2:素敵なお嬢さん
クロアちゃんが、びっくりするような美人に成長していた。
その衝撃に、いまだにうまく頭が働かない。小さかったクロアちゃんと、目の前の蠱惑的とも言える綺麗なお嬢さんとのギャップが大きすぎて、頭の中は真っ白だった。
「カナト?」
そんな俺に、クロアちゃんは不思議そうに首を傾げている。そのぱっちりとした目が印象的な顔も、メイクのせいか可愛らしさよりも大人っぽさがほのかに香る。
目の前の女性にどう接したらいいのか、衝撃が大きすぎて正解なんてまるで頭に浮かんでこない。
「クロア、ちゃん。大きくなったね…」
なんとか当たり障りのない言葉を捻り出すと、目の前の女性はふふんと言うように腰に手を当てて、それからくるりと全身を見せるように一回転してくれた。
「どう?カナトがびっくりするような美人になった?」
その言葉に、一瞬息が詰まる。
『あたし、カナトがびっくりするような美人になってるからね!覚悟しててね!』
それは、5年前。ビスリーでお別れする時、クロアちゃんが俺に言ってくれた言葉だ。
ああ、懐かしい。結構昔のことなのに、まだ覚えてくれてたんだなぁ。じんわりと昔の記憶が蘇り、真っ白だった頭が少しずつ動き始める。
よく見ると、その胸元には俺が贈ったアダマスのネックレスが輝いていた。
「うん。…うん、すごくびっくりした。綺麗になったね」
「ほんと?」
「ほんと。アダマスが似合う、素敵なお嬢さんになった」
「へへっ。嬉しい!」
ほんのり頬を染めて笑う目の前の大人びたクロアちゃんに、かわいいと言われて照れながら喜んでいた幼いクロアちゃんが重なる。
ああ、クロアちゃんだ。
目の前にいるのは、ちゃんと俺の知っている、クロアちゃんだ。
その事実がようやくすとんと胸に落ちてきて、密かにほっと息を吐く。
そうして心が落ち着くと、そもそもなぜクロアちゃんがここに?という疑問が湧いてくる。
「クロアちゃんは、なんでこっちにいるの?」
「あたし、ミマサカ本社の服飾関係会社に就職したんだよ。勤務地はビスリーなんだけど、最初の一年だけミマサカで研修なの」
「そうなの⁉︎」
「うん。カナトびっくりさせようと思って内緒にしてたの。今日はあたしもびっくりしたけど、会えてよかった!」
「俺、今日やっとこっちに帰ってこれたんだよ。すっごい偶然だね」
「そうだったんだ。そういえば、大きな荷物持ってるね」
クロアちゃんの視線が、地面に放置されている旅行バッグに向けられる。
「実はまだ新しい家にも入ったことないんだ。しばらく片付けに追われちゃうけど、良かったらクロアちゃんがお休みの日に、食事でも付き合ってくれると嬉しいな」
「うん!次の休みは3日後だよ!空いてるよ!」
キラキラ目を輝かせて喜んでくれるクロアちゃんに、こちらも嬉しくなる。
「ちなみに家はこの辺り?」
「フロージュってお菓子屋さんの近く。カナトの会社は、ちょうどあたしの会社からの帰り道なの」
「あ、俺の新しい家もそこから遠くないところなんだ。じゃあ、3日後フロージュの前で待ち合わせしようか」
「うん!」
そうして、ちょうど会社から帰るところだったらしいクロアちゃんと一緒に、家に帰ることになった。
最初は衝撃で声も出せなかったけど、こうして会話を重ねるとだんだん懐かしさで口が滑らかになる。途中、クロアちゃんにお互いの呼び方について問われたけど、現状維持でお願いした。なんか今更「カナトさん」とか呼ばれてもむず痒いし!落ち着かないし!
そんな感じで、話したいこと聞きたいことがたくさんあって、クロアちゃんの家まではあっという間だった。
名残惜しいけど、3日後の約束を楽しみに、新居の整理に励むとしよう。
体は疲れているはずなのに、思いがけない再会で家へと向かう足取りはとても軽く、遠かった思い出が鮮やかに今に反映されたことに、どうしようもなく嬉しさが込み上げていた。
素敵な感想をくださった方、ありがとうございました!
これからゆっくりペースで後半も投稿していきます。




