第一章17 《2年A組》
―8:15―
その時は既に紗夜ちゃんと別れ、俺たちは俺の学校へ走った。 と言っても、走るスピードは遅い。
――特にこの・・・クソ坂は全身の骨が折りそうだ・・・やっぱ体力をつけなきゃいけないんだ。
「もう少しです、パーパ。 頑張ってください!」
でもエリヴィラはまだ元気そうだ、一滴の汗が見えない・・・
「お、おう~」
――心拍数が激しい・・・
荒い息をしながら、2分後、やっと校門にたどり着いた。
「や、やっと着いたー! ハーハーぐっハー」
――息ができない・・・
「おめでとう、パーパ!」
「あ、ありがとう・・・」
校門に着いた俺は、上半身が起きられなくて、両手を膝の上にのせていた。
――深呼吸だ・・・すーハーすーハー。 よし、少しだけ落ち着いたみたいだ。
「んじゃ・・・入ろう」
「うん!」
こうして俺たちは無事に、学校に入った。 ギリギリセーフであった。
――しかし問題はここだ、担任の刈尾先生が許可くれるのかな?
不安を抱いていた俺は、職員室へ向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「刈尾先生はまだきてませんよ?」
職員室に理科を教える、新崎先生が答えた。
「はい?」
職員室まで着く緊張感が膨らんだ風船が一瞬に萎んだみたいに、緊張感という気持ちが吹っ飛んだ。
――なんですてぇぇ?! まだ来ていない、だと? なにやってるの?! あの先生!
「ああ! 遅れてすみません!」
俺がちょうど苅尾先生に呆れていたところ、その本人が職員室に入った。
「遅刻だよ? 刈尾先生、生徒がお前を探していたんだよ?」
「え? そう? わりーわりー」
苅尾先生が適当な態度で謝って、俺たちのところに近づいていた。
「おはようございます、刈尾先生」
「あ、おはよう、雪月花くん。 俺になにかようですか?」
まるでなにもなかったように、先生は単刀直入おれに用事を聞いた。
――この先生は・・・、まぁいいか。
「はい、実はですね――」
俺は簡単にエリヴィラの事情を説明し、そして先生はそれを聞いていた。 結果は――
「うん、許可する」
――や、やったー!!!
歓喜に満ちた俺は思わずおおげさな勝ポーズをとった。
「ありがとうございます!!」
そして大きな声で礼を叫んだ。
「お礼はいいから、それにしても・・・こんなカワイイ子が君の親戚がなんて、しかも同じ苗字? 他人から見れば、君たちはただの友達か、或いはふたりのご両親知り合ったから、君たちもお互いを知り合っただと思う」
苅尾先生は座ったまま、腕組をして、頭を強くうなずいた。
「そ、そうなんですか・・・?」
――確かにエリヴィラは外国人ですから、そういう考え方はあるかもね・・・
「まあ、あくまで俺の個人的にな推理だけどね。 さ、もう授業が始まる。 俺に付いていこう」
準備を整った先生は、必要な教科書を持って、軽く俺の左肩を叩いた。
――叩く必要なんてないだろ?
「はい、行きましょう、エリヴィラ」
「う、うん・・・」
エリヴィラはいつもと違って、声に元気が感じない。
――ん? なんか震えている、もしかして緊張しているの?
「大丈夫、俺が側にいるから」
それを言った後、俺はエリヴィラの手を掴んだ。 そしてエリヴィラもそれを答えして、強く俺の手を握った。
「ありがとう、パーパ」
ニコリと笑ったエリヴィラ、いつものエリヴィラの笑顔でした。
「うん」
安心したエリヴィラは、俺の手を掴んで、一緒に二階へ上った。
そして、俺たちはついに俺のクラスに着いた・・・2年A組。
「じゃ、入ろう。 きっとクラスの連中が騒ぐと思うが、怖くないでね」
先生がそれを言った後、クラスの扉を開いた。
教室の中はいつもと同じ、みんなはほぼ自分の本来の席にいなくて、男子は、健次も含めて、教室の中で走ったり、ぐしゃぐしゃの紙を投げたり。 女子は今週のファッション誌を見たり、メイクの話をしたり。 或いは本を読んだり――
――っと言っても、零香ひとりだけど。 残った連中は全員、携帯をいじっていた。
みんなはまだ先生が門を開いたことさえ気づいていない、さすがだ・・・
「ほら! 席に着け! このクラスにある人物が来たのだ、雪月花くんの親戚だ」
先生は大声で叫んで、みんなはようやく先生が教室に入ったことに気が付き、すみやかに自分たちの席に座った。
「もしかして、転校生?」
さっそく生徒のひとりが質問した。
「ばーか、こんな時期にくるわけんえだろ?」
「でもそれ以外はなに?」
「んさ・・・」
・・・ざわざわ・・・ざわざわ・・・
その中に、健次と零香も疑問を持っていた。
「ね、会長さん。 詩狼の親戚って?」
「さあ、私もよく分からないんだ」
「えー、幼馴染みである会長も知らないのかー?」
「なにが言いたい?」
零香は健次を睨んだ。
「いや、別に・・・ただ詩狼のことだから、会長さんはなにか知っているのかなー、と思っただけだ」
「あいにくが、あいつのことは君が思ってる以上が知らないんだ」
零香がクールに答えた。
「嘘ー」
いかにも棒読みなセリフを吐いた健次が、ニヤニヤと笑っていた。
「本当だ」
「まあいっかー! じゃ、ご拝見しよう。 詩狼の親戚を」
「ふん!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺とエリヴィラはまだクラスに入っていないだけで、クラスの連中がなにを話しているがなんとなく分かる気がする。
「じゃーエリヴィラくん、入って! ついでに雪月花くんも」
「なんでも俺をおまけ扱いするんだ?!」
――うっかりツッコンでしまった。
ともあれ、俺とエリヴィラは教室に入った。 そして思った通り、クラスの反応は――
「うおおおお!!! カワイイ!!」
「なに? あの子? 超可愛い!」
「まるで御伽噺のアリスだ・・・」
「あの子の髪色、綺麗・・・しかも外国人だ~」
「こんな親戚、俺も欲しい!!」
「私も~」
みんなはリアクションは想定内でした。
「俺の詩狼くんを返せ!」
――ん? 最後のやつ! だれが言った?!
「静粛に!!」
刈尾先生は大声と同時に黒板を強く叩いた。
パン!!
みんなは黙り込んだ、いや、唖然の顔をした。 俺もだ。
「よろしい。 ええと、改めて言うが。 この子は雪月花くん親戚だ、まだひとりで家にいるトラウマがあるみたいだ。 だから、彼女がトラウマを克服するまで、この2年A組に滞在することになった。 みんな、彼女と仲良くしてね」
「はーい」
全員、同時に返事をした。
「んじゃ、エリヴィラくん、自己紹介してくれませんか?」
「あ、はい!」
エリヴィラは少し前へ歩き、視線をクラス全員へ向いた。 しかし・・・
「あ、あの・・・その・・・わ、わた・・・」
エリヴィラが緊張している、上手く喋れない。
――このままじゃまずい! なんとかしないと!
「あ、あの・・・ええと・・・」
彼女がまだ震えている間、俺は手を彼女の頭に乗せ、なだなでした。
「大丈夫、前にも言ったあ、俺はお前の側にいるから。 安心して」
「パーパ・・・うん! ありがとう!」
――おお~! いい顔だ、震えも止まった。 これなら心配ないかも。
俺は少し後ろに下がり、そしてエリヴィラは深呼吸して、再びクラス全員を向き合った。
「あの、私は雪月花エリヴィラとお申します! よろしくお願いします!」
――やっと言えた・・・偉いぞ、エリヴィラ。 お前ならできると思ったんだ。
少し顔が赤くなったエリヴィラは、ただ全員の前に突っ立て、自己紹介がすでに終わっていた。
そして先生が拍手して、沈黙を破った。 続いて俺、健次、零香・・・そしてクラス全員が続いた。
「よろしくな、エリヴィラちゃん!」
「よろしくね、エリヴィラちゃん!」
「よろしく~」
感動したエリヴィラは少し安心して、微笑みをさらした。
「こちらこそよろしく、おねがいします!」
「「おおおうう!!!」」
こうして歓声と盛り上がっている2年A組のなか、授業の始まりのベールが鳴った。
「よーし、出席番号を呼ぶぜ~、赤田!」
「空気を読め、先生!」
っと赤田がツッコンだ。




