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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
穴抜け短編集
112/133

屍戦士

章移動予定話。

前回の続き。


遅れ気味で申し訳ありません。

年齢的には違ったと思うが、今年は厄年なのかもしれない。


 

 悪魔憑きの女性を拾った森に、確認も兼ねて二日続けて来てみたソラ。

 午前中一杯は森でスキルと魔法の確認。

 午後にはベルと昼食を食べてからは、あの土地に本格的に住むための家を建てようかなとソラは予定を立てていた。



 本日のソラの服装は、修道女。

 シスターだ。

 ミニスカだったりスリットが入っていたりするサブカルチャー的なものとは違い、髪は全て頭巾に収め、首まで白い布で覆い隠し、肌も体型も隠した正当派の修道服。

 ──そんな修道服の清楚さを打ち消す本日の仮面『スカーフェイス』。斜めに入った傷痕のデザインが生々しい不気味な白い仮面で、効果は物理攻撃力アップというシスターらしからぬもの。

 そして金属の棒の先端に棘付き鉄球を合体させた武器、鎖付きではないモーニングスターを持つことによって、物理攻撃型、殺人シスターの完成である。


 魔法だけに頼らない魔法戦士の方向性を斜めに行った

、実にソラらしいスタイル。



 子供じゃなくても見かけたらビビる格好をしたソラは、ゲートを潜ってすぐに開いた森の全体マップを見て、呟く。


「またか」


 密集した赤点にぽっかりと空いた空白、というデジャヴ。

 空白の中心に人の反応、というのも一致。


 規模は小さいが昨日と全く同じ現象に、溜め息。


「お笑い用語でいう天丼かぁ……今日のお昼は天丼にしようかなぁ……」


 サクサクの衣を思い浮かべて、まだ遅い朝食の時間だというのにお腹が減る。

 丼に乗せた天ぷらにタレを掛けるシンプルな天丼も良いが、天ぷらをタレで煮たもの、塩を振り掛ける塩天丼、卵綴じの天玉丼。似て非なるが、かき揚げ丼も捨てがたい。

 だけど海老は外せない。


 思考が胃袋に逸れた。

 昨日より範囲が狭くて森から魔物が溢れるような事も無いようなので、ささっと確認してささっと魔法戦闘の確認を済ませようとソラは急いだ。

 擦れ違う道中の魔物は全て、魔法ではなくモーニングスターで叩き潰しながら。


 マップを確認しなくても、強化されたソラの嗅覚が現場を捉えた。

 異世界に来てから何度か嗅いだ好きではない臭いと、初めて嗅ぐ煙っぽい香り。


「ここかな?」


 スカーフェイスが木陰から顔を出す。



 腹を切られ、血と内臓を撒き散らした犬に似た魔物の死体。

 五体をバラバラにされた、巨大な鎌を持つ虫の死骸。

 剣で地面に張り付けられた鳥の魔物。

 木に寄りかかる、傷だらけの革鎧を着た男性の死体。


 死体しかなかった。


「濃い血の臭いで魔物が遠ざかっただけか」


 納得して魔物がいるエリアまで引き返そうとしたソラは、はたと気付いて立ち止まる。

 野生動物にとっては大事な食料のはずだが、魔物は腐肉を食べないのだろうか?

 反転させた身体をもうひと反転させ、四体の死体に近付いてみる。


 スプラッター映画も観れなくはないソラは元よりグロ耐性高めで、さらにスキルで精神的な強化もある。

 ファンタジーなのに<外科医>なんていうスキルまである『Persona not Guilty』。ゲーム外効果としてグロ耐性を上げてくれそうなスキルは多い。


 ざっと見た限り、魔物の死因は全て、鳥の魔物を地面に縫いつけている剣によるものだろう。

 この森で一番の稼ぎ、薬の材料となる魔物がいないことから、男性が狙って戦闘したとは思えない。


 その他に魔物の死体で見るべきところは無いと判断して、本命、剣の持ち主であろう男の死体へ。



 肌の色は悪いが昨日の悪魔憑きほどではない。

 帝国に多い白人系の顔付きで、戦士らしく日焼けしているからかその死体の肌は青白いというより黄色っぽく、乾燥のしすぎで見るからにカサカサ肌。

 鎧がズタズタな割に、致命傷としては怪しいものばかり。


 ……そのような観察をしなくても、ソラは一目で分かっていた。


 ゲームではまるで違う効果だったが、現実で使用した能力は似ている魔法『アナライズ』とスキル<観察眼>。


 男の名前はジョナス。

 両方が、目の前の男性は生きている、と。


 正確には状態異常「アンデット」だと、半透明のウィンドウは名前やレベル、ギフトの名称と共にソラへ伝えてきた。

 『Persona not Guilty』には種族アンデットは敵にいても、状態異常としてのアンデットは無かったはずだ。


「(ゾンビにしては臭くないし、ヴァンパイアって見た目でも無いし)」


 そんな事を考えながらアンデット反応が出た男に近寄ると、血の臭いに紛れていた煙っぽい香りが強くなったが、それは男が寄りかかる木の背後、小さな火鉢のような道具から出ているらしい。

 鑑定してみれば成る程、魔物除けだ。


「入れ違いで森に入って、戦闘してから休むために焚いたのかな? だとすると不自然な空白はこれの効果で、特に心配するようなものでもない、と」


 当初の目的は完了したわけだが、ここで退くわけがない。

 道具を使うことからモンスターではなく人間としての理性があることは窺い知れるが、では状態異常アンデットとは何なのか。

 十中八九、男のギフト『屍王の戯れ言』が関係している事は解っている。


 ソラは、わくわくしながら魔法を唱えた。


「『ヒール』」


 ゲームによってはアンデットにダメージを与えることで有名な、回復魔法。

 『Persona not Guilty』でも可能だったそれは、未だに動かない男に対して光を降らせ……るだけ。

 身体が灰になったり、煙を出しながら崩れたりもしない様子。

 若干、使う前に比べて肌艶が良くなったか。


 男は木に寄りかかったままで、いつものアイテム化が起こらない、ということは。


「……なんだ、つまんないの」


 予想が外れ、好奇心という興奮は途切れた。

 それでもアンデットの生き心地なんかの話だけでも聞いてみようとソラは、男の体を揺すり、ビンタし、モーニングスターで突っつき、状態異常の睡眠を解くアイテムを使った辺りで異変に気付いて男を改めて<視た>。



「……死んでる」


 状態異常アンデットは消え、男の名前の後ろに「の死体」が追加。

 回復魔法で身体は健康になったが、しっかりとダメージが入っていたらしい。


 何故か死体がアイテム化せず、拾得アイテムやお金も無し。

 しないのが一般的な普通ではあるがソラにとっては青天の霹靂で、最悪は殺さなくても戦闘不能にすればアイテムが手に入るのは帝国騎士で検証済み。


「最初から死んでたから? でもゲームのアンデットは普通のモンスターだし……」


 そもそも、考えても分からないことだらけの能力。


 早々に思考を放棄したソラは、男を蘇生して検証させてもらおうとも考えたが、直前までアンデットだった人間は生き返るのか。

 健康な人間として生き返ったところで、男が望んでアンデットになっていた場合、どうするのか。


 むむむと悩むソラの前で、男の死体が、動いた。



「……うっ、くそっ、また死んじまったのか。あぁ~、頭がガンガンする。……で、あんたは誰だ? 教会の糞どもみたいな格好だが、なんだ、そのイカした仮面は」


 仮面の下でポカンとした間抜け顔をしながら、高速化したソラの脳内では少ないヒントから次々とロジックが組まれていく。



「成る程、特定の倒し方じゃないと倒せないタイプか」

「……あぁ? 倒し方が、なんだって?」


 男の言葉を無視して、ソラは自分の解答に納得する。


 ロールプレイングゲームやアクションゲームに多いのだが。

 弱体化アイテムを使うまで無敵だったり出鱈目に強かったり、本体を倒さないと蘇生を繰り返したり、決められた時間が過ぎるまで倒せないといった、特殊な勝利条件が組み込まれた敵というのがたまに存在する。


 このジョナスという男は、何らかの条件をこなさなければ死んでも状態異常アンデットとして蘇生し続ける、ゾンビ男。

 つまりソラは、まだ倒しきっていなかったのだ。


「多分、ぐちゃぐちゃにするか頭を叩き潰せば殺せるかな? あとギフトの名前的にだけど、耳を切り落としても生き返るのか試してみたいかな」

「試したことねぇな。試したいとも思わねぇが」


 ソラの見解に欠伸をしながら適当に答え。

 男は立ち上がってソラの横を通り過ぎると、地面に突き刺した愛剣を引っこ抜く。


「あーあ、やっぱ欠けてるわ。斬れそうにないから懐に誘って地面に刺したが、腹で叩いて落とした方が良かったか?」


 ジョナスは剣の腹をコンコンと扉をノックするように叩き、溜め息を吐きながら刃剥き出しのまま腰のベルトに鐔飾りを掛ける。

 それから魔物除けの火を消そうとして振り返り、他の人間が居たことを思い出した様子で。


「んで、さっきも聞いた気がするが、あんたは?」

「ソラ」


 他の倒し方を考えていたソラはざっくりとした答えを返して、改めてジョナスという男を観察してみる。

 回復魔法でさっきより健康そうになった見た目は普通の、アンデットとかいう変な状態異常に掛かった男だ。



「そうか、簡単で良い名前だ」


 名前を聞いて満足したのか、それとも未だ寝呆けているのか。

 また横を通り過ぎ、寝ていた木の裏に置いていたらしいバッグなどの旅道具をしゃがんで回収し始めた男の背中に、ソラはインベントリから取り出した鞘付きの剣を投げた。


 背後が見えているかのように、格好良く片手で受け取る。

 ……なんて事は無く、がら空きな背中に金属の重みを喰らう男。


「ぐぇっ……くそっ、何すん──」


 怒って頭だけ振り向く男に迫ってきたのは、本の角。

 言葉を止めて横に転がって避けると、分厚い本は木にぶつかって地面に落ちた。


「何だってんだ、おい」


 攻撃と判断し、剣の柄に手を添えて仮面を睨みながら立ち上がる男に、ソラは宙に浮きながら投げた剣を指さす。


「面白そうだからその剣あげる。本は開いて説明通りに使えばいいから、活用してね」


 指と言葉に釣られ落ちている剣に視線をやっている間に自分の頭上にゲートを開き、ソラは続ける。


「あ、でもその本を使って女の子をナンパしたら許さないよ。君の恋愛は君の勝手だけど、本で繋がってる相手を本を使って口説こうものなら殺し方の実験するから、それだけは憶えておいてね」




 顔を上げた時には、黒い渦が空中で消えるところだった。


「あれは、何だったんだ?」


 ひとまず剣を拾い、鞘から抜いてその業物っぷりに目を見張り。

 眺めたり素振りで剣を堪能してから忘れかけていた本を拾い、その機能の便利さと怖ろしさの片鱗を理解するまでに昼まで掛かり。

 森を抜けた時にはすっかり日が落ち、魔物除けを付ける頃になって男はようやく、自分の身体が瑞々しいことに気がついた。


「あんな格好してたし、寝てる間に治療でもされたのか?」


 ──この男、死んで生き返ることは知っていても自分がアンデット、動く屍になっていることには気付いていない。


「そうか、本で坊主に聞けばいいのか」


 ──修道女が着る服とは異世界人であるジョナスには通じず、体型が見えない服と仮面と少年声で、ソラの性別を間違えている。


「しかし本でナンパとか何とか。ハーレムでも作るつもりなのかね」


 ──それは合ってる。

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