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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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突撃卵とドキドキソラちゃん

 自然豊かな森の中。

 不自然なほど雑草一本生えていない肌色の土が剥き出しなその広場の中心にあるのは、地面と同じ乾いた土色の、大人が二人は一緒に通れそうな穴の開いた山。


 雨が降ったら崩れそうだと思ったのはソラだけか。


「中規模以上の盗賊がよく使う建築魔法ね。帝国の学校で落ちこぼれない程度の魔法使いが複数居るみたいだから、気をつけて」


 藪から顔を出して覗いたカタリナが、その出来や規模から大体の敵魔法戦力を言い当てる。


 複数人で一つの魔法を発動させる協力魔法、叉の名は儀式魔法。発動するのは一つの魔法としてなのだが、完全に魔力を同調させたり詠唱を合わせることは難しいらしい。

 なので完成した魔法には個人独特のムラがそこかしこに表れ、炎魔法などは無理にしても、ああやって観察できる形として残っていれば大体何人で発動したのか、中心となった魔法使いの腕前、その魔法の慣れや全体の技量などが読み取れるのだという。


 今後の為にと、ひそひそ声のカタリナに教授されながらもう一度観察してみる一同。


「まず、注目すべきは地面ね。この魔法は一度使えばかなり長持ちするけど、その分、魔力を多く使うのが特徴よ。盗賊なんかの後ろ暗い連中は道具やギフトを使って周辺の草木から魔力を吸い出して流用することも多いから、見ての通り雑草すら生えない不毛の土壌にすることがあるの。明らかにやりすぎだけど、反対にそれだけ魔力を吸い出すのが上手いということでもあるし、今回のは極めて狭いほうよ。自然破壊に目を瞑れば、理想的な魔力収集効率ね。それと──」



「……ぐはっ」


 魔法の才能皆無で頭を使うのがかなり苦手な一名が架空の吐血とともに脱落したため、興味の有る人だけ帰りの馬車で続きを聞くことにした。


 因みに、その一名。

 兄に羽交い締めされた上で、実験的にとソラから「賢くなる薬」──『Persona not Guilty』の基礎魔法攻撃力を上昇させるドーピングアイテム──を口に突っ込まれ、涙目だった。後味の残る苦さ、だそうだ。






 『英雄の卵』という称号。


 ソラがベルに聞いた話。

 この世界の英雄とはつまり、異世界人ではない、聖剣を持たない『勇者』。


 ソラのステータス観覧により判明した称号持ちが、何らかの英雄的行動を起こすことにより、称号から卵が取れて『英雄』になるのだと思われる。


 歴史上の英雄覚醒は、初代勇者と互角の戦いをして認め合い、仲間となって大陸を共に旅していたが魔王討伐の折、魔族の大陸に旅立つ勇者とは別れて大陸防衛に努めたといわる『守護英雄』が有名だ。

 その他にも、勇者と敵対した者、国を興した者、ドラゴンを単独で討伐した者もいるが、とにかく誰かが喚べば現れる勇者とは違い、英雄にはとある共通項がある。


 「英雄生まれし期、災い有」という言葉ができるほど、英雄とは大陸を揺るがすほどの問題が発生した時にだけ現れるのだという。



 ソラの予想でベルが一番あり得そうだと納得したのは。

 『英雄の卵』は世界の至る所に居て、問題が発生した時、近くにいる卵が『英雄』として覚醒するのではないか、という『バラまき卵説』。


 他にも『コウノトリ説』『固ゆで卵ハードボイルド説』『卵が先説』『鶏が先説』等々あるが、内容に対して名称がアレなのが玉に瑕。


 ……本人はベルとの何気ない雑談のつもりだったが、話していた場所が皇帝の執務室。そして今回の事件の地図製作やら何やらのために駆り出された皇帝の右腕や左腕がその場に居たため、極秘資料として記録されていたりする。

 今までは「重要な問題が発生した時」「血筋関係無く」という半ば運任せだったのが、もしもその条件さえ解ってしまえば、それは帝国として政治的重要な意味合いを持つこととなるだろう。他国で発生した問題から帝国人の英雄を生まれさせたり、ソラ以外でも卵を見つける方法、卵の騎士としての確保など。


 チーム『流れ星』に依頼を指名することに皇帝が同意したのも、英雄覚醒の条件が判明するかもしれないからだ。






・・・






「……」


 ぼーっとした眠そうな目のエルフが杖を向けると、森の空白地帯が埋め尽くされるかのように緑が侵食を始めた。

 油断か怠惰か。見張りの居ない土塊の家が、オード達から見て正面の入口以外、生き物のように動く蔦に絡まれてその口を閉ざした。


 魔法をいつでも発動できるように待機するカタリナは、リーダーに最終確認を取る。


「本当に、いいの?」

「ああ。責任は俺が取る」


 悩むだけ無駄。

 カタリナは慣れたように感情を割り切ると、魔法を杖先から発動させた。


「ファイアボール」


 小さく呟かれた魔法の名前。

 ゲーム知識では簡単な火の魔法というイメージがあったソラは、空中に浮かぶ青白い炎の迫力と、次の瞬間にはその威力にも目を丸めた。



「いくぞ、ニーナ」


 扉が無く、暖簾のような布が垂れ下がった入口。

 枠の大きさギリギリの、しかし十分に巨大な青白い火の玉が人の走る早さ程度でそこに入っていった瞬間、二桁に及ぶ大太鼓を一斉に叩いたような、腹と頭響く重低音が爆発。

 蔦は見掛けによらず丈夫で、唯一となった入口から火や土煙やらゴミが噴出するのをただただ呆然と見ていたソラは、いつの間にかオードとニーナがそこに向かって走り出していることに今更ながら気付いた。



 あんな爆発が内部で起こったというのに崩れない建物にソラは驚くが、そこから生きた人間が出て来たことで更に驚く。


「ケフッ、ゲフッ……。チッ、だから見張りを真面目にやれっての」


 元からなのかは分からないが襤褸布のような黒いローブで足元以外を隠した人物は、咳込みながらも無傷だ。出て来たのは一人だ。


「あのローブ、見た目は汚いけど魔道具ね」


 カタリナの分析を聞き流しながら、ソラは目の前の光景に魅入っていた。



 横凪払いを仕掛けるオード、魔法使いらしき男は下がって対処するが、先回りで回り込んでいたニーナが盾を前面に出して体当たりを喰らわせた。

 転ぶ男はフードが取れ、整ってはいるが卑怯そうというか腹黒そうな狐顔が露わになる。耳はないから獣人ではないが、付いていても違和感は無さそうだ。


 胴体を狙った大剣によるギロチンのような縦斬りを転がって避けて何とか立ち上がった男に、またもニーナの、今度は刺突が多い掛かるが、それは半透明な壁、瞬時に発動した魔法壁により防がれた。


 距離を取る男。



「問答無用とはね」


 懐に手を入れる男を警戒しながら、しかし踏み込もうとしないオードとニーナ。

 男はそれを不振に思うも、好都合だと目的の物を握った。


「魔法使いを相手にする時の基本だろうが」

「その割に、今は来ないんだ?」

「こう見えて、魔法自体は使えないが魔力が見える体質でね。魔力を集め始めてから動かさせて貰うよ」


 男だけでなく、ソラも驚いた。

 空気中に漂う魔力が見えれば、相手が魔法を使おうとすれば判るし、発動も見切れる。

 見えるのに魔法が使えないことにソラは驚いたのだが、それは男にとってはどうでもいいことらしい。


「……貴様、魔法殺しか」

「修業中だがな」


 肩をすくめるオードに、ニヤリと、似合いすぎる笑みを浮かべ。



「なら、魔法ではない、私の取って置きをお見せしよう」


 構えを直した二人を前に、懐から取り出した紫色に光る石を両手で持って前に突き出し、男は叫んだ。



「いでよ、悠久の時より目覚めしとが───」


───サクッ。



 何が起こったのか分からぬまま、良い場面を演じきる前に男は死んだ。






「懐で発動させりゃあ良いのに、なんでわざわざ隙を作るんだろうな」


 耳から耳へと貫通した矢の鏃だけでも再利用しようか棄てようか悩むアルセを横目に、魔法使いでありながらなかなかの身のこなしをした割にあっさりと馬鹿やって死んだ男に、本気で呆れるオード。


「突っ立ってないで手伝ってよ」

「……ファイアボールは、間違えたわね」


 滅茶苦茶になった中を家捜しするニーナは兄に文句を言い、滅茶苦茶にした犯人は、反省しながらニーナが掻き出したゴミを検分している。




「……うん、キミは何も悪くないよ。悪いのは全て、理想を容赦なく呑み込んでしまう現実という名の荒波の仕業だよ」

「……」


 ハラハラドキドキと生の戦いを観覧していたソラは、最後の最後にカッコつけてヘマをした男に酷く同情していた。


 隣にしゃがむネルフィーは、そんな男が握る魔石をじっと、見つめていた。

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