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27話「まるで頂上対決!! 壮絶な大魔法合戦!!」

 魔道士(マジシャン)同士の対決となる試合が始まろうとしている。

 何かを企んでいるらしい腹黒なニーナと、ナッセと共にするヤマミ。


「死んでも恨まないでね。上位階梯『大爆裂破(エクスボガムズ)』!!!!」


 問答無用とばかりにニーナが爆発系の精霊魔法をぶっぱなして、轟音と地鳴りとともに大爆発が明々と広がっていく。

 爆風が晴れて、タイル上で所々と残滓の炎が燃え盛っている。

 しかしヤマミが平然と立っていた。

 黒髪ロングがアバラ骨のようにヤマミ自身を囲み、薄らと黒く半透明の巨大な人影が具現化されていた。


 ズズズズ……!!!


「半具現化でも上位階梯魔法さえ弾くんだ。ショックよねー」

「詠唱破棄しての不完全魔法……。効くわけないでしょう」

「言ってくれるわね」


 仏頂面のヤマミに、ニーナは不敵に笑んでいく。

 見たところ、ヤマミを覆う巨像は精神生命体(アストラル)のようなもので、物理的攻撃を弾いてしまう。

 彼女(ヤマミ)本人が言っていた『偶像化(アイドラ)』は攻防一体の術とも言える。

 ……しかし魔法でもなければ魔族でもない。一体何なのか知らないけど、このままでは勝てないわね。



「──クラス・チェンジ!!!」


 ニーナがそれを口にした瞬間、吹き上げる光柱。旋風が吹き荒れて地響きが広がっていく。

 誰もが驚かざるを得ない。

 今大会で三人目のクラスチェンジできる選手が出てきたのだ。


大魔導士(ウィザード)ニーナ!!!!」


 威圧を膨らまして、肩当てと仰々しい黒いマント、白い手袋と長靴、衣服がローブになってバージョンアップしたニーナが姿を現した。

 凄まじい魔力が漲っていて空気がピリピリ響く。観客も緊迫する。

 それでもヤマミは平然としている。


「この状態となった私の精霊魔法は、黒魔法と同列になる!! つまり物理事象を超えた精神攻撃も可能になるって事!!」

「そう」

「大地の精霊は我が意志に従い、敵なる者に地脈を揺るがす怒りで呑み込め!! その激震な御力で以て、我が敵に己の矮小さを突きつけろ!!! 上位階梯『大地鳴動噴(ダイガメドバー)』!!!」


 瞬きすら許さぬ程の刹那の間で詠唱を終え、地震を飛び込む。

 ヤマミに牙を剥くかのように無数の岩山が競り出て、絶えず荒れ狂って、轟音とともにトゲトゲの山を形成した。

 まるで天変地異のように闘技場で巨大な隆起したトゲトゲが現れたのだ。


「お次はこれっ!! 氷の精霊は我が意志に従い、敵なる者に冷酷な極寒地獄で覆え!! その冷徹な熱抹消力で以て、我が敵に己の無力さをこびりつかせろ!!! 上位階梯『氷河大剣山(コヒュラマード)』!!!!」


 今度は一瞬にして吹雪が滝のように雪崩込んできて積雪を築いていくが、あちこちから黒炎が吹き出てきてゴゴゴと獰猛にこれまでの事象を呑み込んでいく。

 光さえ燃やし尽くすと言われる悍ましい黒炎が猛威を振るって、観客を戦慄させる。


「通常の火炎魔法に闇属性を練り込ませて黒炎にする。その結果、執拗になんでも燃やし尽くす、それは水でさえ消火できず、また光さえ飲み込むから黒く見える。厄介な混合魔法ね」

「さすが(さと)いわね……」


 黒炎の中から悠然と姿を現すヤマミ。

 彼女の周囲に黒い小人が数人踊りながら周回している。


「それも魔法なの?」

「そんなに知りたいなら、体で確かめたら?」


 黒い小人が数人、地面へドプププッとダイブする。

 それらは複数の黒筋として地面を這ってきて、反射的に飛び退くニーナへ追いかけていく。

 ニーナは障壁が張られている闘技場の端まで来ると、サッと障壁伝いにスレスレ飛ぶ。やはり黒筋も障壁伝いに追っかけに来る。

 障害物にぶつけて誘爆する手は使えない、ニーナは舌打ちして察した。


「チッ!! 下位階梯『爆玉(ボガ)』の連続射撃ッ!!!」


 飛びながらニーナは向きを変えて指先から射撃する事で、次々と黒筋を誘爆させて黒炎が踊る。

 執拗に黒筋が次々と這ってきて、それをピンポイント射撃で相殺し続ける。

 常にアクロバットに逃げ回るニーナは余裕がなく、額に汗が吹き出ていた。


「はい。これまで」


 なんと背後からヤマミが禍々しい魔女のような風貌の『偶像化(アイドラ)』で、ニーナを鷲掴みにする。

 焦ったニーナは「ぐっ」と呻き、時空間移動でフッと消える。

 離れた位置でニーナは前屈みのまま地面を滑って「ふう」と息をつく。


「無詠唱で黒炎を走らせたり、妙な巨像を生み出したり……、どっかの魔王?」

「どうかしらね」


 ヤマミを包む巨大な『偶像化(アイドラ)』がズズズズと威圧漲らせていて、誰もが見た事もない術だと恐れおののく。

 ひょっとしたら高位魔族なのかと勘ぐる人もいた。

 支配神ルーグは「ほう……」と目を細める。

 傍らのアンゼルヌークは震えていて、食堂での襲撃を諦めて良かったと安堵していた。


「食えないわね……」

「お互い様でしょう」


 ニーナは両腕を広げて刹那の詠唱を紡ぐ。


「風の精霊は我が意志に従い、敵なる者に容赦なき烈風で吹き飛ばせ!! その雄大な空で以て、我が敵に己の非力さを叩きつけろ!!! 上位階梯『大旋嵐烈破(ストラムレッパ)』!!!」


 旋風が収束して、無数の竜巻が唸りを上げてヤマミを『偶像化(アイドラ)』ごと呑み込む。


「更に、火の精霊は我が意志に従い、敵なる者に無慈悲な灼熱で焼き尽くせ!! その圧倒的な燃焼力で以て、我が敵に己の愚かさを思い知らせろ!!! 上位階梯『煉獄業火球(カレアボルーア)』!!!!」


 集合して巨大化した竜巻が灼熱に覆われて、轟々と超高熱を発する火炎地獄が猛威を振るった。

 しかしそれすら、黒炎が急速に食い潰すように燃え広がって闘技場いっぱいに燃え盛った。

 障壁で阻まれているとはいえ、観客は恐れおののいて腰を抜かす人も出てきた。


「地獄かよ……!!」

「こんなん、今までで見た事ねぇぞ……!」

「あいつら一体何者だよ!!?」

「この大会を連覇しているニーナも、ここまでした事なかったぞ!!」

「試合なのか……これ??」


 すると黒炎を跳ね除けるように赤い光が収束していく。

 所々傷ついて満身創痍のニーナが両手を上にかざしていて詠唱をしていた。


「血みどろに歴史を構築せし罪深き生命に、我は断罪すべき審判を下す!! 世界を統べる魔の絶対王が絶えず殺意を吠え、精神と心を延々と瓦解させて貪る戦慄の闇!! 永遠に破壊をもたらし続け、偉大な滅びで世界を満たせ!!!!」


 浮遊コロシアムのみならず、広い範囲で震撼が広がっていって人々に戦慄を呼ぶ。

 真下の魔法都市にいる人々も思わず浮遊王宮へ視線を移す。空を覆う暗雲を突き抜けるように赤い光が天へ昇っていくのが見えた。まるで終末のような風景におののくしかない。


「最上階梯黒魔法『最終崩壊(エクスコラプス)』!!!!!」


 膨大な破壊を撒き散らす奔流が放たれて、見開くヤマミを『偶像化(アイドラ)』ごと眩い光で覆う。

 筒状の障壁のせいか、闘技場から天へ向かって尋常じゃない破壊の光が円柱のように昇っていって、暗雲を吹き飛ばすほどの大爆発が空に解放された。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!


 空を真っ赤に染め、広がっていく赤き爆風。なおも震撼が絶えない。

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