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フストリェーチャ  作者: 川崎雨御
第一章:春前の一連
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第一章16 《新しいコスチューム》

 明るい空が道を照らす、道は白なので、太陽の光が道を光っている。 この時間はあんま他の生徒と出くわす確率がないから、俺は安心して黒澤さんの家に堂々と歩ける。


 目的地までの間、俺とエリヴィラは楽しく色んなことを喋っていた。 今朝のパンケーキは美味しかったとか、昨日の日本語勉強会は楽しかったとか、そんな感じで話していた。


 そして話してる内に、目的地に着いた。 もちろん、店の裏口ではなくて、正面の入り口からだ。


「Браун нат」


「ん? ああ、この店の名前だ。 「Brown Hat」、「茶色の帽子」という意味だ」


「うん・・・でも私たちはここに来たんですか?」


「それはですね・・・まあ、まず入りましょー」


 疑問を持ったままだったエリヴィラはちょっぴりだけ、疑い視線でこっちに見ていた。


 タランティリントロン~。


「いらっしゃいませーって、詩狼くんじゃないですかーどうしたの? こんな時間で来るなんて・・・もしかして学校をさぼったとか?」


 店に入った後、バーにいたのは店長じゃなくて、絢さんだった(店長、昨日のせいで休みしているだろ・・・ご愁傷様)。 ポニーテールの髪型で、ウェイートレスで着せている(当然だけど)。


「違います。 昨日は思わない事態に巻き込んで、それで今日は絢さんにお願いがあるんだ」


「それってもしかして・・・あの子のことかしら?」


 絢さんエリヴィラの存在に気づいた。


「え、あ、はい!」


「初めまして、絢さん。 私はエリヴィラとお申します、どうかよろしくお願いします」


 エリヴィラは丁寧にご挨拶した。


 ――偉い!


「あらまー不思議な髪色ですねーあと、日本語もお上手!」


 やはり一番目立つのはエリヴィラの髪の毛の色かー それもそうだ、ピンク色の髪の毛なんて、この全世界をさがしても、いないだろ(生まれ付きのことを指しているんだ)。


「あ、ありがとうございます!」


 少し顔が赤くなった、カワイイやつめ。


「で? エリヴィラちゃんと詩狼くんはどんな関係なんですか?」


「あ、こいつは遠い親戚なんです。 昨日は急に俺の家に来て、その上に荷物を無くしたから・・・」


 こんな嘘、ついてもいいんですか!? 罪悪感がー。


「なに言ってるの、ぱ―っ!」


 おい! やらかすな!


 エリヴィラが俺を「パーパ」と呼ばれようとした時、俺は彼女の口を右手で塞いだ。


「どうしたんですか? なにかエリヴィラちゃんが何かを言おうとしたんですが・・・」


 心配そうになった絢さんは、バーから出た。


「大丈夫大丈夫! この子、初めてひとりで来たので、まだ緊張しているんです。 あははは・・・」


 ――バレていないよな?


「そ、そう? でも、ひとりで来たの? 偉いねー」


 絢さんはニコニコとエリヴィラの頭を撫でていた。


 ――よし! バレていない!


「(ぺこり)ぷはっ! あ、あいがとう・・・ございます」


「ごめん、エリヴィラ。 後で償いをしてやるから」


「約束だ」


「もちろん」


 そしてバーの後ろにある扉から、俺がよく知ってる声が聞えていた。


「ママ、お客さんがいるの? お手伝い、しますか?」


 扉が開いた、そこにいたのは、紗夜ちゃんだった。

 そして俺に気づき、両目の瞳がより眩しく輝いた(気のせいだろ・・・)。


「あ~! お兄ちゃんだ!! おはよう!! 紗夜を見にきたの?」


「うおっ!」


 紗夜ちゃんはいきなり俺の胸元に飛び込んで、そのまま――


 ドン!!

 

 っと俺はバランスが崩し、床に落ちた。 なんかこのシチュエーション・・・さっきも味わったような気がする・・・


「なっ!?」


 紗夜ちゃんはその時、初めてエリヴィラの存在に気づき、彼女を見詰めた。


「わ~、なに? この髪の色? 綺麗・・・ええと、あなた、誰?」


「私は名前はエリヴィラです」


 俺はなにもツッコまない。 ただ見るだけだ。


「へーエリヴィラちゃんかー、よろしくね!」


 紗夜ちゃんは笑顔で手を伸ばした。


「あ、うん・・・よろしく」


 そしてエリヴィラも手を伸ばし、ふたりが握手をした。


 ――ていうか・・・


「ええと、紗夜ちゃん。 そろそろ俺の胸元の上から離れてくれないか?」


 ――俺は気絶してないよ?!


「わっ! ごめんなさい、お兄ちゃん!」


 紗夜ちゃんはさっそく俺の上から離れて、そして謝った。


「いいんだ、ケガもないし、大丈夫だ」


「怒らないの?」


「なんで?」


 質問を質問で返した・・・俺もどうかしてるぜ・・・


「いや・・・別に・・・」


「ん??」


 俺は床から立った後、絢さんは俺に質問をした。


「それで、ここに来た理由は?」


「あ、そうだった。 絢さん、なんとか・・・紗夜ちゃんの服、貸してくれませんか?」


「・・・理由は?」


 なんか絢さんの表情が変わったように見えるが・・・気のせい?


「理由は、俺の家には女の子の服がないからです。 それに、エリヴィラが女の子っぽい服が欲しいです」


 それを聞いた絢さんは、表情が前と同じ、ニコリの微笑みに戻った。


「そうなんですかーいいですよ? エリヴィラちゃんは歳、幾つ?」


「「え?」」


 俺とエリヴィラは同じ反応をした。


 ――そうだったー! エリヴィラは自分の年齢を覚えていないんだー! ど、どうする? 上手く誤魔化す? よし、それしかないんだ!


「じゅ、十一歳です!」


「十一歳・・・あら、紗夜ちゃんよりひとつ年下なんだー、なら大丈夫みたい。 この子の服はいっぱいあるから」


「そ、そうなんですか? 助かりすー」


「え? なになに、なんの話し?」


 話の流れを見えていない紗夜ちゃんは俺たちに質問した。


「後で分かるから」


「え~」


 そしてそのセリフを残した絢さんは、向こうの扉に入り、数秒後である衣装を持ち出した。


「これはどう?」


「そ、それは――?!」


 絢さんが持ち出した服はいかにもファンタジーの衣装だった。


 むしろ、レースが多い。 この衣装はまるで不思議の国のアリスの主人公、アリスの衣装だ・・・しかもリボンまでおまけだ。 白と青のドレス・・・ちょっと見たいかも、エリヴィラがこれを着る姿を・・・


「どう思う? エリヴィラ、これが気に入った?」


「・・・・・・・・・・・・」


「ん? エリヴィラ? おーい」


 エリヴィラはその衣装をじーっと見詰めていた。


 ――どうやら、見とれているようだ。


「エリヴィラ~ 戻って来い!」


 紗夜ちゃんは俺先にエリヴィラを現実に引き戻した。


「え?! Что случилось?!」


 絢さんと紗夜ちゃん、なにも話せなかった。 エリヴィラのロシア語で。


「エリヴィラ、この衣装、気に入った?」


「あ、はい! すごくスキです!」


「そうかい・・・んじゃ、絢さん、彼女にこの服を着るの・・・手伝ってくれませんか? あ、店は俺が見てます」


「分かった。 さあ、エリヴィラちゃん、こっちにおいで」


「あ~、私もお手伝いしますー」


 ――なんだかんだでエリヴィラは赤の他人に対して、昨日みたいな警戒心はないようだ・・・いや待て、昨日と今日の様子を見ると、エリヴィラはまだひとりになるのが怖がっているようだ。

 俺がそばにいなくても大丈夫か?! いやしかし、絢さんたちが付いてるし・・・大丈夫だろ。


 心配そうになった俺は、ただただ繰り返しの三歩回りをしていた。 そして――


「おっまたせー」


「おまたせー、お兄ちゃん!」


 ――もう終わった? はやいな。


「「タチャーン」」


 絢さんと紗夜ちゃんまるでショーをやってるみたいで、ふたりがそれぞれの方向に離れ、見えなかった扉を見せた。


 そしてそこに立っていたのは・・・


「え、エリヴィラ・・・さん?」


 思わず敬語で呼んだ。


「はい、パーパ」


 ――ま、眩しい!!! まるでスポットラインに照らせれているようだ! 白い肌、ピンク色、いや、桜色と言ったほうがいいのかな? まあ、こっちのほうはしっかり来るし、それで行こう。 桜色の髪色と髪の先っぽにあるフクシア色がこのふりふりの白と青のドレスに似合ってる!

 あと白と青のストッキングと光の輝きもちゃんと見える黒のストラップシューズ(この名前、あっているのかな?)。

 これは正しく、アリスだ。 似合いすぎて、違和感なんて感じない。


「どうですか? 似合ってますか?」


「ばっちりだ」


 即答である。


「ありがとう、パーパ」


 ――カワイイ!


「ありがとうございます、絢さん、紗夜ちゃん。 本当に助かりました」


 俺はきっちりと礼をした。


「いえいえ、詩狼くんにも色々手伝っているから。 これくらいのことなんでもないさ」


「そうだよ、お兄ちゃん!」


 くう・・・感動だ、こんなに優しい人たちに出会えて。


「詩狼くん・・・」


 いきなり絢さんに声をかけた。


「はい、なんでしょう?」


「学校のほう、大丈夫?」


「え?」


「あら?」


 ――しまったああぁぁぁああ!!!! そうだ、学校! 忘れていた~ 今は何時?!


「八時・・・八分」


 ――にゃにぃぃ?! もうそんな時間に!? 急がなきゃ!


「エリヴィラ、はやくいこう! もう遅刻だ!」


「うん!」


「あ、待って! 私もー」


 紗夜ちゃんは急いでカバンを持ち出し、俺たち先に店の入り口に走った。


「絢さん、本当にありがとうございました! 行ってきます!」


「ママ、行ってきます!」


「衣装、ありがとうございます。 行ってきます」


「はい、行ってらっしゃいー」


 こうして俺、エリヴィラと紗夜ちゃん、三人一緒にギリギリの登校に走った。

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