第八十一話『泥』
「_________殺せば良いんですよね、ね♡」
ディアーナが窓を覗き、満遍の笑みでそう言う。
(言い訳なぇだろーが!!)
「この惨状の所為で世間は騒ぎ出してる。外で赤いサイレンを鳴らしているのは捜索隊だ。ずっと家に籠ってる訳にも行かないだろう?」
「私はジョン副団長と一緒に入れれば構いませんよ?」
「俺は構います!!」
「もぅ♪若かりし頃のジョン副団長はワガママなんですからぁ♡ま、そこが可愛くて食べてしまいたいんですけども。ですが残念です。私には破壊と絶望、虚栄しか生み出す事が出来ない救世主でぇす。もちろん、伽を申せと言うのなら今すぐにでも全力を持って答えますが。いえ、もうしましょう!したいです!シたいなぁ♡」ずい
「ちかいちかいちかい!!!」
青年に顔を抑えられながらディアーナは視線をルキフェルへと送る。
「貴方は何か方法はありますかぁ?」
「此の国に住まう人間全てに洗脳を掛ける事は可能です。ですが脆弱な人には不可がかかりすぎる。」
矛盾が生じれば脳に過負荷、過熱が生じるとルキフェルは言う。
「.........規模が桁外れ過ぎませんかねぇ。」
「え、えぇ。」
青年同様にディアーナも驚きの表情を見せていた。
「熾天使であれば誰しもが行使が出来る権能です。神なき此の世に置いては制約がありません。従って私は自由に力を行使が出来ると言う訳です。それと付け加えるならば私は世界に終焉をもたらす事なども容易に出来ますよ。次席ですからね、私は。いえ、寧ろ私の方が神に相応しいのではとさえ思いますよ、えぇ。ですから、人のなり損ない_____自分だけが特別だと思わない事です。」
ルキフェルは自慢気にそう口にする。そしてディアーナは苦虫をすり潰したような表情を見せた。
「でもでも死者の蘇生もどきや生命を生み出すことは出来ないんですよね?はは、神様向きな力ではないなぁ〜って私個人としては思いますけどぉ♪」
ねぇ、いい加減に互いに皮肉を言い合って牽制するのやめて?
「てか、あんたは蘇生もどきは出来るのか?」
「出来る出来ないで言えば出来ますよぉ?もっとも、やるかは別ですが、ふふ。」
ルキフェルは即座にディアーナの首を掴み上げ命令する。
「今すぐにやりなさい。拠点である住処を失うわけには行かないのです。私は彼と共に時を過ごすと言う盟約を交わしている。貴方には拒絶する資格はない。」
ディアーナは首を絞められているにも関わらず意味深に嗤った。
「あはははは!!!時を過ごす!?あは♪何故、その美男を助ける必要があるのですぅ?貴方の力があれば此の世など容易く支配下におけるでしょうに。一人の人間に固執する必要はないのです。ですから好きに生きて貰って構いませんよ?私は『彼』でなくてはいけないので、貰っていきますけど。」
「どうやら話をしても無駄のようですね。ここで私に消滅させられるか、現状を貴方の力を持って打破するか______決めるのは貴方次第です。」
ルキフェルは首を絞める手に力を入れていく。
「うぐ..........うぅ、分かりましたよぉ!もぉ!」
(ジョン団長と再び巡り会えた______けれど、此処で殺されてしまっては本末転倒です。今の私ではこの方に勝つことは難しいでしょうし。)
ディアーナは指をパチンと鳴らすと瘴気が影から溢れ出し球体の形を形取っていく。
「_______散りなさい。」
そして球体達は窓ガラスを割り外へと四散して行った。
「記憶を入れた泥人形達を放ちましたぁ。夜明け前には記憶を頼りに御自宅へ帰宅するでしょう。」
説明するに瘴気で呑み込み死んだ者達の記憶を瘴気で模した人形へと埋め込んだと言う事らしい。
「まて、それじゃあ其奴らは........」
口を噤む。
「記憶を持った人形達は自分を本人だと自覚し生活に戻るでしょう。何も心配をする必要は有りませんよぉ?」
(スワンプマンと同じ原理だが、此れしか解決法がない以上は頼る他ないよな。)
青年は椅子へと座る。ルキフェルはディアーナから手を放し対面側の椅子へと座った。
(取り敢えず問題は解決した.....だけど、この女を此れからどうするかが問題だな。)
明日になれば報道で住人達の生存が報告されるだろう。出現と同時に世界を呑み込もうとした災禍だ。
(個人的にはルキフェルに彼女を殺して欲しくはない____)
自分達の手元に置ければ監視は出来る。それを見透かしてかルキフェルが声を掛けた。
「この者を野放しにすれば近い将来、混沌が世界へと撒き散らされる事になります。」
天使は青年を見据えそう言う。
「分かってる。だけど、殺さないで欲しい。ルキフェルやディアーナみたく異世界から此方へと召喚、もしくは転移をしてくる奴らがいる可能性があるからだ。」
ルキフェルは眉間に力を入れる。
「私とこの者にこの世の抑止力になれ、と?」
ルキフェルはディアーナへと一瞥くれると青年を睨みつけた。
「抑止力になれとは言わないが、此処に来る奴の中にディアーナの様に敵意を撒き散らす奴が現われる可能性があるだろう。そうなれば必然とオレ達へと当たる。そしてアンタは途轍もなく強く聡明だ。だが時には協力が必要となって来る機会があるかもしれない「ありません」....お前の世界で言うメタトロンクラスの奴が現れたらどうすんだって言ってんだ?」
神の代理人、天の書記の肩書きを持つ熾天使の名を口にする。
「それは.....神剣、いえ、深淵の力を取り入れればば容易く「この世界にはないだろ?」____っ」
ルキフェルは黙る。
「幸いディアーナの設定を見る限りじゃあルキフェル同様に最強クラスの能力を有しているし、利用しないでどうする?」
「しかし、この者には規律、秩序、善が大きく欠洛している。信用に値する者ではない。」
「うふふ、なら私を封じますぅ?其れとも仲良く一緒に生活ですかぁ?」
「俺たちはアンタをまだ信用していない。だけど、俺個人はそんなに悪い奴じゃないって考えている。取り敢えず住めば都って奴だ。あと、あんまし互いを挑発しないで貰うと嬉しい。心臓に悪いから。」
青年の言葉にディアーナは苦笑を見せた。
「あぁ、ジョン...........貴方は本当に優しく、いえ、だからこそ私は_____」
______貴方に惚れたのだ。
「安心して下さい。私は貴方の『味方』ですよ。貴方だけは絶対に守ります。どのような外敵が襲いかかろうとも世界が貴方を敵に回したとしても______私は常に貴方と共に。」
それだけが私の生き甲斐であり、この世界へ召喚された意義なのだから。




