第一章21 《母親》
少し時間を逆戻りし――、
エリヴィラは急に教室の中に倒れたことで、俺は慌てて彼女を保健室に運んで、そこで零香はエリヴィラの様子を診た。
エリヴィラの汗を拭いてる間、零香と話してる内に、零香が緊張しちゃって、語尾に「っぽ」が現れた。
緊張になった零香は、俺を向こうを向けと言われた。 椅子に座った俺は、百八十度の回転で、彼女を背を向けた。
そして俺は彼女が落ち着くまで、背を向け、アホみたいに白いで透け透けのカーテンを見ていた。
ところが、まだ何分も経っていない内に、急に零香が大声で叫んだ。
「わああ!!」
その声があまりにもおおきかったので、思わず両手で耳をふさいだ。
ていうか、あいつが大声で叫ぶだなんて珍しい。
「どうした?!」
俺は焦って後ろを見たら、そこにエリヴィラが強く零香を抱いていたところを目撃した。
「私にも分からない・・・エリヴィラちゃんが急に飛び込んで来て、それでびっくりしちゃったから・・・」
にゃに? それで大きな悲鳴を上げたの?
「なんだ、俺はてっきりエリヴィラがなにか起きたと思ったなに・・・」
心配で損した。
「マーチ・・・」
エリヴィラが零香を見詰めながら「まーち」みたいな言葉を言い出した。
――は? まーち・・・? なんだそれ? ロシア語?
「ね、詩狼・・・こういう時、私、どうすればいいの?」
両手を肩の高さまであげた零香は、慌ててこっちを見ていた。
「ん? 普通に頭を撫でるでしょう?」
「それだけ?!」
信じられない表情した零香は驚く。
――そんなに驚くことなの?
「他になにか名案でもあるの? 俺が教室でやったように、お前も普通にエリヴィラの頭を撫で撫ですればいい」
実際、それが一番の方法だ――、
「――それに、癖になる」
「え? いまなんて言った?」
やっべ! 心の声をもれた!
「な、なんでもない! それより、やはくエリヴィラの頭を撫でてみて!」
俺は必死に誤魔化していた。
「う、うん。 分かった、やってみる・・・(ごくり)」
少し緊張になった零香は、彼女の手が少しだけ震えていた。
――そんなに緊張しなくてもいいのに・・・
「じゃー行くね・・・よしよし・・・」
零香が緊張過ぎて、ココロの声が漏れた。
そしてエリヴィラがニヤニヤと笑ってた。
「えへへへ・・・か、さん・・・」
――はい?
「え? 今、なんて言った?」
聞き間違え・・・だよね?
「詩狼、どうしたの?」
零香がエリヴィラのそばにいたのに、逆になにも聞えなかった。
「いや・・・さっきエリヴィラがお前のことを別の呼び方で呼んでいた気がしたが・・・聞き間違えだったの?」
もし聞き間違えといいですが・・・なんか前に似たようなことがあったような、ないような・・・
「は・・・別の呼び方? 私はなにも聞えなかったけど、詩狼の気のせいじゃない?」
零香が言いながら、すっかりエリヴィラの頭を撫でまくりだった。 俺も自分が聞き間違えを認め、エリヴィラに近づき、彼女を髪の毛を撫でた。
そしてエリヴィラが笑い声で返事をした。
「ふふふ・・・くすぐったいです、パーパ」
「ああ、ごめん」
俺はすぐに手を引いて、硬い笑顔で笑った。
――俺、なんか雰囲気をやらかした。
「ううん、大丈夫です。 パーパに撫で撫でされ、好きです。 あと、母さんに撫でるのも大好きです!」
「そうかいそうかい! それはよかったね~ね、零香」
「うん、私もエリヴィラちゃんの頭を撫でるが好きになっちゃったかも・・・」
ニヤニヤと笑っていた三人が、俺と零香は後でエリヴィラが言ったことを気づいた・・・
「「ええええぇぇぇぇぇええ??!!!!」」
驚き過ぎて、俺と零香が同時に叫んだ。
その叫びがさっきより大きくて、上にいた生徒たちが確実に聞こえてた。
「ど、どうしたんですか?! ふたりがなんでそんなに驚いているんですか?」
エリヴィラが今の状況に理解できていないようで、そわそわしてた・・・
――自分が言ったことを気づいてないのかー。
「驚くのさ! だって、お前が零香のことを「母さん」と呼んだよね?!」
「エリヴィラちゃん、なんで私をそんな呼び方で呼んだのっぽ?」
零香が焦りすぎて、語尾に「っぽ」が再び現れた。
「なんでと言われても・・・ただ、私をアクムから救われたのは母さんが私の手を握っていたから・・・あの暖かくて、強い力の手が私を守れたんです・・・」
エリヴィラが無意識に安心感を得た表情をした、その表情が俺に昨日のことを思い出した。
そう、あの表情が正に俺が始めて彼女から信頼された時と同じ表情をした。 もしそうだとしたら、エリヴィラが欲しがってるモノははっきりと見える・・・
そして俺は零香に近づき、彼女に頼んだ。
「零香、エリヴィラの願いを聞いてくれ。 彼女はただ不安で仕方が無いんだ・・・」
「でも私はつとめるのかな・・・」
不安そうな零香は、声が少しずつ小さくなっていた。
「大丈夫、零香ならきっともんだいないさ。 それに、俺はお前を信じてる、自信もって」
ニコリと笑った俺は、左手を彼女肩に乗せ、右手でグッドサインをしめした。
「詩狼はそう言うのならば・・・」
零香は少しだけ不安があって、俺の頼みを受けた。
「ありがとう、零香」
「礼は後でいいから・・・」
俺との会話が終わった後、零香はなにも言わず、エリヴィラを抱いた。
そして――
「大丈夫よ、エリヴィラちゃん。 母さんはここにいるから、ずっとそばにいるよ」
エリヴィラも言葉を言えず、ただ彼女の目から涙が溢れ出した。
あれは、喜び、と言うより、安心の涙だった。
「母さん・・・母さん!」
エリヴィラが強く零香を呼んだ。
「うん。 私はここにいる・・・よ」
そして零香はエリヴィラを慰めながら、零香の目に水玉が見えた・・・すると彼女も泣き始めた。 ふたりが一緒に泣いてた。
雰囲気のせいか、なんか俺にも泣きそうな気分になった・・・
――いったい何年ぶりだろ、俺と零香が泣くなんて・・・
よこで見とどけつもりだった俺は、なにも言わず、体が勝手に彼女たちに近づき、ふたりを強く抱いた。
三人揃って、一緒に泣いた。




