第七十七話『堕ちた聖女《後半》』
「.......何で、よ」
ユースティティアは身体に鞭を入れユーノを突き刺した人物の元へと魔力切れの身体を引きずらせる。
「何をしてるのって聞いてるのよ!!」
突き刺した人物は笑みを浮かべるとユースティティアの元へと自ら近づいた。
「今ならまだ間に合うわ、ユーノを治して」
刺した人物の足へとしがみつき訴えるユースティティア。だがその人物は首を横に振り奇跡を唱え始めた。
「..........ユースティティア」
ユーノは遂には体勢を支えきれずその場へと倒れる。そして沈みゆく視界の中、眼にしたのは仲間であった筈の女にユースティティアが殺される姿だった。
「勇者様も死んでしまいましたかぁ。ふふ、死んでしまうとはなんと情けない♡」
嬉しそうにその場をくるくると回る女。
「残すはマールスさんだけですがぁ.......普通に殺してしまうのはぁ実につまらないと思うんでよねぇ♪」
鼻歌を歌いながらマールスの倒れる元へと向かう。
「ツンツーン!起きて下さぁーい!.........................起きないといたずらしちゃいますよぉ?」
女はマールスが起きない事に腹を立てマールスへと水を掛ける。
「痛ッ、オレは.........そうだ、ユーノ!!」
骸の魔物に攻撃を受け気を失っていた事を思い出すマールス。だか其処にいたのはユーノでもなくユースティティアでもなく最初の間にて別れた筈の仲間の姿だった。
「『ディアーナ』さん!無事だったか!」
「必ず戻ると勇者様と約束しましたからね、ふふ。」
仲間の無事に安堵の表情を浮かべるマールス。
「本当に無事で良かった.........戦いは終わったのか?ユーノとユースティティの姿が見当たらないが」
「ふふ、安心して下さぁい。戦いは決着がつきましたよぉ♡」
頰が異様に釣り上がるディアーナに違和感を感じるマールスだが戦いに勝利したと言う言葉がその違和感を勝った。
「そ、そうか、ならユーノ達は「死にました」........嘘......だろ「嘘です」は、は?おいおい笑えない冗談はやめて
くれ、心臓が止まりそうに「正確には殺しましたが正解ですかねぇ、ふふ」
思考が理解に追いつかない。
「な、なぁ、冗談.......なん、だよなぁ?」
マールスはディアーナから一歩距離を取り警戒をする。ディアーナは即座にマールスの元へと近づき不気味な笑みを浮かべるとマールスの耳元で小さく呟いた。
「私が御二方を殺しましたと言ったらどうします♡」
クスクスと嗤い声をあげるとマールスの視界から退き二人の姿を見せる。
「あぁ......あぁ.......何で......ユーノ.......ユースティティア........」
マールスは二人の倒れる元へと駆け寄り抱き締める。
「あぁ、此れこそが絆!友情!仲間なのですねぇ!美しい!美し過ぎて涙が出てしまいます、マールス♡」
煽る様に嗤いぴょんぴょんとマールスの周りを回るディアーナにマールスは怒りで頭が可笑しくなりそうになる。そして大剣を手にディアーナへと襲い掛かった。
「ディアーナッ!!!」
大剣をディアーナに向け振り下ろす。だが大剣の一撃は片腕で容易く受け止められてしまった。
「うふふ、勇者様ならともかく、貴方の実力では.......些か、力不足ですよぉ?」
「!?.......グハッ!」
大剣ごと持ち上げられたマールスは横へと投げ飛ばされる。
「あぁ、やはり瘴気は馴染みます、ねぇ♡」ドシ
マールスはディアーナを睨み付け立ち上がろうとするがディアーナの足により顔面を地面へと戻される。
「そうですねぇ、やはり貴方は生かしてあげましょう。帝国へと戻り報告をする人間は必要ですからねぇ♡」
何かを考える様にそう口に出すディアーナ。
「許さねぇ.......絶対にてめぇだけは.......俺が」
ディアーナはマールスから足を離し玉座の元へと足を進ませる。マールスは後を追い掛けようと身体を動かそうとするが既に肉体は限界を迎え一歩も動けずにいた。
「..................マールスさん、私は世界を救います。」
慈愛の表情を浮かべ振り返るディアーナ。
「.........人殺しに世界は救えねぇ」
即座にそう切り返すマールス。
「救えますよ。神が我らを救わぬのなら私が救います。」
悲観に満ちた表情で言うディアーナ。
「.............そうですね。マールスさんには特別に教えて差し上げましょう。」
ディアーナは鍵の様な物を骸の魔物の玉座へと差し込むと光輝く門が出現した。
「四つの渦を鎮めた際に消滅した瘴気。あれは正確には消滅したのではなく還元されたのです。」
マールスは眉間に力を皺を入れ疑問の表情をする。するとディアーナは突如、上半部をさらけ出しマールスへと自身の身体を見せた。
「何をして_____ッ!?」
マールスは眼にする。其処には深き闇、底知れぬ瘴気の渦が刻まれている事を。
「ディアーナ、お前はっ.........」
目の前に居る人物は決して自分達が共に旅をした仲間ではない。仲間の皮を被った何かだった。
「質問をしましょう。還元されたのは何処でしょう、ふふ♡」
その質問と共に門が開門する。そしてディアーナは服を着直し門へと優しく子を愛でる様に触れる。
「やっと開きましたか。ふふ、此れの行き先ぃ気になりますよねぇ?実は私も知らないんですよねぇ♡教会にある文献にはこの大陸を創りし神々が住まう聖域へと繋がると記されているのですがぁ、他の文献にも違う事が書かれていたんですよねぇ?そう、例えば魔の長が住まう冥府とも繋がるとも。もっとも実際問題、私自身が確認する他、確かめる術はないんですけどねぇ、ふふ。」
門へと触れるディアーナの身体は何処かに移動をする様に徐々に消えていく。
「ただマールスさん、そのまま追いかけて来てはダメですよぉこの門を通過出来るのは根源を取り込みし者だけですのでぇ。資格無い者が無理に入り込もうとすれば死にますよ。」
マールスは血を吐き出しながらも大剣を握り締め最後の力を振り絞りディアーナへと向け投擲する。
「.......ああ、時間の様ですね。次にお会いする時は人類を救う(殺す)時でしょうが精々抗う事をお勧めしますよ。今回の様に簡単に言ってしまうのは実に...........ふふ、つまらないので」
大剣はディアーナを素通りし骸の魔物の玉座へと突き刺さる。
「うがあああああああああああああああああああ!!!!!!」
そして門はディアーナと共に消失しマールスは一人屍の中に取り残される。マールスは拳を何度も何度も地面へと叩き付け叫ぶのであった。
「うーん........史実の私、本当にバァカですねぇ」
聖女ディアーナは己の原点である【Radiance】をプレイしながら愚痴を漏らす。
(この後、史実の私は天界を滅ぼして、魔物達を統一させ居城を魔界の奥に建てた。けれど、聖剣クラウ・ソラスを手にしたマールス団長との戦闘にて相討ちとなり死亡。)
「一体全体どうしたら敗北と言う結末になるのでしょう?勇者ユーノは消したのに何故、其処で失敗するのか理解に苦しみますよ!」
因みにラディアンスとは1980年代に発売されたRPGゲームである。一作目は聖女が瘴気に呑まれ、仲間を裏切るところまで。二作目はマールスを主人公とし、ディアーナが討ち倒され世界が平和になる物語であった。
「はぁ、ジョン副団長........此処が貴方の世界である事は分かっているんです.......一体何処にいるのですかぁ?」
瘴気が無意識の内に溢れ出す。
(天界を制し、魔界を統一した後......私は全人類を粛清した。そして.....ジョン副団長がいない世界に希望を見い出せず、私は自害したのですが........ふふ、僥倖でぇす♪)
目が覚めればこの【現実世界】と呼ばれる世界にお呼ばれしていた。それも王冠を巡る戦いに参加しろとのことだ。つくづくと巫山戯た催しだ。この王冠を巡る戦争の監視者である【裁定者】は五人いる。五人は超越者であり、先ず勝てない。今の私では嬲り殺しにされる。
(あぁ......ジョン副団長.......早く、貴方に会いたい.............会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい............何処......」
瘴気で世界を覆えば簡単に見つけだせるのだが、それをすれば規則にのっとり、【裁定者】に葬られる。あぁ、つくづくと苛つかせてくれる。
「王冠を手にすれば全てが手にはいる?ふ、全てを手にしていた私には無用な代物ですね。私にはジョン副団長がいればいい。そして彼はこの世界に居るはずなのです.......」
元聖女であるディアーナは黒騎士の記憶を瘴気を通し覗き見していた。一度、黒騎士が瘴気の力を返還した際に残った残滓経由である。
「うぅ......かれこれ探し続けて一月.....」
そしてこの世界に置いて、黒騎士もといジョンが始めて邂逅する創作物こそが天使ルキフェルである事を知ってしまった。
「確かにこの辺りの筈なのですが.......もしや、既に天使ルキフェルと邂逅してるなんて言いませんよね?え、えぇ......私が一番最初に出会わなければ行けないと言うのに......あぁ....ジョン.....ジョン副団長....」
ジョン副団長を考えただけで身体が火照ってしまう。自制しなければ。
「あぁそうです♪この民家!」
彼が住んでいるアパートメントを発見し、即座に玄関の扉を破壊し室内へと侵入する。瘴気を通し見た記憶では確かに此処の筈だ。
「ん?誰も.......白い羽.......白い羽ぇ!!」
部屋には誰もいなかった。だが、この部屋からはジョン副団長の匂いが充満している。確実に彼は此処に住んでいる。
「ルキフェルさぁんがもう堕ちてきたって事なんですかぁ!!あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああ!!」
しかしそれとは別の匂いも感じられ発狂する深淵の女帝。
「..........ふふ、ふふふ。」
ディアーナは頬を釣り上げ瘴気を爆散させると一室は吹き飛び爆炎を上げながらアパートは半壊した。
「騒ぎを起こし殺戮を開始しましょう、ふふ♡さすればルキフェルさぁんが騒ぎを聞きつけ此方へと戻って来る筈でしょうしぃ♪」
すると二つの人影が前方から確認出来た。
(12対の羽___________僥倖ぉ♪)
聖典を広げ嬉しそうに首を傾げる。
【ふふ、見ぃつけたぁ♪】




