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第28話 最終的な現在の「四姉弟」と林忠崇の関係4

 林忠崇にしてみれば、会津の野村家と聞いた瞬間に、いわゆるピンと来るものを感じてしまいました。

 そして、自分の尽くせる限りの手管(その中には、知人である元老の山県有朋元首相を介した、内務省の裏情報まで含まれていました)を駆使して、野村雄が、自らの血を承けた孫らしいことを確信しました。

 ですが、その一方で。


 どうして、野村家は、野村雄と篠田りつの結婚を認めなかった、という想いがしたのです。

 また、結婚を認めなかったのは、当時の事情から分からなくも無いが、せめて岸忠子、岸家に対して、篠田りつの存在を伝えなかった、という想いがしてならなかったのです。


 この辺り、林忠崇が事の経緯を知った時期というのもあります。

 林忠崇が事の経緯を知ったのは、欧州から還ってきた後、第一次世界大戦終結後です。

 この時期、篠田りつの兄、篠田正は、第一次世界大戦終結に伴う反動不況到来、更に暴落相場の嵐襲来にも関わらず、千恵子の養育費を相場に投入することで、原資を確保して、逆に大儲けをしていたのです。

 暴落相場というと、皆が損をするように思われそうですが、実際には皆が損をするわけではありません。

 そうした中でも、一部の相場師は大儲けをしているのです。

 篠田正は、そういった一部の相場師の一人で、周囲からの評価が暴騰していました。


 そうしたことから、林忠崇の目からすれば、何であんな一流の相場師の妹との結婚に、野村家は反対してしまったのだ、確かに相場師といえば警戒するものかもしれないが、それにしても。

 本当に野村家が、篠田りつと野村雄との結婚を認めていれば、皆が幸せになれた、と思われたのです。

 我が息子ながら、全く人を見る目が無いな、と野村家に冷たい感情を抱き、その一方で、篠田千恵子や村山幸恵に対して、不憫極まりない、という想いを林忠崇は抱きました。


 そして、林忠崇の内心では、ある意味、悔恨、贖罪の想いというのもありました。

 自分が欧州出兵を叫ばねば、孫の野村雄が戦死して、曾孫の村山幸恵、篠田千恵子、岸総司、更にアラン・ダヴーが、結果的に父無し子にならずに済んだのでは、という想いです。


 また、日露戦争後、乃木希典将軍が、旅順要塞攻防戦で大量の戦死者を出したこと等について、明治天皇陛下に殉死するまで、自らの後悔の想いがずっと拭えなかったように。

 林忠崇にしても、第一次世界大戦で、遠い異郷の地である欧州、フランスで大量の戦死者を出したことについて、後悔の想いが拭えませんでした。


 そして、乃木将軍が2人の息子を戦死させ、そのことで世間の同情を買った一方で。

 林忠崇は、息子や孫がいなかったから、欧州派兵を叫べたのだ、という陰口を甘受せねばならない、という現実が、尚更、野村雄の戦死について、悔恨の想いを強めた、という側面があります。

 自分も孫を戦死させた、と決して言えない、という現実が、林忠崇の内心の哀しみを深めたのです。


 そして、岸忠子についても、林忠崇は冷たい想いを抱かざるを得ませんでした。

 当時の民法の原則に従えば、篠田千恵子を野村家に迎え、女戸主にして夫の野村雄の全財産を与え、自らは親権者として千恵子の面倒を見るのが、岸忠子の当然の義務でした。

 しかし、我が子の岸総司可愛さから、岸忠子は違法行為まで冒して篠田千恵子を野村家から追い出し、更に財産の2割しか篠田千恵子に渡さなかったのです。


 岸忠子の気持ちは分かるが、本当に篠田千恵子に冷たすぎる。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ということで、篠田りつを憎むあまり、篠田千恵子を憎むのは分かるが、物には限度があるだろう。

 そう、林忠崇は想い、篠田千恵子や村山幸恵に対して肩入れすることになるのです。

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