91話「無双ハーレムの主人公、ヒロインズと決別!?」
シシカイの映し出した映像で、ヒロインとギスギスしてるオーヴェが映っていた。
ナッセとヤマミは緊迫する。
「うっわ!!? 夜逃げした先でこれ!?」
リョーコが驚く。
その後ろでゲマルが「オーヴェ……」と心配そうにしている。
魔城から夜逃げしたオーヴェは、偶然にも山道でハーレムのヒロイン達と出くわしてしまった。
第一ヒロインのカカコ。オーヴェの残虐性を知って決別。
第二ヒロインのレイミン。オーヴェに父を殺されて恨みがある。
第三ヒロインのロンナ。初対面。
第四ヒロインのリュウシ。初対面。
「……ああ。つか生きる目的なんてねぇんだよ…………。だから殺されても文句ねぇ……」
観念したらしいオーヴェは無防備で突っ立っている。
リュウシが振り上げた刀は鋭く斜めに振り下ろされた。
ズバッ!!!!
なんとオーヴェの顔面、目の間を通るように斜めの傷がつけられ鮮血が飛び散った。
オーヴェは「ぐあっ」と激痛に目をつむり、仰け反ると尻餅をつく。
リュウシは冷めた目で刀を再度振るい、付いた血を飛ばす
「そのまま切り捨てて構わぬが、カカコ殿とレイミン殿の寝覚めが悪くなる故、そのような傷にとどめた。それにあっしはオーヴェとは初対面ゆえ私怨もないので」
カカコとレイミンは驚きつつも内心ホッとした。確かに目の前でオーヴェが惨殺されたら夢に出てきそうだ。
確かに父の仇とはいえ、寝覚めが悪いのは確かだ。
曲がりなりにもオーヴェを好きだと思える感情が少なからずあった。
リュウシは刀を背中の鞘に収め、オーヴェを静かに見下ろす。
「そのまま去るがよい。野垂れ死ぬなり、細々と生きるなり、好きにしてくれんか」
「…………また俺が酷い事するかもしれないじゃないか?」
「いじけているお主では何もできぬ」
見透かされた、とオーヴェは打ちのめされた。
リュウシは踵を返しカカコたちへ戻る。未だ尻餅をついて途方に暮れるオーヴェを置いて、ヒロイン四人衆はしばし話し合うと足を動かしていく。
気が沈むオーヴェは俯く。
未だ顔面から滴る鮮血が衣服を濡らしていくが、気に留めない。
なぜだかオーヴェは救われた気がした。顔面についた傷の痛みが安心させてくれる。
死んでも構わないと思っていたものが不思議と活力が沸いてくる。
「すまねぇ……」
オーヴェは柔らかい笑みを見せた。
カカコ、レイミン、ロンナ、リュウシは山道を歩き続けていた。
「浮かぬ顔だな」
リュウシに言われレイミンはハッとする。
カカコもバツの悪そうな顔をしていた。
「あいつ、あたしの幼馴染なんだよ……。勇者と認められて旅立ったけど、豹変したみたいに残虐な面を見せてきた」
「うん……」
カカコの説明にレイミンも頷く。
一応、経緯は話してはいるが反芻するように語ったのだ。
「あっしはお主らと山道で会った縁。如何なる過去があろうとも気にせぬ所存ではあるが」
割と最近出会った第四ヒロインのようだ。
本来ならオーヴェの無双ハーレムで、山道イベントによって仲間に加わる流れなので四人が集まるのは必然だった。
不思議と意気投合して一緒に旅しているのもそうだ。
「いいよ。あいつが反省しようがしまいが、もうムリだって思ってる」
「私も正直父の事で恨みがないわけじゃないけど、一緒にはムリです」
ロンナはふうと息をつく。
「確かにタイプのイケメンだけど、うじうじしてるのは好きじゃないな」
本当は四人ともオーヴェがタイプなのだ。本来ならベタ惚れするレベルで好きになるはずなんだ。とはいえゲームによるハーレム設定だから仕方がないが……。
リュウシは首を振る。
「ヤツが歩いてきたところを辿るのだろう? 勘でしか分からないところがある故、それるやも知れぬが」
「いいさ。絶対にナッセに会う!!」
「私も会いたいです!!」
「私は会った事はないが、そういうなら興味あるかな」
四人はわいわいしながら進んでいった。
それもシシカイによって映されていた。
ナッセはため息をつく。
「段々、こっちと方向がズレてきてるな」
「山道だもの。あちこち蛇行しているし、道も分岐してるからね。まさか迎えるとか言わない?」
「あたしは許さないぞー!」
なんとリョーコがナッセを後ろから抱きついて、うりうりしてくる。
「逆ハーレムの恨み持ってんのかよ?」
「そうだー!! あんたにだけはいい思いさせないからねー!!」
「おいおい」
ナッセとしてはその気はない。
しかしリョーコの大きな胸が背中から当たってるので内心ドキドキ。
見透かしていたヤマミは目を細めて不機嫌になり、妖精王に変身してリョーコの尻をつねる。
「いったぁ!!!」
涙目でリョーコは飛び上がった。
「変身までして何すんのよー!!」
「そんな事より、オーヴェが進む先は……」
「あ! そういやそうだ!!」
「こらー無視すんなー!!」
リョーコが突っかかってきて、ヤマミは嫌そうな顔で押し退けようとする。
「その卑猥な胸でたぶらかさないで欲しいわ……」
「はぁ!? ナッセはそんなこと気にしてないでしょー!!」
「恥ずかしくて言いにくいだけ」
オーヴェは北西へ進んでいるようにも見える。
アテもなく歩き続けて、心の整理を行っているつもりなのだろうが……。
「そこ見た事があるっていうか、描いた事がような……?」
「禁止区域。ナッセが言っていた暗黒魔竜クセアムスが支配している場所」
「そうだった!!! 忘れられた半島の方へ進んでいるぞ!!」
漫画として七つの魔王である暗黒魔竜クセアムスと闘うイベントの舞台を描いた事がある。
映っている風景はカラーではあるが、漫画は白黒で線画なのだ。
ナッセはようやく気づいて緊迫していく。
「このままだと暗黒魔竜クセアムスの領域へ踏み込むぞ……!」
「え? なになに? 七つの魔王?」
「あんたね……。キャベツー宿屋で話したでしょ? ナッセが『ガロンナーゼ北西半島で暗黒魔竜クセアムスが支配していて禁止区域『忘れられた半島』になっている』って」
「よく細かい事覚えてるわよねー」
リョーコはぶつくさ言う。
「ああ。あそこでは黒竜人を大量に増やして、ギルガイス帝国を落とそうと企む七つの魔王がいる」
オーヴェは切り立った丘の上で足を止めた。
岩山のような塔が高く聳えていて、あちこち無数ある穴が窺える。そして黒い竜人がおびただしい数で飛び交っている。
物々しい雰囲気なのが伝わって来る。
「……ドラゴン族が暮らしているところか?」
何も知らないオーヴェは汗を垂らしながら眺める。
押し寄せてくるような嫌な気配……。ズズ……。




