109話「技や戦法を自動生成できるインチキ剣技!!」
暗黒騎士時代のブラッドはエルフの村を虐殺していたが、ナッセに打ち伏せられてから徐々に心境が変わっていった。
そして騎士ナセロンの無様な様子で色々察した。
これまで喜々と戦ってきたものは品のない下卑た自己満足でしかない。プライドを抱いて己の強さを誇示する気持ちとは裏腹に、弱い者いじめばっかりして天狗になっていただけだ。
「フン……」
聖騎士ナセロンが憤って、冷酷な牙龍へ向かうのを見て思うものがあった。
ナセロンもオレもナッセと戦って、真の強者とはなんたるかを思い知らされた。
それは僥倖だった。
このまま変わらなければ、兎螺みたいな末路を辿っていたかもしれない……。
「がんばれ……ナセロン!!」
お互いこれからの競い合う生涯のライバルとして、快く笑むブラッド。
牙龍は冷徹な視線で目の前のナセロンを見据える。
「聖騎士ナセロン!! ツノを生やした異世界の人間か……。醜く下等生物らしい」
「失礼なヤツだなぁ……」
「きさまのような下等生物のガキを相手するのは気が進まんがな」
「とにかく、大人しく退くつもりはないでしょ!」
オーラを纏い、ナセロンは光の剣で構えていく。
牙龍は口元に笑みを走らせた。
「なるほど話が早くていいぞ。いいだろう……。来いナセロン!!」
血に塗れた切っ先を突きつける。
「望むところだよっ!!」
ナセロンは纏ったオーラの尾を引きながら牙龍へ飛びかかり、光の剣を振り下ろす。
それに対して牙龍は剣を横薙ぎにかざして受け止めた。
王宮を大きく揺るがし、何階もの床を次々突き抜けて一階下にまで二人の鍔迫り合いが続いた。
タイルを捲れあげて土砂が巻き上げられる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「危ないッ!!」
「城が全壊するぞ!!」
咄嗟にルシアが王様と王妃を抱え、ブラッドはカナリア姫を抱えて飛び退いた。
既にボロボロだった王宮はガラガラと崩れ落ちていった。
なおもナセロンと牙龍から衝撃波が吹き荒れ続けていた。ブオオオ……!!!
「このチートスキル『英合盛世』……! とくと味わえ!!」
牙龍のかざす剣は、一見すれば普通に見えるが……?
「うおおおおッ!!!」
「ッシイイイイイ!!!」
今度はナセロンと牙龍が激しい剣戟を繰り出して、幾重と激突を繰り返し始めた。
縦横無尽に駆け抜けながら二人は激しい接戦を繰り返して、残っていた王宮の残骸すら吹き飛ばしていく。
ギィンッと、ナセロンの光の剣を牙龍は両手で握った剣で防ぐ。
「死刃残影流・左残影剣!!!」
なんと牙龍の二本目の左腕が振るわれ、逆手持ちの剣がナセロンの腹を薙いだ。
「ガハァ!!」
まさかの二刀流にナセロンは血を吐き、うつ伏せに沈む。
さっきまで剣一本で戦っていたのに、唐突に二本目の左腕を生やしてきたのだ。
三本の腕をもつ異様な牙龍は笑む。
「俺のこのチートスキル『英合盛世』は自動で学習し、代わりに振るってくれる。そして学習を元に新たに技や戦法を生成してくれる。その結果、きさまは一撃をもらったわけだが……」
「なんだとッ……!?」
「勝手に剣を振るうに留まらず、技を作ってくれるスキルだと!? 聞いた事もない!!」
驚くルシアとブラッドに牙龍は一瞥する。
「俺は剣道もなにも知らん素人なのだ!! だが異世界転移されて、最高のチートスキルを得たのだ」
「チートスキル……!? じゃあ……自力で戦ってなかったのっ……?」
ググ……とナセロンは剣を立てて立ち上がる。
牙龍は笑む。
「きさまは何年もの剣技を鍛えていただろうが、俺は一瞬でそれ以上の剣技を得る。これからもドンドン学習していって最強の剣士になってやろう……!!!」
「な……なんてズルいヤツなんだ……!!」
「とにかく負けを認めろ! そうすれば俺の部下として飼ってやろう! きさまもそれなりに使える道具になるからな!!」
するとナセロンはオーラを噴き上げて完全に立ち上がった。
「ボクは天地無双を目指す者!!! 聖騎士ナセロンは決して決めた事を曲げたくないよッ!! だから絶対にインチキ剣技なんかに負けられないッ!! そして勝つ!!!」
「……やはり下等生物だな! その下らぬ陳腐な信念をチートで打ち砕いてやる!」
そんなナセロンと牙龍の戦いを、雷霆天尊はアイマスク越しに見ていた。
どことなく敵であるはずのナセロンに親近感が沸くように思えてならない。
「聖騎士ナセロン……か」
どこかで会ったような、僅かな記憶の残滓が浮き出ている。
もっと身近で接していたような懐かしい感覚が心を暖かくしてきた。
「うおおおおおおおッ!!!」
ナセロンは激しくオーラを放射して、弾けるように剣を突き出しながら突進した。
「ルミナス・トッパアァ────!!!!」
「ムダだ。その技もこのチートスキルが見切るだろう」
目にも止まらぬ一直線突っ込んでくるオーラ突進技を、牙龍の剣が反応して軌道を逸らそうとする。
両手で握る剣と、片手の剣。三本の腕で防ぐ二刀流の剣は鉄壁とも言える。
「なんのーッ!!! Lライジング!!! ルミナス・トッパーッ!!!」
なんと逸らされる瞬間、突進技の軌道を直角に変えて牙龍の剣を弾いて脇腹を穿った。
まさにLを描くかのようなありえない軌道変化に牙龍はぶっ飛ばされた。
「ガハッ!!!」
地面を無様に滑って横転して、建物の残骸に突っ込んで破片を四散していった。
ナセロンはハァハァ息を切らしつつも、技が決まった事に笑む。
「直角……!? なるほど!!!」
「戦えば戦うほど強くなっていくのはナセロンらしいな!」
ルシアとブラッドは感心する。
牙龍は瓦礫を吹き飛ばし立ち上がった。歯軋りして怒りに満ちている。
「よくも……チートスキルを!!! 破ってはならんダブーを犯しやがって!! きさまはただ俺の噛ませ犬として一方的にやられていればいいのだッ!!!」
牙龍は二刀流の剣を構え、凄まじいオーラを噴き上げていく。
ナセロンは油断なく構える。
チートスキル『英合盛世』は牙龍の怒りを汲んで、目の前のナセロンを惨殺すべき新たに技を編み出そうとする。まさに技の自動生成だ。
剣に任せて牙龍は身を委ねると、まるで鍛えこまれたかのように勝手に手足が動く。
その上、左右合計四本の腕でW両手持ちする二刀流になっていた。
「死刃残影流奥義・十死残影剣!!!」
牙龍の両手持ち二刀流が巨大な十字の軌跡を描き、ナセロンを呑み込んだ。
それは遥か先の建物を次々貫通して国外の砂漠にまで衝撃波が走って、ボーンと砂丘が大規模に爆ぜた。
「これは素晴らしいッ!! 下らぬ努力も苦労もなく、なんの代償も払わず、お手軽に大技まで生成してカンタンに敵を打ちのめすッ!!! これぞ最強のチートスキルッ!!! ハーッハハハハハハ!!!!」
初めて繰り出した高威力の技を目の辺りにして、牙龍は歓喜して有頂天になった。
それを見てカナリア姫と雷霆天尊は嫌悪した。
ルシアもブラッドも見下げ果てた、と哀れみを向けた。




