第九十四話『大公園』
「あははは!楽しいわね!」
大きな池がある大公園にてスワンボートに乗る。隣には少女が座りハンドルを握っていた。
(口は悪いが純粋だよなぁ、この子。)
街に繰り出してからと言うもの、少女は楽しそうにはしゃいでいるのだ。本来ならば微笑ましい光景なのだろう。
「ただ..........楽しいのは結構だが、本来のボートの楽しみ方はそうじゃあない。」
「ん?聞こえないわよ!今忙しいから貴方は私に抱きついてなさい!振り落とされるわよ!」
現在進行形でルキフェルとディアーナが乗るスワンボートとぶつかり合いをしているのだ。
「おい、やめろ!従業員達が俺達を止める為にボートに乗り出しただろうが!!」
青年は少女へとしがみつき止める様に言うが嬉しそうハンドルを切りルキフェル達の乗るスワンボートへとぶつける。
「ジョン、今直ぐにその女から離れなさい!此処は逢引きをする場所ではないと忠告をした筈です!」
「うふふふ、落とされたくないなぁらぁ私達の所にぃ戻って来て下さいぃ?」
あの二人の目は本気だ。本気でこのボートを破壊するつもりで来ている。
「安心しなさい!私がこの遊びで勝ってあげるわ!そうしたら御褒美を貰うから覚悟しなさいよね!」
この天然少女は未だに此れを遊びだと思っているのか。
「そこの二台のボート!今直ぐにポートに戻りなさい!」
自分達の乗るスワンボートへと近づき注意をされる。
「す、すいません。今直ぐに「貴方達も私達と遊びたいのね!」おいいいいッ!!いい加減にしろ!」
「他のお客様の迷惑行為となるッ!?」ドンッ
ルキフェルが乗るスワンボートが注意に来た従業員のボートへとぶつかり従業員達は池に放り出される。
「邪魔です。私は今忙しい。他の人間などに構っている時間はありません。」
「そうですよぉ。ポッと出の女が私の『もの』を横取りしようとしているのですから貴方方は其処で静かに沈んでいて下さぁい?」
冷たい視線を浴びせるルキフェル。ディアーナは台詞とは裏腹にボートに付けてある浮き輪を従業員の浮く近くに投げ捨てる。
(誰が私の『もの』だ。あぁ問題ばかり起こしやがって!!)
するとトントンと自分の肩を叩く少女。目を向けると彼女はニッと笑い前を指差す。
「準備はいい!いっくわよぉーーーー!!!」
前方にはルキフェル達がスワンボートを凄い勢いで加速させ此方へと向かって来る。そしてこの少女はと言うとどうやらそれを迎え撃つらしい。
「ば、馬鹿かお前!と、止めろー!!」
言うまでもないが両ボートは大胆に破損し池の底へと沈んで行った。もちろん乗組員である自分達も池へと飛び込む羽目となった。
”汝らは阿呆なのか?”
広場にて待機していた狼さんは開口一番にそう言う。御もっともなのは言うまでもないが其処に自分が含まないでもらいたい。
「あははは!楽しかったわね!」
びしょ濡れになりつつも笑顔を向ける少女。青年も同様にずぶ濡れなのだが少女とは違い疲れた顔をしていた。
「.........何が楽しかっただお馬鹿娘!それと駄天使に変態聖女もだ!!限度があるだろ、限度がぁ!!」
先ず、その『え、何言ってんだ此奴?』見たいな表情を止めてもらいたい。
「はぁルキフェル、警察が来る前にスワンの修復と従業員達の記憶の改竄、目撃者達への暗示を掛けてくれないか。」
現在スワンボートの貸し借りをしている待合所にて拘束を受けていた。それもその筈。注意に来た従業員に怪我を負わせた挙句ボートを破壊をしたのだ。警察を呼ばれない方が可笑しい。
(こんな昼間から騒ぎを起こすなんてとんだ災難だ。)
「何故私が人である貴方の指図を受けなければならないので........いえ、今回は特別に貴方の願いを聞き入れましょう。」
やけに素直なルキフェルに怪訝な表情を向ける。何時もならば此れの数倍の時間を説得に費やさなければならない為、何か裏がある。
「それでは始めます。天の祝福よ______」
ルキフェルが羽を広げ聖なる光を雲の間から差し照らす。すると破損した箇所は修復され、目撃者達はその場で静かに制止するのだ。
(ちょっとしたホラーだよな、この光景って。)
そして大公園は何時もの活気を取り戻し止まっていた人々も何事もなく一斉に動き出した。
「あはは、滑って落ちてしまいましたよー!」
先程まで怒っていた従業員の一人が自分達へと笑いかける。どうやら彼には池に滑って落ちたと言う記憶でも上書きをしたのだろう。
「ありがとう、ルキフェル。」
主犯の一人とは言え後始末をしてくれたのだ。感謝の言葉は伝えよう。
「奇跡の行使、本来ならば無闇やたらに下界にて行使をして良いものではありません。其れを己が為に使ったと知
れば天界での名誉、追放につながります。」
そもそもお前は追放されただろうと心の中で思う。
「ですからジョン、相応の力には相応の対価が必要だとは思いませんか?」
ジリジリと自分へとすり寄ってくるルキフェル。
「はぁ.....分かったから、あまり顔を近づけるな。」
この堕天使様はどうやらご褒美が欲しいらしい。そもそも事を起こした犯人の一人はお前であると言う事をもっと自覚して貰いたい。
「その言葉に二言はありませんね?」
「あまり無茶な願いはしてくれるなよ。」
ルキフェルはにっこりと天使の様な微笑みを見せるととんでも無い事を言い出した。
「難しい事ではありません。私と”口づけ”をして貰いたいのです。」
その台詞を聞きディアーナは自販機で買ったお茶を口から吹く。其れが少女へとかかり怒るのだが其れを仲裁している場合ではない。
(.............この堕天使、今何て言った?)
”同胞はどうやら少年と熱い接吻をご所望の様だ”
狼さんが心の声に答えてくれる。そもそもデフォルトで心を読んでくるのをやめて頂きたい。




