表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
幻の景色
84/133

家でやろうとしたら怒られた

「異常なーし」


 遙か上空から獣人の村を見下ろし勇者一行の馬車が止まったままだと確認したソラは、用事はそれだけなのでささっと『ゲート』を開いて縁に手を掛ける。


 村から少し離れた場所。ソラが見ているかぎりずっと素振りをしている人影をチラリと見て「頑張ってるなぁ」と呟き、青空に口を開けた闇をくぐった。






・・・






 グリモワールを通じて有識者と『勇者召喚以前の人類大陸に於ける不自然な歴史の欠落とその考査、及び魔人大陸との比較』についてを、冷静ながらも熱く語り合っていたベルであるが。


「なにかしら」


 館中に漂う美味しそうな匂いに導かれ、普段足を運ぶことがない厨房へとやってきたベルは、入り口から室内を覗いてみた。




「ベルベルも食べるべる?」


 オヤジギャクとともに振り返ったソラの顔に、仮面の姿は無い。

 赤色のハートがこれでもかというほど散りばめられた薄ピンク色のハート形でフリル満載のエプロンを身に付け、地球の歌を口ずさみながら腰をフリフリ。因みにエプロンはゲーム装備ではなく、メイド長のお手製だ。


 可愛らしい見た目とは裏腹に、その手は達人ならば見えるかもしれない速さで動いており、常人には手首から先が残像しか見えない。



 ……毒されたベルは、その手より、仮面を着けていないことに驚いた。



 シャカシャカを通り越して風切り音しか聞こえない泡立て器と、不思議と中身が飛び散らないボウル。

 泡立て器を置くと、ボウル片手にフライパンを反対の手に。ボウルを傾けながらフライパンに中身を少量移すと、フライパンを回すようにして薄く伸ばす。


 そして、フライパン自体が青白い炎に包まれて一秒。


 フライパンを傾けては皿へと移し、火が消えたフライパンにまた少量の生地を垂らして薄くして、また燃やして一秒で皿へ。



 テーブルの周りを歩きながら、生地を焼いては並べられた皿へと移していくソラから目を離したベルは、厨房の壁際を見る。


 “壁の花”と化して立ち尽くす、メイド信号機の三人とメイド長。


「……貴方たちは?」


「ソラ様が厨房に入るのを見て」

「お手伝いしようとしたら」

「入り込む余地が無くて困ってます」


「……」


 一人だけ答えなかったメイド長に視線で促せば。

 メイド長は三人を見て、皿へと目を向け。

 そして、ベルと目を合わせ。


「……摘まみ食いの監視です」


 部下の躾がなってないことが情けない、という表情で。

 今まさに皿に伸びそうになった赤の手を叩き落とした。




「──あっ、いけない、忘れてた」


 生地が焼き終わり巻いたり乗せたりする具材も並べられ、さあ食べようかという時にソラが声を上げ。


「ちょっと買い足してくるから、先に食べてて」


 そう言って、真っ暗な渦に飛び込んだ。



「うまー」

「サラダも意外といける」

「いえ、なんで私の前にいつもカレーが……」


 甘い物しか食べないレッド、全種類制覇を目論むグリーン、辛い物が苦手なのにソラお嬢様のカレー推しに困惑するイエローの三人は、遠慮なく皿に手を伸ばしては次々とクレープを食べる。

 この三人にもちゃんとした名前はあるのだが、ソラが色で呼ぶうちにそれが定着してしまい、ベルは本名を知らなかったりする。


 この三人には、初めて仮面無しのソラを見たのに対し、何の反応も示さなかったことでベルは小さな負感情を抱いている。

 実は三人ともソラの素顔を思ったより呆気なく本人から見せられているのだが、それを知らないベルは、館でも仮面を着けていたのはこの三人のせいだと思っているのだ。


 仮面は、ソラの趣味である。




 メイド長は取り合えずバターと粉砂糖のクレープを、使用人なのに……なんて思いながら、ナイフとフォークを使って行儀良く食べる。


 ベルは……手を着けていない。


「お嬢様?」

「待ってるだけよ」


 気を使うメイド長に、少しわざとらしくベルは微笑む。


「それに、こういうのは遅れて出てくるのが本命でしょ?」






「たっだいまー!」


 渦から飛び出してきたソラの両手には、重そうなほどぎっしりと詰まったビニール袋・・・・・



「火災探知機と燃え移りが怖くて日本じゃ出来なかった本格的なフランベやってみたかったんだよね。それとチョコソースとバナナと、じゃじゃんっ、お買い得なアイスの詰め合わせ!」


 メイド三人が「おぉー」と言いながらアイスに群がる中、ベルとメイド長は、互いに相手は違うが共に呆れた。



「貴方たち、主人を迎える前に食べ物に群がるなど──」


 メイド長ソフィアの説教をバックに、ビニール袋を三人に渡してフライパンを準備するソラ。


「日本に帰ったりして大丈夫なの? それとお金は?」


「うーん……。過去を無理矢理変えるのは大問題だと思うけど、召喚されてすぐくらいなら大丈夫じゃないかな? タンス預金で十万はあるし、お買い物したいし」


 本音もこぼしながら、帰ってくる前にインベントリへ移動していた材料をテーブルに並べ、何故かテーブルから離れたとこに台を設置。


 ささっと下だけが燃えるフライパンでオレンジジュースベースのソースを作り、その中に折り畳んだクレープを入れると、台にフライパンを置く。

 インベントリから取り出したナイフで千切れないように注意しながらクルクルと回して切った、皮が螺旋状に繋がったオレンジ。


 片手でオレンジを持ち上げ、もう片手にはブランデーの瓶。



「暗くするよー」


 無詠唱で、円の中の敵に“魔法防御低下”と“状態異常倍加”を付加する『ダークネス・ゾーン』。

 この場に敵は居ないため、本当に暗くするためだけに使われた不憫な魔法である。




「うわぁ……」


 感嘆の声。



 瓶の口から火が出た時は驚いた様子もあったが、それをオレンジに垂らせば。


 皮を伝って落ちる、赤と青の炎が美しい。



 火が消えてから、フライパンから皿へとクレープを移す。


 三人メイド戦隊に渡したのとは別にインベントリから業務用バニラアイスを取り出すと、「アイスをすくうアレ」でお馴染みの「ディッシャー」で盛り付けてから、仕上げにハーブで彩りを加え。



「お嬢様、クレープシュゼットになります」


 うやうやしく、ベルの前に。



 上品な作法で小さな口へ運び、味わう。



 すると浮かぶのは、ベルには珍しいニコニコとした笑顔。


「……美味しい」



 ニコニコと微笑み合うソラとベル。



 ──と、それをまるで眼球に焼き付けてみせようかというほど、目を見開いて刮目かつもくするメイド長。




 他のメイドはそんな日常の光景をスルーして、三人の中で誰が最初にクレープシュゼットを食べるのかという仁義無き争いを、テーブルの下で足を武器に繰り広げていた。



 名の無い地方にあるという『仮面の館』は、今日も平和である。



 


【ソラ】おやつタイム【最高】


1:緑茶の娘

ここはソラの料理について崇めるスレです。


ソラの手料理を食べたことがないやつは一生ロムってろ。食べたいという願望すら書き込むな。お前の汚いスレのせいで書き込まれる料理の数が減る。てめぇはその汚ねえ指でもしゃぶってな。

ソラはお忙しい方なので、リクエストのようになってしまうと非常に迷惑なのです。


食べたことある人は是非、感想などを言い合いましょう。




682:緑茶カイザー

緑茶に芋ようかんウマー(・д・)


683:魔女っ子(28歳)

>>677

それは……

ご愁傷様です。


684:公のお姫様

>>677

えーっと……が、がんばっ(ハート)


685:緑茶の娘

私がソラに頼んで楽しみにしてた芋ようかん


686:戦隊レッド

今日は大当たり!!!!!

燃えるクレープ!!!!!


687:緑茶カイザー

>>685

(゜Д゜)



(゜Д゜;)



688:緑茶の娘

スレチごめん。

>>687ちょっと隔離版に行こうか。


来る、よな?


689:公のお姫様

──この後、687の姿を見た者は居なかった……


>>686

燃えるクレープですか?

口に運べます? それ?


690:戦隊レッド

皇族の(しょうもない)親子喧嘩

皇族ってだけでやばそう!


ガクガク(゜ω゜;)ブルブル


「フランベ」って言って、お酒のアルコールを燃やして香りだけを残す技なんだって!


691:魔女っ子(28歳)

高い店だとよく目の前でやってくれるわね。

高すぎる店になると逆に、お客さんの身分が止ん事無さすぎて安全性を考えてやらなくなる。


貴族に火でもつけてみろって話。


692:芋じゃない、男爵米だ

わたし、燃えてる鍋を見て感動したなー

前髪チリチリになって、家族で笑ったなー

>>691

(T^T)


693:魔女っ子(28歳)

え、あ、うん。

……ごめん。


694:公のお姫様

こうして見ると、私の名前は面白味が足りません。

これじゃダメなんだ


695:ホームレス魔王

いや、面白味求めちゃ駄目でしょ


クレープ……食べたい……

ソラの手料理……塩むすび……


696:芋じゃない、男爵米

塩むすびおいしいじゃないですか!!!


697:ホームレス魔王

いや、人生で最高に美味かったよ?


それで行き倒れから救われたからね!


698:魔女っ子(28歳)

家無しで、行き倒れ。


699:天使な悪魔ちゃん(紐)

魔王様、尊敬してたんだけどなー


700:あの人の飼い主さん

この掲示板、偉い人ほどやらかすのね。

今日のクレープは点数高いわ。

調理するのがソラなら、公爵令嬢の前でやっても大丈夫じゃないかしら?


701:戦隊レッド

公ちゃんは名前で悩む前にクレープを味わうべし。


702:戦隊グリーン

男米ちゃんもお米の御礼に是非。

痛い魔女さんは一回休み。


703:魔女っ子(ハーフ14歳)

>>702

痛い言うな


704:戦隊グリーン

誤「種族はハーフで年齢は14歳」

正「年齢をハーフにすると14歳」

半分する場所に注意。


705:戦隊イエロー

速報。緑茶カイザーさんの失敗がレッド経由で伝わった仮面さんがお宅に殴り込み。


修羅場(食べ物の恨み的な意味で)


706:あの人の飼い主さん

皇女にだけクレープを作るみたいね。


707:公のお姫様

ダメだ、私には面白い名前を付ける才能が無い……


708:ホームレス魔王

>>707

……今まで、それで悩んでたの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ