13:いやいやいやいや
「カナト!お前アンダス支社では随分評価高かったぞ。そこでだ!10月から新しく開設するフロレスのノース研究所で、是非その才能を発揮してくれ!」
「いやいやいやいや、マジっすか⁉︎」
帰国して半年。
やっと本社での勤務も少し落ち着いてきたと思ったら、まさかまさかの転勤を告げられてしまった。
「え、てかフロレスってあのフロレスですよね?ノースって…」
ビスリーとは反対側の隣国経由でしか行けない極寒の地のさらに奥地じゃなかったか…?秘境すぎて逆に知ってるみたいな扱いの…?
「まぁ、雪に囲まれたちょっとばかし住みにくいしめちゃくちゃ遠いし帰国もなかなかな環境だが、お前彼女もいない独り身だろう。
あそこは他では見られない氷系統のモンスターが多いし、よりよい氷系の魔液が開発できるんじゃないかと踏んでるんだ。
ほら、火系統はかなり研究進んでるが、氷系統はまだまだだろう?研究結果によっては、ビスリーに次ぐ研究開発拠点として規模を拡大していく予定だから、やりがいは十分あるぞ!あと赴任手当と危険手当もかなり弾んでくれるらしい」
「危険手当…」
「ま、まぁ素材とってきてくれるのは現地で提携する冒険者協会だし、ビスリーのリシールみたいに街中に頻繁にモンスターが出てくるってこともないから、襲われるとかの危険は…少ないぞ。ただ、凍死にだけは気をつけろよ」
「…」
「フロレスはヒトと獣人が同数程度の国だが、どちらも色白美人が多いらしいぞ!健闘を祈る!」
「くううぅぅぅ、わかりましたよ!」
どっちにしろ、平社員の俺には断る権利とかないしっ、どーせ彼女もいないしっ!ヤケクソ気味に了承の返事をして、ふと大事なことを確認していなかったことに気がつく。
「あの、ちなみにどの程度?2〜3年くらいですか?」
「いや、5年くらい腰を据えて頼む。移動も大変だしな」
「うわーん!」
俺の悲痛な悲鳴に、運良く僻地送りにされなかった同僚たちが哀れみの眼差しをくれる。
「ま、5年は長いが、間違いなく出世コースだし、それだけ奉公したら次は希望の配属地も聞いてもらえるさ。たぶん」
上司が慰めなのか何なのかわからない言葉をくれるけど、たぶんって何なのたぶんって!
ぐぬぬぬぬっと何とも言えない衝動を堪えながら、これだけは言っておかねばならない!と上司に殺気のこもった視線を向ける。
「俺、赴任前に有給休暇ぜーーーんぶいっぺんに使い切りますからね!支度とか挨拶回りとか謝罪とかありますからね!まとまった休み貰いますからね‼︎」
「ぐ、まぁ、それくらいなら大丈夫だ。今からは基本フロレスの予習になるから、日程調整くらいはしてやる」
「どーもありがとうございますっ」
くっそー!3年外国で働いたらしばらくは国内だって言ったじゃんか、嘘つき!
クロアちゃんに列車使えばすぐ会えるとか言っちゃったのに、5年間は帰国もままならない遠方に飛ばされちゃうとか…。
心の中で号泣しながら、絶対赴任前にクロアちゃんに会いに行こうと、固く決意したのだった。




