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11:とことんついてない日

 急激に気温が下がり、すっかり冬の寒さが定着してきたある日のこと。


「あちゃー、ちょっと遅くなっちゃったな…」


 本社勤務になって、普段はほとんど残業はないんだけど。今日は新人くんが終業間際に試験素材の入った容器を盛大に落として割ってしまったため、片付けと後処理に時間を食われてしまった。


 クロアちゃんとは待ち合わせの時間を決めていて、こういった突発的な残業を考慮し、お互い長くても待つのは10分で、それを過ぎたら待つのはやめて帰ろうねと約束しているのだ。普段の時間より20分は遅いので、きっともう帰ってしまっているだろう。


 残念だけれど、仕方がない。

 ちょっと寂しく思いながら帰り支度をして、会社の外へ出て…。


「んん⁉︎」


 見知った二人の人物の姿が目に飛び込んできて、内心モヤッとしながら足早にそちらへ向かった。


「セノぉ?」


 そう、チャラ男系イケメンのセノだ。また性懲りも無くクロアちゃんにちょっかいをかけているのかと、後ろからガシッと肩を掴んだ手に、自然と力が入る。


「そんなにビスリーで勤務したかったの?ならそう言ってくれれば、すぐにでも人事に伝えておいてあげたのに」

「えっ、待って違うって!ほら、オルソーちゃんの会社の人と合コンとかどうかなーって思ってさ!ここ!ミマサカの人!」

「へー?」


 振り返って慌ててこちらに言い募るセノ。うん、やっぱり君はビスリーに行ったら良いよ。国が変わればその浮ついた性根も少しはマシになるかもしれない。


「ね、ササマキなんか怖いこと考えてない?オルソーちゃんもなんか言って!俺身の危険を感じるから!」


 必死にクロアちゃんに助けを求めるセノをどうしてやろうかと考えていると、あの…とクロアちゃんが声を出してきた。


「会社の先輩にね、ミマサカ魔具の人紹介してって言われた事があったの。だから、ちょうど良いかなって」

「あー…」


 うーん、なるほど。うちの会社そこそこ大手だし、ご縁があれば!って思う人がいてもおかしくないか…。


「ほら、ね!ササマキだって彼女は歳の近い人がいいんでしょ?なら良い機会じゃん!一緒に合コン行こ!新しい出会いは必要だよ?独り身寂しいでしょ?」

「はぁ⁉︎セノが合コン行きたいだけでしょ!」


 大体、今彼女なんか作ったらクロアちゃんとご飯食べにいけなくなるし。ほんと余計なお世話っ!とイラっとしていると、なぜか隣からへぇ、という冷たい声が聞こえてきた。


「カナト、年の近い彼女が欲しいんだ」

「えっ⁉︎クロアちゃん、俺そんな事一言も言ってないから!セノが言ってるだけだから!」

「でも10歳下の子狙う男はヤバいって俺のこと貶したよね?」

「ちょ、」

「ふーーーん」


 何だろう、なんだかよく分からないけどすごくマズい気がする。自分が何に焦っているのか掴めずに内心混乱していると、クロアちゃんにキッと睨まれた。


「あたしだって、もう成人してるの。大人なんだから!」

「ご、ごめん。子ども扱いしてるわけじゃなくて…」

「あたしも合コン行く!」

「ええ⁉︎ちょ、まっ、」

「いいね、オルソーちゃん。年の近い将来有望な男見繕っとくよ。5人ずつくらいでどうかな?これくらいの時間で、この一本向こうの通りのソワリってお店。予約は俺がしとくから、4日後の夜で都合が合う人集めといて」

「わかりましたっ!」

「え、うそ、ほんとに⁉︎」


 オロオロしていると、なぜか満面の笑みを浮かべたセノに肩を抱かれた。


「サーサマキっ。今なら合コンのメンバーに入れてあげてもいいよ。どうする?」

「え、その…」


 言葉に詰まると、セノがコソッと耳元で怖いことを囁いてきた。


「オルソーちゃんがお持ち帰りされても良いの?」

「お、俺も参加するから!」

「おっけー」


 にっこり笑みを浮かべるセノに何だか敗北した気分になっていると、クロアちゃんが、じゃ、と声を出した。


「あたし合コンの準備で忙しいから、4日後までここには来れない。今日ももう帰るね」

「え…」

「おやすみなさい!」


 ぷいっと顔を背けて去っていくクロアちゃんの姿をなすすべなく見送る。


 ほんとに何なの。今日はとことんついてない日なの。

 呆然としていると、まだこちらの肩を抱いたままだったセノに、呆れたような目を向けられた。


「ね、取られるの嫌なら捕まえるしかないよ。恋愛ってそういうもんでしょ?」

「恋愛…?」

「ま、4日後ね。ササマキに参加費多く出してもらおーっと」


 そう調子の良いことを言って去っていくセノを見送りながら、まだ混乱が解けない俺は、しばらくその場に立ち尽くしたのだった。





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