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11:すごい!

「カナトー!」


 休み明け。

 ちょうどナガセさんとの店番の曜日だったので期待しながら待っていたら、閉店直後の時間にクロアちゃんが遊びにきてくれた。


「クロアちゃーん!どうだった?お祭り楽しんでくれた?」

「うん、すっごくすっごく楽しかった!カナトかっこよかったよ!クジラすごかった!」

「お魚は?」

「可愛くて美味しそうだった!あとあと、お花もすっごくキレイだった!ありがとうっ」

「うんうん、喜んでくれて嬉しいよ〜!」


 キャッキャとクロアちゃんと盛り上がっていると、それを見たナガセさんにくすくす笑われる。


「カナトくんは、クロアちゃんに喜んで欲しくて頑張ってたのよ。たくさん褒めてあげてね」

「カナト!すごい!えらい!かっこいい〜!」

「うーんっ、クロアちゃんいい子〜!」


 わしゃわしゃ髪を撫でると、きゃーと悲鳴が上がる。


「こらこら、ササマキ君。レディーの髪型を乱さないの!」

「えっ、また俺の非モテ要素が炙り出された感じですか⁉︎」

「そうかもねぇ」


 呆れた目でこちらを見るナガセさんから逃げるために、そうだ!と無理やり話題を変える。


「クロアちゃんにね、プレゼントがあるんだよ。いっつも会いにきてくれるお礼!」


 じゃーん、とクロアちゃんの前に隠し持っていたプレゼントを見せる。


「え、なになに?」


 くしゃくしゃになった髪を手櫛で直していたクロアちゃんが、耳と尻尾をピンとさせて目の前に差し出されたプレゼントに注目する。女の子御用達のお店だけあって、ラッピングも可愛らしく目を引くものだ。


 はいっと渡すと、ぱっと嬉しそうな笑顔が弾けた。


「カナトありがとう!」

「うん、気に入ってもらえると嬉しいな」

「開けてもいいの?」

「どうぞ!」


 ワクワクしているクロアちゃんをニマニマしながら眺める。側から見たら変な人かもしれないが、そんなこと気にしない。

 きらきらした表情でリボンを解いたクロアちゃんは、ラッピング袋を覗き込んでパアァァァっと顔を輝かせた。


「わ、すてき!」


 そう言ってクロアちゃんが手に取ったのは、まち付きの少し大きめのポーチだ。控えめな小花柄の生地が、大人の女性が持っていてもいいような上品さと可愛らしさを両立している。マグネットで留めるタイプなので、開け閉めも楽なはず。気に入ってもらえたようで、まずは一安心。


「ん?中に何か入ってる?」

「そうだよ、開けて見て」


 手に取った重みと感触で、中にものが入っているのがわかったらしい。

 促されてポーチを開けたクロアちゃんは、きゃーと声を上げた。


「すごい!可愛いものたくさんある‼︎」


 そして、鏡や櫛、アクセサリー、口紅などの小物を一つづつ歓声を上げながらポーチから取り出して、接客用の机に並べていく。


 一つ一つはさほど高価なものではないが、10代の女の子が日常的なオシャレに使うには十分なもののはず。

 夢中で並べた小物達を手に取っては置いて、また手に取っては置いてを繰り返すクロアちゃんは、本当に嬉しそうでこちらも笑顔になってしまう。


「ササマキ君、なかなかいいチョイスじゃない?ちょっと見直したわ」

「ふっ、俺の実力をやっと発揮できましたね」


 ナガセさんにも褒められて、鼻が高くなってしまう。いや、ミナさんのセンスにかなり助けられたんだけどね。ありがとう、ミナさん!


「カナトー!」


 と、心の中で恩人に感謝を送っていると、やっとポーチの中身の確認に満足したクロアちゃんが、ばっとこちらに振り向いて、そのままぎゅーっと抱きついてきた。


「どう?贈り物気に入ってくれた?」

「うん!すっごく嬉しい‼︎カナトありがとう、大好きっ!」

「うんうん俺も大好きだよぉ」


 ああ、両思いって素晴らしい!これならトウワコクに帰っても、たまには存在を思い出してもらえるだろう。


 もう、帰国までは1ヶ月ほどしかない。3年はあっという間だったけど、その中でもクロアちゃんに会ってからは、びっくりするほど時間が早く過ぎてしまった。

 もう少しここにいたいけれど、俺は悲しいかな、新人枠だ。ここアンダス支社は、研究所の中でも最も優秀な人が送られる、商品開発の要の場所。新人枠を消化してしまった後は、実績を積んで会社にここに配属すべき人材だと、認めてもらうしかないのだ。


 いつか、ベテラン研究員枠としてまたここに戻って来れたらいいな、と。そんなことを思いながら、小さくてあったかい体をぎゅーっと抱きしめ返した。




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