに店に寄る人に分かれている。
傘があることを祈って、とりあえずそのお土産屋さんに向かったのだった。
生のイチゴや、イチゴジャム、イチゴを練り込んだパンやお菓子。
さほど広くはないお店だけど、イチゴを使った商品が色々並んでいてなかなか面白い。帰りにもう一回寄ろうかなぁと思いながら傘を探す。
すでに手に持っている人もいるので売っているのだろうが、それってイチゴ柄では…。
「あ、傘あそこに置いてあるよ」
「本当だ。てか、イチゴ柄の傘しか置いてないとか徹底してるね」
この地域のイチゴ愛を感じていると、ふと傘の近くの棚に目が行った。こ、これは……!
思わず近寄って手に取ると、不思議そうなクロアちゃんも近づいてくる。その無防備な姿にいたずら心が湧いてきて、手に持ったものをえいやと被せた。
「ぷっ…!」
「え?え?なにこれ!?」
笑いを堪えられなかったこちらに不穏なものを感じたのか、クロアちゃんが被せたものをパッと取ってしまう。うーん、残念。
「え、なにこれイチゴ?」
「そうそう、イチゴのニット帽」
なんというか、赤い果肉の部分だけを模してくれたらいいのに、わざわざニット帽の先に緑のヘタ部分がついているので、なんとも面白い仕上がりになっている。
「もー!」
「いやでも、可愛かったよ」
「うそだ!カナト吹き出したもん!」
キッとクロアちゃんがこちらを睨むが、可愛かったのは本当なのになぁ。
「嘘じゃないって。それにさ、ニット帽があると耳だいぶあったかいと思うよ?」
「それは…」
「痛いのイヤでしょ?」
「う、でも…」
「いいじゃん。こんなところで会社の人に会うこともないでしょ?俺しか見ないんだからあったかい方がいいよ」
「う〜」
「決まりー!」
パッとクロアちゃんからイチゴニット帽を取り上げて、傘と一緒にお会計へと持って行く。
でも!とかうーっとか言いながら、外の寒さに怯んで強く俺を止められないクロアちゃんが隣で苦悩している。支払いをしながらその様子を笑いを噛み殺してみていると、年配の店員さんがはははっと豪快に笑った。
「仲良しだねえ。まぁ、こんな可愛い彼女さんだもんね。めろめろってやつかい?若いっていいねぇ」
「へっ…?」
思いがけない言葉に一瞬固まってしまうが、ハイっと傘とニット帽を渡されて我に返る。隣のクロアちゃんをこっそりみると、顔を赤くして固まっていた。
あー、うん。まぁ嫌悪感はないみたいでよかった…。
「えっと、どうも…」
「これからいちご狩りなんだろ?また帰りに寄ってちょうだいな」
「はい、また寄ります…」
「毎度ありぃっ」
元気のいい店員さんに送り出されて、店の外に出る。
外はまだ雪が降り続いていてすごく寒いはずなのに、なんだか顔は暑いくらいだった。




