5:愛があれば歳の差なんて
ポーンと終業時刻を知らせる鐘が鳴り、もうそんな時間かーと思いながら、椅子に座ったまま思いっきり伸びをする。
今日、クロアちゃんは仕事が休みの日だから、夕食は一人だ。外食が続いてるし、軽く食材買って帰って自分で何か作るかなぁなんて思いながらまとめ途中の資料を片付けていると、肩にずしっと重みが乗っかった。
「サっサマキー」
「何なのもぉ」
声でわかる。昨日クロアちゃんにいらないちょっかいをかけたセノだ。わざわざ他部署からこちらへ来るなんて暇人さんかな。
「ねね、今日もあの子お迎えに来るの?」
「ざんねん今日は来ません来ても会わせませんっ!」
「えー残念。獣人のお友達とか紹介してもらおうと思ったのに」
「てか、また彼女に振られたわけ?」
こちらの肩に腕を乗せて邪魔している奴を見上げながら問う。チャラいモテ男とはいえ、流石に彼女がいるのに他の女性を紹介してもらおうとする奴でもなかったはずだ。
「そうなんだよね。俺ってそんな不誠実で将来不安そうな男に見える?これでも浮気とかはしないの!一途なの!それをさ、信用ならないとか何考えてるのか分かんないって、それこそなんなの。酷くない?酷いよね⁉︎」
またそれで振られたんだと思いながら、ぷりぷり怒っているセノに白けた視線を送る。
「俺、セノの元カノさん達の気持ちはわかるわ」
「ねぇ誤解だよそれ。俺は意外と一途だよ。浮気しないし給料もそこそこだよ。お買い得だよ?だからお友達紹介して?」
「ごめん、俺女の子を不幸にする趣味はないんだ」
キッパリお断りして、肩に乗せられていた腕をペイっと払う。
大体、こう次々と彼女が変わっていくのが信用ならない。本当に相手を好きなのかを疑ってしまう。その行動力はちょっと羨ましいとか…思ってない!思ってないから!
何となく悔しい思いをしていると、まだ諦めないセノがグッと顔を近づけてくる。
「心配しなくても、昨日の子はササマキが狙ってるなら俺は手ェ出さないよ?ただお友達紹介して欲しいだけ!獣人のお嬢さんとお近づきになれるチャンスとかあんまりないし?美人の友達は美人が多いし?」
「いやいやいや、狙ってないから!相手18だから!セノも18歳位の子紹介されたら困るでしょ?」
「18なら全然ありじゃん。成人してたら問題なし!」
「ええ⁉︎」
キッパリ言い切るセノに若干引いてしまう。
「俺、成人したての子を狙う28の男とかヤバいと思うんだ。うん、ヤバい。ふつーにヤバい」
「ねぇ本気で引かれるとさすがに傷つくんだけど」
セノが悲しそうに眉を下げる。
「ササマキが頭硬いんじゃない?愛があれば歳の差なんてって言うでしょ。成人済みなら問題ないし、10歳の歳の差がなんだっていうわけ?そんな変態扱いしなくても…」
傷つきました!みたいな目でこちらを見つめてくるセノ。とてつもなく面倒くさい。
ため息が出てくる。
「そもそもさ、あの子研修で1年だけこっち来てるだけだし、出身はアンダスなんだよ。アンダスの友達紹介されたって、セノは遠距離恋愛とかできるの?」
「えっ、アンダス?ほんとに遠距離じゃん」
渋い顔をしたセノは、うーんと考え込む。
「まぁ、セノがそんなに獣人に興味あるとは思ってなかったよ。人事に言っとくね。セノがビスリー行きたがってましたって」
「ストップ!ササマキ、早まらないで。俺マジでそろそろ国外飛ばされそうなんだからっ、洒落にならないからっ」
「いい機会じゃん、見識を広めてきなよ」
「トウワコクの近くならいいけど、ビスリーは広くて当たり外れが大きすぎるじゃんか!ササマキだって、リシール支社には行きたくないでしょ?」
あー、列車からかなり遠い砂漠地域かぁ。火系の魔液改良が主軸の支社だけど、水が貴重で昼は暑くて夜は寒い。
いや、火系の魔法は重要だよ?料理用加熱機も給湯設備も暖房設備も欠かせないものだし…うん、でもなぁ。街中にも容赦なくサラマンダーやブレイズスネークが出るらしいし、俺でもさすがに躊躇するかも。
「まぁねぇ。アンダスはもう一回行きたいんだけど」
そう返すと、セノが心底不思議そうな顔をこちらに向ける。
「ササマキって仕事のフットワークは軽いのに、何でなかなか彼女はできないわけ?」
「余計なお世話だこのチャラ男!」
くっそーっ、自分がモテるからっていい気になって!今度クロアちゃんにちょっかい出すようなことがあったら、絶対人事にセノのビスリー派遣をおすすめしてやる!
腹が立ったので、まだ何か言い募るセノを完全に無視して帰りの支度を整える。
見てろよ!俺だってそのうちめっちゃ可愛い彼女作ってセノに自慢してやるんだから!




