69話「最高神」
「……どういう意味だ?」
己より上位の存在であるミレイラのその言葉を、神龍はすぐに信じる事など出来なかった。
それもそのはず、ミレイラより上位となると、それはもう最高神に並ぶ存在という事になるからだ。
たしかに神龍も、あの少年の異常性には気が付いていた。
しかし、だからと言ってそれがミレイラより上位の存在だなんて言われても、にわかには信じられないのであった。
「言葉通りの意味。デイルは特別なの」
「……最高神にも匹敵するというのか?」
「最高神……そうね、その通り」
少し考える仕草を見せたミレイラだが、さも当然の事のようにそう言って頷いた。
だから神龍は、未だ信じられないもののここで嘘を付く必要性もない事から、一度ミレイラの言う事を真実だと考えてみる事にした。
最高神――。
それは、その名の通り神の中でも至高とされる七人に対する総称だ。
その七人の神は、同じ神でも神にあらず――いや、違うな。
あれこそが真に神なのだろう。
それ程までに、神龍、そしてミレイラから見ても雲の上もとい天の上の存在なのである。
そんな、言わば最強の存在である最高神達の争いを、過去に神龍も一度だけ目にした事がある。
あれは、以前悪魔の軍勢が天界へ攻め入ってきた時の事だった。
想定を大きく上回る悪魔たちの急な襲撃に、神や天使達での対処が難しくなってきた時の事だった。
突如天空から現れた、二人の最高神。
一人は、生命の神ガリオン。そしてもう一人は、秩序の神メリーナ。
二人はその圧倒的な力を行使すると、あっという間に悪魔達の軍勢を瞬く間に滅ぼし尽くしたのである。
その、あまりにも一方的な光景は、今でも神龍の記憶の中にずっと色濃く残り続けている。
あれこそが最高神の持つ力なのかと、そのあまりに一方的な惨劇を前に、助けられたはずの神龍は初めての恐怖を抱いたのだ。
もしあの力がこちらへ向けられたら……そんな事を考える事すら不毛に思える程、最高神だけは敵に回してはならぬ存在なのだとあの時強く思い知ったのである。
だからこそ、神龍は納得できないのだ。
あの少年に、至高の存在である最高神に匹敵する程の力が秘められているという話が――。
「ミレイラは、最高神の持つ力を知っているのか」
「ええ、よく知っている」
「そ、そうか。ミレイラもあの悪魔達との戦いにいたのだな……」
「戦い?」
神龍の言葉に、何の話というように首を傾げるミレイラ。
その様子から、どうやらミレイラは本気で分かっていない様子だった。
つまりミレイラは、あの戦い以外で最高神の力を知っているという事だろう。
思えば、ミレイラ自体が神龍よりずっと上位の神なのだ。
きっと神龍では知らぬ、上位者達の関係があるのだろう。
「いや、知らぬならよい。それよりもだ、あのデイルという少年について聞かせて欲しい」
「どうぞ」
「ああ、一先ず今の話はにわかには信じられないが分かった。そのうえで、何故ミレイラはそこまであの少年に肩入れしているのだ?」
「そんなの簡単。私はずっと、デイルを愛しているから」
「そ、それだけか?」
「一番重要なこと」
そう言って、それまでの無表情の中にも少しだけ笑みを浮かべるミレイラ。
こんな風に微笑むミレイラの姿など見た事が無かった神龍は、その言葉に嘘偽りなど一切ない事を理解する。
「つまりは、デイルは最高神にも匹敵する存在であり、そしてミレイラにとって大切な存在でもあるという事だな?」
「その通り。だから、これからデイルの事をよろしく」
それだけ言うとミレイラは、もう会話に飽きたのか立ち上がると「話をしたら、デイルに会いたくなった」と言葉を残して宿へと戻って行ってしまった。
結局何の話しかは分からないまま、この日の会話は終了してしまったのであった――。
◇
そんな過去のやり取りを思い出した神龍だが、今だからこそ神龍にも分かる事がある。
それは、ミレイラの言う通りこの少年には何かあると言う事だ。
奥底に眠る無限とも言える魔力だけではない。
一体化し行動を共にする中で、神龍はデイルにしかない特別な何かを感じ取っているのだ。
だから神龍は、もう一度デイルに問う。
「本当に、いいのだな?」
その言葉に、デイルの顔が更に強張る。
しかし、その手をぎゅっと強く握りしめながら、神龍を真っすぐに見据えながら口を開く。
「はい! 助けに行きますっ!!」
ミレイラにも劣る自分では、敵わない相手だという事は重々承知しているのだろう。
けれど、大切な仲間のために立ち上がろうとするデイルの覚悟に、神龍は満足し笑う。
「――よかろう。ならば、案内しよう」
「あ、案内?」
「ああ、ミレイラの居場所なら分かっている。我の背に乗れ」
こうして神龍は、デイルを自分の背に乗せる。
すると、これからどこかへ移動すると察したのだろう、イザベラ達が慌てて神龍のもとへと駆け寄ってくる。
「我も共に……と言いたいところじゃが、ここより先は我らではただの足手纏いなのじゃろう」
イザベラの言葉に、神龍は黙って頷く。
この世界の魔王と言えど、ここより先の世界では神どころか天使にも敵わぬだろうから。
「――ならば、我らは我らのすべき事をする」
「すべきこと?」
「ああ、我はもう一度魔族領へ戻る。そして、ガロンの大馬鹿ものを我らの手で封じる!」
ガロンとは、最高神より力を与えられたあの魔族のことか――。
しかし、ミレイラでも敵わなかった相手にイザベラ達で敵うのかと言われれば、答えはノーだ。
だから神龍は、独断で一つの決断を下す事にした。
それは神々の掟に反する行いであり、完全に私情というやつだ。
「よかろう。ならば、我が力を分け与えよう」
同じ事を最高神もしているのだ。
であれば、神龍が力を同じように力を分け与えたところで別に問題なかろうと、神龍はイザベラ達へ己の力を分け与える。
「――す、すごい! 力がっ!」
「よいか? 無駄死にだけは、するのでないぞ」
そう言葉を残し、神龍は一気に空をめがけて飛び上がる。
雲を突き抜け、天の割れ目の先にある眩い光の向こう――神界を目指して――。




