第八十話『天使と深淵は息が合わない』
「せ、生存者を発見!生存者を『パチン』..........私の見間違いでした。此方も近隣同様に住人の確認が出来ません。」
ルキフェルが指を鳴らすと警察官の男はまるで何も見なかったかのようにその場から去っていく。そして扉を閉めると今は眠っている女の元へと足を運ばせた。
「_____そろそろ目覚めなさい、深淵に触れし人間。」
青年は即座にルキフェルの後ろへと身を隠す。
「ふふ、気づいていましかぁ♪あぁ〜あ、人が沢山死んでしまいましたねぇ♪いえ、救済されたんでぇす♪それもこれもぜーんぶ貴方のおかげなのですよぉ♪」
女は嬉しそうにそう口にする。と言うか先程から視線が何故かルキフェルではなく、こちらに向いているのは何故なのだろうか。怖い。単純に怖いんですけど。
ルキフェルはそんな女の態度に苛立ちを覚えたのか即座に翼を広げ天使の聖槍を出した。
「光の世に闇は在ってはならない。」
聖槍を女の顎へと当て顔を自分へと向かせる。
「ふふふ、光の世.......ですか。笑えない冗談でぇす。私の世界では私が人類全てを救済し、天界をも滅ぼした。神ですらも私を止められず、死んでいった。ははは!!!闇の世、なのですよぉ!!!!天使ぃいいい!!!!」
馬鹿笑いをしながら髪を乱雑に掻く女に恐怖を感じる。反対にルキフェルは冷めた目で女を見ていた。
「闇と光は常に均等であらなければなりません。そして私達熾天使の役目はこの管理にある。例え主である神に逆らった私とて世の均衡が崩れる危機とあらば己の欲望を割り切り使命を優先させるでしょう。」
「ふ、天界人らしい考え方です.........己の覇道を進まぬ腰抜けが♪」
ブチっと血管が切れる音がする。ルキフェルの顔を覗き込めば顔をものすっごく赤くし、今にも女へと襲いかからんとした表情を見せていた。
「あぁぁあジョン、この人間、殺しますけど、良いですよね?」
ダメに決まっている。この女は恐らくだが何かしらの情報を握っているのだから、生かして情報を聞き出したほうが良い。幸い、ルキフェルの実力ならば簡単に捩伏せられるのだし手綱を握るのも容易だろう。
「ちょ、ちょっと待て、ルキフェル!!一つこの女に聞きたい事があるんだ!!!」
「待てません!!」
「鳥類は黙って。今、ジョン副団長がお話して下さるでしょーが。はぁ、これだから鳥頭は_____さぁ、何でも聞いてくださぁい♡スリーサイズですか?88 - 59 - 89 cmでぇす♡ちなみに身長体重は168cm/45kg♡好きなものは私だけを想って下さる副団長♡子供は、こんな身体になってしまったので妊娠出来るか不明ですが毎日最低でも五回は頑張りましょう♡あ、でも子供が生まれてしまったからといって子供ばかりに愛情を注いでいては殺してしまうかもしれないので悪しからず♡あぁ〜、いえ、そう考えると子供は入りませんね。私はジョン副団長がいればそれだけで幸せなんです♡二人だけの世界で二人で永遠に暮らすって何だか、憧れませんか?憧れますよね♡憧れるって言って下さい♡ふふ、そう、やはり憧れますよねぇ♡だってジョン副団長と私は相思相愛♡誰にも分かつ事が出来ない程に強く結ばれた関係なのですから♡でも待ってて下さいね、裁定者を殺めるに至るには王冠を手にしなければ行けないようなのでぇす。とは言え、運良くこの世界には沢山の同類が召喚されいるようのなので、捕食して力をつけてしまいしょう♡えへへ、ジョン副団長が望む事ならなーんでも致しますからぁ♡なーんでも言って下さいねぇ♡」
「」
ルキフェルへと助けての視線を送る。しかしルキフェルは『?』を浮かべ女へと視線を向けた。どんだけ鈍いんだ、この天使は!!
「それで、ジョン_____貴方はこの人外に何を聞くと言うのです?」
「あ、あぁ、そうだったな..............単刀直入に言う。アンタは何処から来た?」
仮面の様な笑みを常に張り付ける女の表情が憤怒の表情に変わる。
「ああ、世界に慈悲はないのですかぁ。人が幾ら信仰を捧げたところで彼等は何もしない。何故、ジョン副団長が私について知ってくれていないのか..............『ラディアンス』、小さい頃にプレイしませんでした?」
『ラディアンス』って今年で16作目になるシリーズ化されている人気RPGゲームだろう。て言うかなんで俺を副団長って呼ぶんだろう?
「あぁ〜、確かに小さい頃にRRVIIで遊んだなぁ。」
「な、7作目........う、うぅ、何で1作目と2作目をプレイしてないんですかぁ!!!!」
「.................いや、だって古いし?」
女は絶望とした表情を見せる。とは言え、これだけ『ラディアンス』と言う作品を口にしていると言う事は彼女はその世界から此方へと召喚されてしまった創作物なのだろう。
「え〜と、名前は?」
「貴方の永遠の妻、『ディアーナ』です。」
親愛度が異様に高いな、この子..........取り敢えず携帯で検索を掛けてみる。
「Radianceシリーズ第1作目と第2作目に出てくる聖女と深淵の女王の名前だ。凄いな、ファ◯コン時代から続く元祖王道RPGゲームの世界からも召喚されるのか.........ん?新作も年末に出るようだぞ?」
新作のPVの動画を再生する青年。高画質のアニメーションにど迫力の戦闘、効果音が部屋全体へと鳴り響く。ルキフェルとディアーナも気になりスクーリンへと眼を移すと主人公らしき人物を癒すディアーナの姿が映っていた。
「え!?リメイクするんですか!!?この現在の技術力で!!!えぇこれは絶対に買いですよ!!」
興奮した面持ちで携帯のスクリーンをガン見するディアーナ。
「今回は純粋なRPGではなくて死にゲーのアクションRPGにするっぽいな。」
なんか、君はこの瘴気に打ち勝てるか?なんて広告に乗ってるし。
「____彼女の出自は分かりましたし消滅させましょうか。」
ルキフェルは冷たくそういい放つ。
「さ、流石にそれは可哀想じゃないか?」
「いえ、危険は早急に排除した方がいい。見ての通り、この世界に現れた瞬間に災禍を振り撒いた瘴気の権化ではありませんか。」
「まぁ酷い!こんないたいけな少女を殺すと言うのですか!」
少女と言う歳でもないとは思うが。
「取り敢えず、『ディアーナ』のプロファイルを見てみよう。卓越した僧侶としての能力、そして神に愛された者にしか行使が出来ないと言われる奇跡を若年ながらにして修得。才能を認められ僅か15にして司祭の地位に着き17の年に中
央教会、大司祭から冒険者の補助に就くようにと命じられる。」
「.......『史実』での私の経歴でぇすね、それは。」
「数多の冒険者達の補佐を得て勇者ユーノ達と出会う事になる。そして瘴気を止める冒険に共につく事になった。実は死霊系統の魔物が苦手である。」
「臭いんですよねぇ、肉の腐った匂いって」
「ジョン、その様な初期の情報ではなく此処に至るまでの経緯を知る事が出来れば貴方が納得する処遇を決める事が出来るでしょう。」
結末を提示しろと要求するルキフェル。取り敢えず”Radiance”、”ネタバレ”と検索を入れて見ることにする。色々なポーズを決めるディアーナの姿が映し出される。てかこいつ、ブランド物とのコラボもしてるのか。
「私って意外と人気な登場人物らしんですよぉ、ふふ♪とは言えジョン副団長にだけ人気が貰えれば私は他に何も要らないんですけどねぇ♡」
鼻息を荒くし自分に顔を近づけるがルキフェルにより引き剥がされる。青年はそんな二人の姿を横目に邪な考えを浮かべていた。
(この二人の名前の後に”エロ”ってつけて検索すれば_______)
ルキフェルの聖槍が首筋へとギリギリの所に置かれる。
「邪な思念は棄てなさい。」
「_____はい」
青年は冷や汗を流しつつファンによるディアーナの考察とネタバレへと眼を通す。
「ディアーナは勇者ユーノ以上に人の身を案じている心優しい聖女。自身に瘴気を封じ込める奇跡を行使し続けた結果、瘴気が徐々に精 自我神を侵食していく事になる。だが最後の決戦の時まで鋼の精神で抑えつけ遂には冒険の間は仲間達に隠し通す事に成功する。」
ディアーナの顔を覗き込むとケロッとした顔で笑っていた。何が面白いのか分からないが取り敢えず視線を携帯へと戻し続きを読む事にする。
「しかし、決戦の城に置いて精神の限界を感じ勇者ユーノへとあとを託すと魔物達の中に一人身を投じた。ディアーナは人として戦い人として死んだ。瘴気は完全にディアーナと混ざり再び鼓動を取り戻す事となる。」
身を呈して人類を救おうとした聖女が闇落ちしたと言えば分かりやすいだろう。
「そして冒険者、ユーノ達が戦かった最後の魔界の王【骸の魔物】との戦いで勝利した直後、ディアーナはマールスを残し全員を殺害。そして天界への門を開いたディアーナは天界へと足を踏み出す所でRadianceシリーズ一作目は終了を告げている。「第二作目はマールスを主人公とした物語っぽい。ディアーナと相打ちになりながらも世界を救うって書いてある。」
「本当におかしな話ですよねぇ、ふふ。私がぁマールス団長ごときとぉ相打ちするのですから。あぁ〜あ、史実って恐いですねぇ。」
ディアーナは身をベッドへと倒す。
「天界を滅ぼした後に地上へと帰還したディアーナは世界を瘴気で覆う。人類は八割が死滅し、多大な被害を齎した。生き残ったのは魔力値が高いマールスら冒険者のみだった。そしてマールスは生き残った人間を集め核であるディアーナを討つ為に再度、冒険の旅へと出る。と此処まで言えば分かるだろうが主人公であるマールスは前作主人公であるユーノ同様に快進撃を繰り広げアンタの元へと最終的には辿りつき相打つって訳だ。」
携帯を机へと置き首をディアーナの方へと顔を向ける。
「.......」
ディアーナの表情は笑みを浮かべているが目が笑っていなかった。
「私の救済は一歩及ばなかったと言う訳ですね。」
(史実の私は救済出来なかった______だけど、ここにいる私は救済を成し遂げ自決した。ジョン副団長のいない世界に絶望をしてしまったから。)
「全人類の殺害が救済になると本当に考えていたのか?」
青年は単刀直入に聞く。
「人は苦しみを感じる。その連鎖が無限に続き続ける。ならば、それを止めなければ人は報われません。誰もが幸福で豊かな世界を望む。そしてそれを唯一可能とする者が私なのです。」
「だから貴様は死を与えるのか?傲慢な考えだな、人もどき。裁きを与えるに相応しいは『神』のみ。人が人を裁くなど言語道断です。」
ルキフェルはディアーナの意見に切り返す。
「貴方と私とでは価値観も世界もが違います。そもそも管理と傍観は違う事を理解した方がよろしいのでは?」
「人は手を下さずとも自ずと成長して行く。アダムとイブのアレがそうであったように。それを妨げる行為は救済ではなく悪そのものであるのです。上位者は積極的に干渉するのではなく座して待つのです。それを傍観と捉える貴方はそこまでの存在であり、所詮は人の枠から外れられない小娘なのでしょうね。」
二人は互いに睨み合う。外からは未だにパトカーのサイレンが鳴り響いていた。青年は今にも殴り合いが始まりそうな両者の真ん中に立ち仲裁をする。
「取り敢えず_______外の事をどうにかしないか?」
苦笑をしながら青年は窓から覗く赤い点滅を指差すのであった。




