第一章13 《スタンドパワー・・・だと・・・?》
―30秒後―
――あれ? ここはどこ? 俺、倒れたの? 意識が・・・
「パーパ! 起きて! ね、起きて! 死んじゃいやー! パーパ!!」
え、エリヴィラの声だ・・・俺がなんだって? はっきりと聞えない、俺がしん・・・
「んな訳あるかー!!!」
「ひゃっ!」
俺は意識を取り戻した後、エリヴィラはなぜか頭を抱えていた。
「お、おい・・・大丈夫? 頭が痛いの?」
「だ、大丈夫です・・・ただ壁に当たっただけです・・・」
俺がエリヴィラにケガをしてしまった・・・俺はバカなの? もしこの子にまたしてもケガをしたら、俺・・・ココロが砕けてしまう。 今後以後はエリヴィラの頼みをなんでも引き受けよう・・・これは全て彼女に悲しい思いをさせないためだ! まず今の状況に対策を考えろ。
「ほら、俺が見ていてやる。 動くなよ」
そして俺はエリヴィラに近づき、彼女の頭に打ったところを優しく探していた。
「ここ?」
――頭を打ったところは確か後頭部だったから、まずそこから探しそう。
「もうちょっと左へ」
左だから、俺の右か・・・
「ん・・・ここ?」
左のもう少し下へ探った。
「いたっ!」
――ビンゴ!
「ここだな」
「うん・・・」
触ったところを感じると・・・腫れていないが、ここはどする? 薬でも塗る? いや、それじゃエリヴィラの髪の毛に薬の濃厚な匂いがぷんぷんする。
ここは小さい頃、お袋によくしてくれたことを再現する。
俺はまず優しくエリヴィラが打ったところを撫でた。 そしてエリヴィラはニヤニヤと笑っていた。
「えへへへ・・・くすぐったいです」
「ガマンしろ」
後は――
「よしよし・・・いたいのいたいの、とんでけー」
――んんん・・・やってみれば、ひとつだけ分かったことがある・・・恥ずかしい!!!! えっ?! なにこれ?! 滅茶苦茶恥ずかしい!! なにその「よしよし・・・いたいのいたいの、とんでけー」だ?! やってみれば分かった、俺は二度とこんな恥ずかしいことをしない!
ところが、エリヴィラの反応は予想外だった。
「あれ? いたく・・・ない。 スゴイ! スゴイです、パーパ! これはなんのスタンドパワーなんですか!?
」
「そうですね~、これは――ん? 今、なんて言った?」
聞き間違えじゃないよね? なにか妙な単語が聞えたような・・・聞き間違えかーていうか、痛くない? マジ?
「スゴイって」
「いや、その後の台詞だ」
「パーパ・・・?」
まるで理解できていないみたいで、エリヴィラは首を少し右へ動いた。
――カワイイ。
「はい、どうしたの? って・・・ちがーう! そうじゃなくて、その後だ」
「その後・・・? 「これはなんのスタンドパワーなんですか?」のことですか?」
――そうそう! それが聞きたかった!
「そう、それだ! エリヴィラ、お前はどこかでこの単語を覚えたんだ? 辞書・・・んな訳ないよね」
「マンガ」
「は?」
「ジョジョのマンガから覚えたんです」
――なるほど~、ん? にゃにぃぃぃいいぃ?!! ジョジョって、いったい何時から? 待てよ・・・確かエリヴィラは朝の五時三十七から起きたから、その間で読んだ・・・うん! 筋が通っている。
「そっかージョジョから《スタンドパワー》と言う単語を覚えたのかー」
「ハイッ! このマンガの物語がスゴイです! 仲間の絆、悲しい別れ、熱いバトル、そして奇妙な世界観・・・どれも素敵です! 特に『スターダストクルセイダース』の最終篇、「DIOの世界」が予想外の展開です! ディオのスタンド《The World》の能力に驚きました、あんな能力なんて反則だ! そしてでね――」
おい・・・エリヴィラがなんか妙なスイッチにかかったようだ、俺の気のせいか・・・エリヴィラの瞳がは眩しく見える、光っている! 特に彼女の左目の右上隅の星マークがよりいっそう輝いている。
そして俺の目が可笑しくなったか・・・エリヴィラの口元からぺらぺらと文字が出ている・・・あと、彼女の後ろに妙なものが見える。
――俺は疲れたのか? ある文字が見える。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「聞いているんですか?」
エリヴィラの一言で俺を元の世界に引き戻った・・・正直助かった。 あのままだと、俺はどうにかなりそうだ。
「き、聞いているよ。 ディオのザ・ワールドがどうしたって?」
「だから、ザ・ワールドの能力についてですね――」
ダメだ! これ以上はネタバレになる、ここは食い止めなきゃ!
「んな、エリヴィラ」
「はい、なんでしょう?」
「トイレは・・・いいの?」
「あ・・・」
――忘れちゃったの?!
「はやく、行け・・・」
「パーパも一緒に!」
あ、そうでした・・・
「分かったよ・・・」
そして俺はエリヴィラにトイレまで連れた。 もちろん! 俺は扉の隣りにいた。 エリヴィラが入った後、毎十五秒経過すると――
「パーパ、そこにいるんですか?」
ってな・・・
こうして何十回質問された後、エリヴィラがやっとトイレから出た。
「お、お待たせ・・・」
「お、終わったか? さっそくですが、今朝はどう済ます? お前の意見が聞きたいんだ」
俺はいままで適当に済ましているから、ここは娘であるエリヴィラの意見が聞きたい。 できれば、簡単なモノでお願いします。
「ええと・・・わかんない!」
「よし、それにしよう・・・え?」
「えへへへ」
――いや、「えへへへ」じゃないよ! カワイイけど。
「わかんないって・・・昨日はボルシチを要求したんだろ? 大丈夫、なんでもいいから。 俺はちゃんと美味しく出来てみせる!」
俺は料理にある程度が自信ある。
「私はボルシチにしか知らないんだ」
「よし、それにしよう・・・はい?」
俺の耳が腐ったわけじゃないよね? 俺は確か「ボルシチにしか知らないんだ」と聞えたが・・・
「ボルシチ以外の食べ物が知らないんです・・・」
あ~、気が遠くなる~。 いくら記憶消失だとしても・・・そうだ、エリヴィラは記憶を無くしたのだ・・・なんてこどだ! 肝心なところを忘れていたなんて! クソッ!
「そ、そうか・・・じゃーこうしよ! 一緒に勉強しよ、料理を。 どう?」
ナイスイディアだ! これでエリヴィラに料理を教える上に、同時に朝食を作れる! もちろん、失敗しないという前提だ。
「料理・・・ですか?」
「そう、ちょうど厨房に料理本がある。 それを見てながら、好きな料理を選んで、一緒に作りましょう。 俺もエリヴィラの手作り料理がたべたいから、へへ・・・」
笑った俺が、エリヴィラも一緒に笑った。 そして彼女は俺の提案を受けた。
「パーパと一緒にお料理だ~」
嬉しそうだ。
「じゃーさっそく台所へ行こう!」
「うん!」
エリヴィラの初料理体験が・・・始まります!




