第九十六話『名をつける』
ルキフェルの口づけ日課発言から既に数日が経過した。口づけをされていない筈なのだが最近、天使様の機嫌がすこぶる良い。
(二日が過ぎた頃からせがまなくなった迄は良いが........可笑しいな。)
睡眠時に奴がキスをしている可能性以外にあり得ない。
(はぁ、キスの件もそうだが今は此奴らが問題だったな...........)
「アンタらも何で此処にいるの?」
現在大学の講義中なのだがルキフェルとディアーナの他に少女と狼さんがいた。因みに狼さんは現在、美女の姿を取っていた。
「吾輩らがいては不満かな?」
何時もの狼の姿ではない所為か違和感が半端無い。最早誰だ、お前。
「酷い言い様だな、少年。学び舎とは若き者が未来の為に学ぶ場所。吾輩が若き娘の姿を纏うのも道理というものよ。」
心情を見透かされ耳打ちをする狼さん。青年は狼さんの顔が近い事に若干耳を赤くする。狼さんの容姿も目立つが衣装も中世のドレスの様でかなり目立っている。男生徒達の視線が此方に向いているのは言うまでも無いだろう。
「ねぇ貴方、つまらないわ?」
プロ顔負けの鉛筆回しをしながら項垂れる少女。青年は自分の携帯を彼女へと渡し見えない様に時間潰してをしていろと言う。少女はパァと笑顔になりスマホゲームをやり始めた。て言うかその見た目で大学生は無理があるだろ。
「えぇ〜英語科教育法I・IIでは母語習得と第二言語の習得の違い、外国語教授法の変遷等の大きなテーマから始まり、より具体的な4技能(listening, speaking, reading, writing)の指導を行なって行きます。個人的な意見としては多国語の取得というのは筆で学ぶよりも会話を中心とした実用性のある学び方の方がよりネイティブかつ社会に出た時に役立つでしょう。」
教授がパワーポイントのプレゼンテーションにて此れから学ぶであろうカルキュラムの説明をして行く。
「そうですね、以前は自己紹介をしませんでしたので此れから行いましょうか。」
勿論挨拶は英語でお願いしますと教授は説明を加えると、生徒達はノートに何を言うのかを書き始めた。英語に慣れていない生徒は電子辞書などを用いて単語の検索などを掛けている。
(自己紹介でどんだけ気合いが入ってんだか。)
反対に青年は詰まらなそうに肘を机に置き何もしないでいた。
(そう言えば、英語話せる以前に此奴ら...........名前はあるのか?)
青年は両隣に座る童話勢に目を移す。
「何よ、私が可愛いいからってそんなに見つめないでよね。恥ずかしいじゃない!」プイ
視線に気づいたのか頰を紅くしプイッと顔を背ける少女。青年は何とも言えない表情となり狼さんへと顔を向ける。
「狼さんの事だ、英語は心配要らないと思うが名前はあるのか?」
狼さんは青年の台詞にクスリと笑う。
「吾輩に名など無い。生まれた時より孤独であるからな。人は吾輩を森の賢者と呼ぶが其れは畏怖を込めて付けられた名だ。分かりやすく言うならばニックネームと言う奴だな、くく。まぁ狼さんとでも名乗るとするよ。」
笑ってはいるが何処か遠くを見る眼差しの狼さん。
「...............名前、つけるか?」
青年は無意識の内にそう言葉に出す。少女もその台詞を聞き取り近くへと寄ってきた。
「まことか?」
随分と驚いた顔をする狼さん。
「け、賢者様だけズルいわ!私にも名前を付けなさいよ!」
少女はウキウキとした眼で青年を見つめ、今か今かと自分の名を与えられるのを待つ。そもそも名前を簡単に決めても良いのだろうか?
「_______二人はフランス発祥の童話から来ているからやはり国に合った名前の方が良いと思う。狼さんなら白を意味するブランチェ、少女は穢れ無きを意味するカミーユ何てのはどうだろう?」
青年は思い付きでそう口にすると二人は震えながら俯いた。
「気に入らなかったら忘れてくれ。ルキフェルやディアーナだっている。急いで決める事もないさ。」
心配してか青年は慌ててそう言う。すると狼が自分の手を取り机の上へと上がった。
「え、ちょ、狼さん!?」
「何をしているのかね!!降りな「AhwooooooooooooooOOO!!!」
狼さんは講師が注意をするのを無視し遠吠えを上げる。その表情は歓喜に満ちていた。
「此れより吾輩の名はブランチェ!この名を未来永劫名乗る事を此処に誓おう!!」
青年は急いで机から降り頭を教授に向かい頭を下げる。
(やばい.......確実に眼を付けられる。容姿的な意味ではなく問題児としての、だ。)
そして直ぐに狼さんを机から下ろし頭を下げさせる。狼さんは嬉しさのあまり現状を理解しないまま頭を下げた。
「みんな聞きなさい!!私の名前を特別に教えてあげるわ!どう、嬉しいでしょう!こんな可愛い女の子の名前を知れるのだから当然よね、ふふ。さぁ耳を澄まして聞きなさい.........スゥゥゥゥゥ」
大々的に名乗りを上げるために息を溜める少女。青年は即座に捉えようとするが可憐に避け大教室に名を轟かせた。
「私の名前はカァーミィユよ!!カーミィユ!!!カミーユ!!!!素敵なお名前でしょう!」
青年は頭を抱え席へと腰を下ろす。言うまでも無いが講義が終わった後、三人は反省文の提出を命じられるのであった。




