第七十八話『熾天使は強い』
「______大人しく其処で待っていなさい。」
ルキフェルはそう言い残すとその場に白翼の翼を舞わせ消えた。青年はいきなりの事で驚く。
「あ、おい、ルキフェル!!」
爆炎の中にいる女へと視線を移すとその女の背後へと姿を現すルキフェルの姿を目にする。
「深淵に触れた異端者よ_____それは人間には過ぎた代物です。」ザク
ルキフェルは天使の長槍でディアーナの背後から心臓を突き刺し告げる。
「うぐっ....いきなり、人を刺すなんて......天界の者として...........どうなんですかぁ........」
槍を引き抜き血を払うルキフェル。だが心臓を穿たれて尚も死なぬディアーナに違和感を感じた。
「闇を払うは我らが使命。貴様は既に魔性の怪物であり世界の根幹に害を齎し兼ねない災厄なのだ。」
「災厄、ですか......ふふ、ふふふ」
痛みで頭がおかしくなる。そして瘴気による自動修復が発動しない。ディアーナは冷や汗を浮かべる。
「天使の聖愴を受けて尚も完全なる浄化には至りませんか。どれ程の闇を秘めいてる、人間?」
「私こそが....おほ、おほ、.....闇そのものなのです...ふふ」
(強い。私の世界のどの猛者達よりも。闇の化身と化し、勇者ユーノの力を取り込んだ私の数段上を行く。人外なのは一体どっちなんでしょうね、この天使さんは。)
胸を抑えつつも嬉しそうにルキフェルへと振り返るディアーナ。
「攻撃の速度が速すぎて見えませんでしたよぉ、ふふ............うぅ!?」
ディアーナは驚愕の表情を見せると自らの杖を傷口へと刺し込み周囲へとどす黒い血をぶちまけた。
「くっ、身体がっ......」
(っ..あの..聖槍の影響ですか......瘴気が悲鳴をあげて......身体が勝手に....制御でき)
ディアーナの意識は途切れる。だが身体は意識を失っても尚、自動的に動き杖を胸から引き抜いた。そして引き抜いた先からは膨大な瘴気が溢れアパート地を中心に一帯の住宅地へと広がって行く。
「っ!」
ルキフェルは咄嗟に青年の元へと翼を羽ばたかせ抱え上げると空へと飛翔する。
「た、助かった、ルキフェル.....」
ルキフェルへと礼を言う青年。だがルキフェルは何も言わず地上を見つめていた。青年自身も地上へと視線を移すと広大な被害が地上を襲っているのを目撃した。
「っ........アパートどころの騒ぎじゃないぞ!!」
惨状を見てそう言葉を漏らす。空から確認出来る地上は瘴気に染まり今も尚徐々に範囲を広げていたのだ。
「る、ルキフェル........どうにか、出来ないのか?」
この惨状を打開できるのは恐らく天使であるルキフェルを置いて他にはいないだろう。
「言われずとも承知しております。________『天の祝福』」
ルキフェルは地上へと手を翳しそう口にする。
「........光が」
突如視界が眩くなる事に驚き空を見上げる。時刻は既に夜間の筈なのだが昼間と同等の光が周囲一帯を指していたのだ。そして天からは鐘音が響き瘴気を浄化させていく。
「天使とは主である神を守護する為に存在します。」
「ルキフェルみたいな奴が出て来た時とかの為か?」
青年は軽口を挟むとルキフェルは青年の頬を抓った。
「確かに私の様な反逆者は該当するのでしょうが本来の外敵は他にあります。」
ルキフェルは天へと手を掲げ告げる。
「主は創世期に天使達へと向け言葉を授けました。」
”光は闇の中に輝いている。闇はこれに打ち勝たなかった。”
「創世期後に主は同胞達へとそう語られました。ですが、創世期以前よりも生を受ける私は知っているのです。闇とは神が切り離した半身、世界のもう一つの写し身であると。深淵は常に主と結合しようと足掻いている。不完全であるのならば一つへと戻ろうとするのは必然。世界へと侵食を開始する。それを抑え均等に保つ責務こそが我ら最上位天使である熾天使に課せられた本来の役目なのです。そして、その一端を表世界である光の世に存在させるなど本来ならばあってはならない事象なのです。」
「そんな力を取り込んで反逆したもう一人の物語を知ってるんだけど、それが誰か言っていいか?」
青年の言葉にルキフェルはギロリと睨みつけると地上へと翼を降ろし、彼を投げ捨てた。
「それは私であって私ではありません。」
フンっとそっぽを向くと歩き出してしまう。
「ま、待ってくれ!悪かったって!!」
青年はそれを追いかける様に走った。




