表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
穴抜け短編集
111/133

行き倒れ、そのいち

遅れて申し訳ございません。

理由は主に暑さです。

 帝都から北東に数百キロ離れた森林。

 帝国ではこの森でしか生息が確認されていない魔物の素材が、数十年に一度くらいの周期で流行する症状が軽く感染力も弱い風土病の治療薬となる事以外、これといった特徴も無く険しいだけの森。

 外周を囲むように農村があるので浅い部分は人の手が入っているのだが、奥へ進むほどに藪や倒木といった自然の障害、虫や動物、薬の素材となるものを含む魔物たちが行く手を阻む、この世界では至って普通の森。


 しかし大事な特徴である風土病の薬も、風土病自体が流行りづらく、薬を使わなくても症状が軽いものなので滅多に大量消費される事がないため、常に在庫過多で素材の取引価格が安い。

 小遣いにしかならないような物を目当てに、魔物が出る森で命を懸ける不届き者も現れない。

 だからこの森を奥へと進むのは、採取を依頼されたハンターのみ。



 何処のギルドからもハンターに依頼が出ていないことを調べ上げた帝国情報部はその情報を皇帝陛下に伝えて、皇帝陛下はそれを帝国城の禁書室にベルを送り届けにきたソラへと伝える。


 執務室の窓から止める間もなく飛び立った姿を見送った後、皇帝は独り言ちた。


「しかし、森で戦いたいとはな」


 ソラとベルの存在をどうやって隠すか、という今更な会議を行うための資料を流し読みしていた手を止め、皇帝はソラの行動を考える。


 前日の別れ際に「人がいない森で戦いたい」と頼まれた皇帝は、ついうっかり他国か未開拓地域でやれと言い掛けた、が。

 他国で自重せずに帝国も巻き込まれるような問題を起こされたり、未開拓地域でそうとは知らず貴重な資源を消滅させてしまうよりかは、帝国内で荒らさないように注意してやらせてみた方が良いと判断した。


 皇帝権限で譲ってみた山奥の土地にある森も、絶滅種であるオーガ族、それと高級熟成肉に加工される牛の魔物が暮らす豊かな自然があり、そちらについては送り込んだ調査員が仕事を終えるまでは無駄な開拓をしないようソラに伝えてあったので、今回はソラなりに判断して皇帝に尋ねたのだろう。

 そういった判断も含めて今回は、ソラがどこまで自重するのか、その試金石でもある。



「ふむ。それにしても森か」


 地位を継ぐ以前、騎士をお供に帝国を練り歩いていた皇帝の冒険心が疼く。


 ガングリファン帝国の騎士は基本、森林戦を行わない。

 重装備が地形に合わないのもそうだが、野戦では馬や調教された魔物に騎乗するからこそ騎士であり、森はハンターの領域と割り切って棲み分けしているからだ。

 都市の安全を守るために近隣の森で狩りを行うこともあるが、それも奥までは行かず、よほど危険な魔物か犯罪組織でも確認されないかぎりは踏み込まない領域。


「そうか、ソラに頼めばどこであろうと日帰りで旅が出来るのか」


 誰にもバレる事無く皇帝を連れ出せるような、そんな便利ギフトを持っている者も探せば配下にいるはずだが。

 そんな事を皇帝の側近が許可するはずもないし、皇帝も考え無しに部下の首を飛ばすような馬鹿ではない。


 しかし、ソラの実力が本人の申告とベルの証言の通りだとすれば、その側より安全な場所もまた存在しない。


 十分に見極めたら、連れ去られたていを装って決行しようと決める皇帝。

 それを先読みし、皇帝に何か頼まれたら皇室付きの侍女を好きに遊んでいいから報告するよう、ソラに依頼済みの侍女長。

 侍女長の勝利である。




・・・




 ベルが読書に集中し、帝都も気になる場所は大体見て歩いたから暇を持て余すソラは、これまであえて放置していた戦闘能力の検証をしようと思い立ち、皇帝から紹介された森に来ていた。


 この世界に来て日が浅い内に、とある王国の強固な外壁に大穴を空けてからずっと我慢していた、全力のスキル構成での戦闘訓練。


 『大鬼の王オーガ・キング』とゲーム時代に名付けた物理攻撃に特化したスキル群は、現実になると肉体の繊細な力加減が難しく、制御した所で使う相手もいないので、いつか必要になるその日まで封印する事にした。

 ゲーム時代では一番お世話になったスキル構成だけに、いつかは絶対、最強装備と共に暴れてやろうと心に決めながら。


 物理攻撃特化が駄目ならば、魔法攻撃特化はどうだろうか。



 『Persona not Guilty』の魔法は、単体攻撃から範囲攻撃、さらには七つの属性を絡めて特色が変わる多様性が売り。


 まず、『無』属性の基本魔法をストーリーやイベント等で覚える。

 そこに忘れがちな『Persona not Guilty』のテーマでもある「色」、『赤』『青』などの属性を足したり足さなかったりで登録すると、ショートカットウィンドウや設定したキーボードから発動出来るようになる。

 透明な魔法の矢を放つ無属性「アロー」に赤属性を足すと、当たると爆発する「ファイアアロー」に。

 敵が触れると無属性の爆発を起こす「マイン」に青属性で、間欠泉から熱湯が三秒ほど空高く噴き出し、その後は触れれば弱ダメージを与える熱湯の水溜まりを残す温泉魔法「ガイザープール」等々。


 一つの魔法で七つ、無、赤、青、緑、黄、白、黒の個性。

 使いやすくて操作が楽な近接攻撃の影に隠れがちだが、十分に強く、面白い効果を持つ魔法が揃っている。



 さらに今のソラはゲーム魔法だけではなく、このニートルダムという異世界の魔法も扱えるのだ。


 この世界の魔法は選択したら発動するゲームの魔法とは違い、想像力で魔法を自作する系の、自由とロマンが詰まった魔法。

 魔法の定型、それに魔法陣やら魔道具などもあるようだが、ゲームでのMPマジックポイントが魔力に転用でき、スキル<魔法使い><賢者><並列思考>なんてものまで備えているソラに助力などほぼ必要なく、コツさえ掴めばまさに何でも出来る状態。


 それだけ聞けばゲームの魔法なんて必要無さそうではあるが、魔力が魔法になるまで変換の時間が掛かり、戦闘時の瞬発力に欠ける。

 ゲームの魔法はそれこそゲームらしく、戦闘系の魔法は装備とスキルで発動隙を消せるし、“空から一軒家が降ってくる”、“砂漠ですら温泉が永遠と湧き出る”、“空間から空間への移動”などの異世界魔法では不可能なものまで何でもあり。


 使い易いゲーム魔法、困った時の異世界魔法、といった感じ。




 つばが広い三角帽子、濃い紫のローブ、捻れた木の杖という、如何にもな格好。

 今回は魔法特化といっても、スキルにはゲーム時代だとお荷物だった<飛行>を入れたりと便利さ重視の構成。

 特化の怖さを、ソラは知っているつもりである。


 森の中、木を守る感じで戦えば範囲や力加減を覚えやすいし、目撃者もいないはず。

 燃えたり破壊するような魔法を控え、水や風の魔法で戦う。

 森を守る気満々のソラだが、範囲攻撃なども試すつもりでいる。


 ──嫌な予感しかしない。



 しかし期待は裏切られ、ソラは森林浴を満喫させられていた。


「……びっくりするほど普通の森」


 ソラの言う「普通の森」とは、日本の森の事。

 植生や昆虫などを見れば明らかに日本の森ではないが、普通のゲーム好きな高校生だったソラにそこまでの自然知識は無いし、今回は関係無い。


 平和すぎるのだ。

 危険なのは足場と虫と野生動物、現在地の把握と栄養補給。

 動物なんて人の気配だけで逃げて滅多に人前に現れるものでもないので、運良く動物に会わない日の森の中、といった具合で。


 異世界の森で一番危険なはずの、ソラの目的である魔物が、一匹も出ないのだ。



 その後も奥に進めど、魔物は現れない。



 ここでようやく、ソラは行動に出た。

 行動に出た、というか。

 半透明なウィンドウを開き、消していたマップを表示した。


「なんだこれ」


 マップには赤丸で印される敵対モブが森の中心部から消えて森を囲んでいるせいで、マップ上に赤いドーナツを作り出していた。

 ソラが歩いていたのは、ドーナツの穴の中。


 気付かなかったのは、森の中なら絶対に魔物に会うものだと過信し、視野を広くするためマップを消してから一度も確認しなかったソラのミスだ。



 今から外側に行けば待望の魔物、それも群れに会える……のだが。

 森外周部に点在している村は、現在、森の中心から出てきた魔物に襲われている最中かもしれない。


 村を助けて回るべきかとも考えた。


 けれどソラは、それよりもマップ上に表示されたドーナツの穴の真ん中。

 魔物がドーナツの穴を形成した理由、それを取り除けるのは自分だけなんだと考え、飛んだ。


 枝や棘に引っ掛かって森を歩くのに向いていないローブを仕舞い、革鎧に着替えてからだが。






「女の人?」


 マップ上の、ゲームならNPC(ノンプレイヤーキャラ)を表す白い丸。

 うつ伏せで倒れていたのは、ゲームの鑑定魔法『アナライズ』で“空腹状態”、“悪魔憑き”と表示される、やけに青白い肌でボロ布のような服を纏った女性だった。


 名前は「ファラ」。

 苗字は無い。


 魔物は悪魔の生息域から距離を置く。

 どうやら、悪魔憑きも天然の魔物除けになるらしい。



「お腹空いてるの?」


 ピクッと、動いた。

 死んでいないのを“視て”知っているソラは驚かず、視線をファラという女性からウィンドウにずらし、胃に優しい食べ物を探しながら何気なく一方的な会話をする。


「ファラさんは、どうしてこんな森の中に?」


 初対面で名前を呼んだというのに、反応は無い。

 名前で呼ぶ不自然を引っ掛けではなく天然でやったソラは気にせず、有ったら便利、スープストック入り密閉袋と小さな鍋を取り出して。

 鍋にスープを注ぎ、焚き火の準備は面倒なので鍋に魔法で直火を当てる。


 野菜とウィンナーのコンソメスープ。

 森林の濃い自然の匂いをも打ち消すコンソメのいい匂いが辺りに充満し、倒れて会話が出来ないほど空腹状態であるはずのファラは腕に力を入れ、何とか起き上がろうと──。



「それにしても、モヤモヤしてない悪魔憑きって初めて見たかも。悪魔の森にいたのは殆ど悪魔みたいにモヤモヤ──」



 ──指が腐葉土に食い込み、腕が上体を持ち上げ、足が大地を蹴り、激昂に歪んだ顔を上げ、目の前の人に……。


 急な敵対行動に反応して、鍋を持つ反対の手でビンタ。

 痩せこけた頬に、クリーンヒット。


「あ」


 思わず出てしまった手だが。

 ──今のソラが魔法特化型。

 ──悪魔憑きの丈夫な身体。

 ──柔らかな腐葉土で一度バウンドし、藪に突っ込んでから木に激突。

 という、度重なる幸運。



 ……何とか肉片にならず、五体が保たれたまま、ファラは死ねた。




「あぁー……あっ、蘇生魔法試そう、そうしよう」


 異世界では不可能だとされる蘇生魔法は、こうしてあっさりと使用されるのだった。




 

 生き返ったけど餓死しそうな悪魔憑きを抱え、人の目と魔物の動きを気にして森の直ぐ外、村が無い場所に移動したソラ。

 目覚めたファラには何も言わず、何も聞かず、とにかく食えと好きなだけスープのおかわりをあげる。


 食べて落ち着いてから話を聞けば、悪魔憑きは迫害されるから自分の村に帰れず、無我夢中で歩いて歩いて、知らない森の中で行き倒れたのだとか。

 悪魔憑きとバレたら殺されると思い、悪魔憑きと口にしたソラに半ば無意識で襲いかかったのだと。


「悪魔憑きって、ダークヒーローみたいで格好いいと思うけどなぁ」

「だーくひーろー?」


 悪魔と戦い、それを弱いと感じたソラにはいまいちピンとこない、異世界の常識。


 満腹になって安心したのか、眠りにつくファラ。

 マップで中央に戻っていく魔物の動きを確認しつつグリモワールで雑談ついでに今の体験を話してみた所、ハートン女伯爵がやたらと食いついてきた。




11:男装令嬢

秘密にしてきたが実は私は、女性を、それも陰があるような人が大好きでね。

悪魔憑きの女性という、その単語だけで私は独りで燃え上がりそうだよ。



12:とある公爵令嬢

当主なのに令嬢を名乗るのは……。

悪魔憑きだなんて、危険では?



13:つるぺたソラちゃん

グリモワールだけでも一人称を「僕」か「ボク」に変えたら紹介してあげる。



14:愛に生きる男装伯爵

本当かい!?

なんだったら実生活でも僕としようじゃないか!


 


 人間を辞めた悪魔憑きらしく早々と目を覚ました本人に許可を得た上でハートン伯爵の帝都宅にゲートで送り届けたソラは、魔物の確認がてら、明日もこの森に来ようと決めたのだった。


 思った以上にローブは森だと不快だったので、明日は枝に引っ掛からない、森でも歩きやすい服装とそれに似合うスキルを組むことも誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ