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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者は何処へ向かうべきか
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外国の花火をソラは知らない

「あ、花火終わった?」


 待機場所の草原から見て王都の左側に上がっていた花火が止むとソラは立ち上がり、月と星の光で夜空に映える人工的な雲、花火の煙を数秒間眺めて次が上がらないと確信すると、仲間たちに目配せ。

 男たちは得物や荷物の確認を始め、準備の必要がないベルがソラの隣に並んで待つ中、ソラはさっきまでの花火を思い返していた。


 混ざりものがない白い火花。

 単発。

 形もずっと同じ。

 一体、何が面白いのか。


 勇者の助言により完成した最初の花火、それを王国では伝統として頑なに守り続けているとベルから教わったが。

 勇者の世界、ソラが知る花火はこんなちゃちな物ではないし、助言をした勇者だってこんな物で終わらず、その先を見たかったから知る限りの製法を伝えた筈なんだとソラは思う。



 準備を終わらせた男たちが、特に示しあわせた訳ではないが王都を背にした二人の前に横一列で並んだので、ソラは最終確認をする。


「んじゃ、ここから先はコードネームで」


 こほん、と一呼吸。


「ゾンビ、道化っていう順番で『ゲート』に突入。出たらすぐ騎士がいるかもしれないから警戒態勢を取ってね。ペルソナとクイーンが移動したらセイントとブレイドはここで待機。それぞれ戦闘を開始したら、終わりの合図を送るまで戦闘を長引かせてね」


 頷く仲間たちにソラも頷き返し、真上の夜空に向かって魔法を放つ。

『Persona not Guilty』の攻撃魔法『ライトニングボール』。

 放たれた球体は空に向かって飛んでいくと広範囲に電流を撒き散らすように炸裂して、バチバチと五月蝿い電気が不自然なほど長く空中に留まって、消える。


『ボール』系統の魔法は、ぶつかるか射程限界で炸裂する球を放つ魔法で、緑属性の『ライトニングボール』は範囲内の敵に弱ダメージの連続攻撃を与え続けることで行動を阻害する、足止めとして優秀な魔法だ。


 高い建物が周囲に無い草原の夜空、長く留まる雷光が非常によく目立つため、今回は遠くで待機する協力者への合図として採用した。



 そして王都を背にしたソラは斜め上、男たちの背後の空を指差す。


 いつの間にか月は隠れ、人工的な光と小さな星々以外は真っ暗闇。


「見せてあげよう、この世界の人間に」


 漆黒の大地から昇る光の玉がヒュー……という音を鳴らしながら、ソラの指が示す先へ。

 男たちも、その中でもコードネーム"セイント"は聞き覚えのある音にいち早く反応し、振り返って空を見上げた。


「本当の花火ってやつを」


 --大空に咲く、一輪の大花。


 最初の特大一発を皮切りに、ソラが用意した大量の『花火』は、攻撃用とは思えないほど華やかに様々な形で異世界の夜空を楽しませる。




 初めて・・・打ち上げたが、予想通りに綺麗な花火。

 明るくなった空を満足げに眺めるソラの袖を引いたベルは、花火の音に負けないようソラの耳に口を近付け、気になったことを尋ねた。


「いつ用意したの?」


 ソラは花火に見とれる男の一人を指差してから、耳を近付けたベルに同じ様に口を近付け。

 膨大な魔力を無駄に溢れさせたソラは二人を包み込むように見えないドーム状の壁を形成し、音の指向性を自分たちから逸らした。


 耳に口を近付ける意味は無くなったが、ご愛敬。


「本人のレベル以下の魔物をその魔物の魔石から産み出せるギフトの持ち主をさ、便利そうだから表向きは処刑されたことにして仲間に引き込んだの。と言っても雑魚しか出せないから素材としては微妙だったんだけど、使う度にエフェクトが違う『花火』をベルに見せたいと思ってたから、今日のためじゃないけど、こっそり集めてたんだよね」


 テレテレとしたソラが答えると、ベルは微笑み、優しく頭を撫でた。



『ゲート』を開けば、頷いたゾンビが突入。

 ゾンビが出たことを確認してから次を開いて待っていたが、道化が花火を見上げたまま動かないので、道化のフードを掴んだソラは『ゲート』に放り投げた。


 この場に残る二人に頷き、ソラとベルも『ゲート』に入った。


 静かになった『ゲート』の中でソラは、慌ただしくない日に、二人でゆっくりと花火を見れる時間を作ろうと約束した。






 ・・・






 王都は混乱していた。

 南にある正門の方向から祭りの定番であるいつもの花火が、いつもより長く続いたが時間以外は特に変わることなくいつものように終わった後の事。


 東の空からまた花火の爆音が鳴り響いたかと思えば、色鮮やかな火の花が咲いたのだ。

 予告には無かった新しい花火だが、それはすぐに王都の民を魅了した。


 いつもとは違う方角から上がっている。

 祭りの予告に無かったせいで、いつ終わるかも分からない。

 そんな事情が絡まったせいで、打ち上がっている今まさに場所取りが激化。


 道という道に空を見上げながら建物の陰を避けるように歩き回る人々が溢れ、王国の花火には興味が無いという人まで顔を出し、中には立ち入り禁止の場所に踏み込む馬鹿も現れた。



 花火の警備が終われば千年祭の中でも特に忙しい一日が終わると油断していた衛兵はパレードに匹敵するかそれ以上の熱気に圧され、同じく警備を担当しているはずの騎士に応援を要請した。


 種類も大きさも打ち上がる間隔も、普段の物とはまるで別物な花火のせいで会話が難しい。

 衛兵の隊長は騎士兵舎に飛び込み、対応に出てきた騎士の完全武装に驚いたが、そんなことはどうでもいいと頼み込んだ。

 

「だ、か、ら! パレードの時みたいな応援をくれ! 緊急事態だって見れば分かるだろ!」

「騎士にはこれから大事な任務が待っている。応援を出すことは出来ない」

「聞こえねぇよ!」

「応援は出せない!」

「しっかり喋れ!」

「お、う、え、ん、は! だ、せ、な、い!」

「うるせぇよ! 早く応援をよこせ!」


 男同士、耳元で怒鳴り合う。

 衛兵も強情だが、騎士も引くことが出来ない。


 王都にいる全騎士はこれより、勇者様宛に届いた果たし状の件で作戦行動と王城の警備強化が待っているのだ。

 この花火は果たし状の相手が示した合図である可能性が高く、この兵舎もすでに藻抜けの殻で、律儀にも対応に出た騎士も戸締まりをして任務へと向かうところだった。


 騎士は頭を働かせ、騎士に対して一歩も引かない頑固な衛兵に対して叫んだ。


「城は当然だが、劇場、東門と西門は既に騎士が警備している! お前も早く警備に付け!」


 気迫のある叫びに衛兵は尻込みし、その隙に兵舎最後の騎士は脇を走り抜けた。



 残された衛兵も現場を思い出して慌てて走るのだが、その頭には疑問が残る。


「正門は南だよな? それに……劇場?」


 ただの衛兵では知るよしもないが、それは勇者一行が花火の主より指定された、戦いの場所であった。

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