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フストリェーチャ  作者: 川崎雨御
第一章:春前の一連
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第一章19 《迫る恐怖》

 二時間目が終了後、健次がいつも通りにからかってる時、エリヴィラは急に大声で俺を庇った。

 その声が教室に強く響いた。


「エリヴィラ、ありがとうね。 俺を庇ってくれて」


 (なでなで・・・)


 エリヴィラに庇ったことを素直によろこんだ俺は、いつも通りに、彼女を頭をなでなでした。


「えへへへ・・・どういたしまして、パーパ」


 彼女も素直に笑っていた。


「私はパーパのためなら、なんでもする!」


「なんでも?!」


 っと、みんなは驚いたような表情でこっちを見た。


「ん? どうしたんだ? みんな。 そんなにジロジロとこっちを見てて・・・」


 さっきからみんなの視線が怪しくて、みんなにどうしてこっちを見ているときいたら――


「んん! なんでもないよ」


「そうそう、なんでもないなんでもない!」


 ――ホントか?


「別に羨ましい訳じゃないからね!」


 ――おい誰だ! 最後の言ったやつ!? 羨ましいだと? ・・・なんでやねん?


「ありがとう、エリヴィラ。 いつか頼みたいことがあったら、ちゃんとお前に頼むから」


「はい!」


「いったいエリヴィラちゃんになにを頼んでくれるの?!」


 っと、みんなは再び驚いたような表情でこっち見た。


「なんの騒ぎだ?」


 いきなり零香が教室に入った直後、他の連中は黙り込んだ。


 ――まただ・・・みんなが零香を見た途端、全員が静かになった。


「なんでもないよ、零香。 生徒会の用事、もういいの?」


「ええ、それで? さっきまであった騒ぎは?」


 零香は鋭い目で俺を睨んだ。


 ――やっぱ零香は無意識にそういう目付きで他の人を見ているだろ・・・じゃなくて! せっかく零香が戻ったし、彼女に話せばならないことを言おう。


「零香! ひるや――」


「おはよう、諸君! 元気してた? 先生は元気だぜ? 今日もがんばるぞー? おおー!!」


 俺がまたしても零香に話そうとした瞬間、先生が入った・・・


 ――これはなんの冗談?


「先生、今日も元気ですねー」


 っと、黒川(くろかわ)さんが奥村(おくむら)先生に言った。


 奥村先生はスーツを着るより、ジャージーを好む人だ。 いつもいろんな色のジャージーを着て、学校へ通うんだ。


「もちろん! 君たち若者も元気を分けてやろうか?」


「いやでーす」


「なんで?!」


 ショックを受けた先生が一瞬動揺した。


「バカがうつっちゃうからでーす」


「ひどいよ、黒川さん~」


「くはははは・・・」


 よって、みんなが笑った。 奥村先生の茶番に付き合って、約五分の間、クラス全員笑っていた。

 もちろん、俺とエリヴィラも一緒に笑った。 奥村先生は明るい人です、いつも生徒に元気を持たす人です、そして優しい。


 噂で聞いたんだけど、この学校に【奥村ファンクラブ】というモノがあるらしい・・・


「おお? あそこにいるお嬢ちゃんはもしかして刈尾先生が言ってた「ピンクの髪色をしている雪月花くんの遠い親戚のロシア人のハーフ」のエリヴィラくん?」


 ――え? 今なんて言った?! 全然分からなかった! ピンクの髪色を・・・にゃに?


「先生、また妙なセリフを言ってませんでしたか? いつもより長いです!」


「あれ? 俺はいつもそんな感じだったの?」


 今まで気づいていなかったの?! っと全員がココロの声は一致した。


「そうです!」


「そうだったのかー! こんな「メガネを持っているかっこよくてで面白い教師」、である俺がそんなミスを犯すなんて・・・反省しよう」


「いや、先生。 反省をするわりにはさっきからぺらぺらと自分への褒め言葉は言ってる――、もういいんです・・・ていうか、もうツッコミたくない」


 黒川さんはやっと諦めたんだ。


「っとふざけはこれくらいにして、授業を始めよ。 教科書を開いて」


 みんなはなにも言わず、一斉に教科書を開いた。


「よろし。 まずは、伊藤くん、読め」


「はい!」


 まるで兵士が上司に大きな声で返事をしたように、伊藤は顔を挙げ、敬礼のポーズを取った。


「ね、パーパ。 奥村先生がなんかさっきとの雰囲気は違うだけど・・・」


 ついにエリヴィラがその質問を俺に聞かれた。


「実は・・・奥村先生は授業に入ると、元の姿に戻るの」


「元の・・・姿? それは、どう言うことですか?」


「奥村先生はね・・・元兵士だったの、しかも上位兵士らしい・・・詳しいことは俺も知らないんだ」


「なるほど。 それでみなさんはあんなにピリピリと教科書を見ているんですね」


「その通り。 先生は授業以外のときはすっごく優しい先生ですが、授業に入るとまるで別人に代わったようで、物凄く厳しい先生になるの。 特にテストの時は――」


「そこっ! 私語禁止! 次あったら全校を三週だ!」


「あ、はい!」


「ひゃい!」


 座ったまま俺とエリヴィラが敬礼ポーズを取った・・・


 ――カッコウ悪い・・・


 あ、ちなみに奥村先生は地理と歴史科目の担当をしている。 「敵を知る前に、まず地理を知れ!」っと、奥村先生は現役の頃、よく言ったセリフだ。

 これは親父から聞いた話だ・・・親父と奥村先生は古い親友だったらしい、ふたりが新兵になった時から。


 こうして、息を詰まる空気と静寂の三時間目は始まった・・・



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「よし! 授業はここまで! よく頑張ったな諸君!」


 奥村先生が教科書を纏め、教室から出る前に、いつもの「優しいムード」に戻った。


 先生が教室から出た直後、クラスの連中が一気に力が抜けたように、全員がバテていた(零香以外)。


「つ、疲れた・・・」


「わ、私もです・・・こんな人、初めて見たんです」


俺とエリヴィラは全身がクタクタで、縛られていた緊張感が一気にほぐれた。


「でしょー?」


「だらしないね・・・このくらいはなんとも思わないわ」


 零香は突然俺の後ろに声を掛けた。


「ウッセッ! 俺は慣れねえよ、あんな息を詰まる空気が」


「じゃー鍛えてやろうか? 明日から」


 ――はー? 冗談だよね?


「明日から?! いや・・・無理無理。 ココロが準備は――」


「ツベコベ言わずに、明日の朝、五時で君の家の玄関で待ってる! じゃ!」 


「お、おい! 俺はまだなにも・・・行っちゃった・・・」


 俺が断る前に、零香が教室から出た・・・


「ったく・・・零香のやつ」


 ――可愛くねぇやつ、てか、五年前のやつはもっと人見知りの子だったのに・・・


「ね・・・パーパ」


 エリヴィラが俺の上から降りて、零香が行った方向を見詰めていた。


「どうした?」


「パーパとナイトさんは仲がいいのですか?」


 俺と零香の様子を見ていたエリヴィラが、好奇心で俺に質問をもうした。


 ――これはまた随分とストレートな質問だな・・・


「まぁー、仲がいいのは幼馴染みでもあるが・・・強いて言えば、俺が零香と仲良くしたいんだ」


 ――あいつが最近、つめたいしな。


「そうなんだ・・・でもどうして?」


「ん・・・大声で言えないけど・・・零香を守りたいんだ・・・小さい頃の時から」


 言ってすぐに自分がなにを言ったのか、分かってきた――、


 ――恥ずかしい! 誰も聞いていない・・・よね?


「そうだったのかー、でも私から見れば、ナイトさんは十分強い人だと思うが・・・」


「傍から見ればね・・・零香は幼児園の時から、と言うより、俺たちが生まれる前に知り合ったのだ」


「ん? それは・・・どう言うことですか?」


 やっぱこの子はその辺の知識がないんだ・・・それでいいかも。


「つまり、俺のお袋、いや、俺のお母さんと零香のお母さんは昔、同級生だったの。 そしてお互い結婚し、子供をできて・・・同じ病院で俺たちを産んだ。 だから俺と零香は生まれる前に知り合ったのだ」


 ――簡単な説明だったが、どうだった?


「おおーなるほど! だからパーパとナイトさんは、ええと・・・おさななじみ? なるほど、勉強になりました! ありがとう、パーパ! それで? どうしてパーパがナイトさんを守ろうとしたの?」


 さすがエリヴィラ、ちゃんと理解したみたいだ。


「簡単な理由だった。 あれは、幼児園の時、俺と零香は仲良く砂を遊んでいた頃・・・急に他の子が来て、零香に悪口を言って、砂で彼女を投げつけた。 「ばけもの」とか、「きもい」とか、「出て行け」とか・・・本当にあいつら酷かった、零香は頭を抱え込んで、泣いていた。 それを見た俺は、零香の前に立ち「やめろっ!!」っと強く叫んで、三人の子供と喧嘩した。 それで幼児園の先生に止めた後、零香はまだ泣き続けていた。 そして俺はこう思った、「れいかちゃんはぼくがまもる!」ってな・・・なんか恥ずかしいです、こんな昔話を言って・・・カッコウ悪いでしょう?」


「違います! パーパはかっこいいです!」


 エリヴィラが即否定した。


 ――なんかエリヴィラにそういわれて、感動過ぎて、ココロの奥に届いた揺れが、なみだが・・・


「パーパはすっごく偉いです! なぜなら、私のパーパですから!」


 自分するエリヴィラは、まぶしい笑顔を俺にさらした。


 ――あ~、まぶしい~。


「エリヴィラ・・・ありがとう。 なんかお前の言葉を聞いたら、元気なった!」


 本当にスゴイ、この子。


「ところで、パーパ・・・」


「ん?」


「次はなんの授業ですか?」


「え?」


 エリヴィラがその質問に答えする俺の反応は――、


 ――あれ? なんだっけ・・・


「ええと・・・科目の時間割りは教室の入り口にある。 見える?」


 教室に入って、すぐ右に科目の時間割りが貼っていた。 しかし――、


 ――俺はバカなの? ここから見える訳ねえだろ?! 約12メートルの距離がある。 ここからだと、どれが時間割りなんて見えないんだ・・・


 それでも、エリヴィラは真剣にあっちを見ていた。


 ――諦めろ、エリヴィラ。 バカの言うことは――、


「次は現代社会みたいです!」


 エリヴィラは次の科目をみごとにあてた。


 ――にゃ、にゅあに?! あんなに離れても、エリヴィラがそれを見付けただけじゃんく、なんの科目まで見分けたの?!

 なんていい目をしてる、この子・・・いや、これはもういい目という次元じゃないぞ?


「どう? あった?」


 少し考え込んだ俺は、エリヴィラに目を覚めた。


「あ、うん・・・」


「えへへへー」


 エリヴィラ・・・お前はいったい――


「Good朝、みんな~ 授業を始まるぞー?」


 俺がまだココロの言葉を最後まで言ってないのに、現代社会の先生が教室に入った。


 賑やかな教室の中に、ひとりのもっと元気な声が聞えた。 そう、四時間目の先生、和気島(わけじま)先生が来た。


「おはようございます、和気島先生~」


 先に生徒のひとりが挨拶をした。


「はい、おはようー」


「おはよう、先生」


「おはよう、雪月花くん。 そして、エリヴィラちゃん、だったよね? 刈尾先生から聞いた」


「あ、お、おはようございます!」


 エリヴィラが少し驚いたと見えたが、すぐに先生に挨拶した。


「あらま~、本当に桜色の髪をしてるねー可愛い~。 ね、写真、撮っていい?」


 和気島先生は急にカメラを取り出し、少しずつエリヴィラに近づいてきた・・・


 ――こえっ! いったいどこかであのカメラを持ち出したの?!


 俺はまだ和気島先生がどこカメラをどこから持ち出したことに驚いてる間、エリヴィラが――、


「い、いや・・・や、や・・・」


 エリヴィラが頭をよこに振って、ドンドン体が俺にあずけていた。


 ――様子がおかしい・・・顔が真っ青になってる、エリヴィラが俺と初めて会った時よりも怖がっている! 冷や汗も酷い、体の震えが止まらない。 はやく先生を止めなきゃ!


「先生! 冗談はそれくらいにしてくれませんか? エリヴィラが怖がっています!」


「え? あ、本当だ・・・ご、ごめんねーそんな嫌がるのが知らなかった・・・」


 和気島先生が少し下がった後、エリヴィラはその隙に俺のところへ飛び込んだ。 なにも言わず、ただ全身が震えて、なみだをこぼしていた。


 ――エリヴィラはよっぽど怖がったよね・・・


「よしよし、もう大丈夫だ。 俺はここにいるから・・・」


 俺がエリヴィラの涙を拭いて、あたまをなでて、慰めてる間。 みんなは俺たちを見て、そして先生を軽蔑する目で睨んでいた。


「先生、いくら雪月花くんの親戚だからって、初対面の子供に写真を撮りたいなんて・・・もう立派な犯罪ですよ?」


「うん! うん!」


 元原(もとはら)さんと曲本(まがもと)さんが先に和気島先生を責めた。


「え~、そんな・・・うう・・・わかった、反省します。 本当にごめんね、エリヴィラ」


 エリヴィラは先生を見もせず、ただ俺の胸元で震え続けていた。


 そしてショックを受けた先生は自分が悪いと認め、約5分間のあいだ、教室の隅っこで反省した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「大丈夫? エリヴィラ、立てるか?」


 その後、エリヴィラが泣くを止むまで、俺はずっとエリヴィラを慰めていた。


「う、うん・・・大丈夫、です」


 少し落ち着いたエリヴィラは、自分で自分の涙を拭いて、鼻水を俺があげたティッシュで拭いた。


 ――大丈夫と言ってるが、まだ震えが止まらない・・・


「本当に? 保健室に連れてやろうか?」


「だ、だいじょ――」


 まだ話の途中で、エリヴィラが急に目を閉じ、そのまま倒れた。


「エリヴィラ! おい、エリヴィラ!」


 俺はすごく焦っていた。 急にエリヴィラが倒れたことに。


「なになに?!」


「エリヴィラちゃんが急に倒れたらしい!」


「おいおい、どうすればいいの?!」


 教室のみんながパニックになった、でもその混乱の言葉と言葉、雑音と雑音の間、ある女性の声がはっきりと俺が聞こえた――、


「詩狼! はやく保健室につれろ!」


 その声が零香だった。

 彼女が一番冷静に、真っ先に正確な指示を出し、クラス全員を落着かせた。


 ――そうだ、はやくエリヴィラを保健室に連れて行かないと!


「零香、お前も一緒に来い! もし保健室の先生がいないと、お前に頼む!」

「分かったわ!」


 俺はエリヴィラを抱えて、零香と一緒に教室から素早い動きで飛び出し、そのまま保健室へ走った。


「い、いってらっしゃい・・・」


 静かになった2年A組の生徒たちは、ただ俺たちが飛び出した方へ見詰めていた。

 そして先生はどんな反応をすればいいのかが分からない顔で手を振っていた。

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