第六十四話『心に開く穴』
「________ブランチェ」
胸に穴を開けた不老の魔女が玉座にて座る。そしてその隣には王であった男も絶命している。
(相打ち.....)
「なぁ、俺はどれ程お前達を失う夢を見なければならない?」
彼女の手を取り膝をつく。
(なぜ、何時も俺はあと一歩遅い....)
絶対に取りこぼしてはならない命をむざむざと失わせる。
「俺に......俺にもっと力があればっ!」
黒騎士は立ち上がり、不老の魔女を背負う。
「大丈夫.....大丈夫.......」
第三の門を解錠し、【王冠戦争】を開始さえすれば希望はある。
(この命はまだ繋がっている。)
未来へと繋げなければならない。あいつ等が待つ世界に。
「行こう、ブランチェ__________」
俺の旅はまだ続く。例え何十人、何百と殺そうと俺は必ずやお前達を連れ戻して見せる。
「____________あの楽しかった日常へと戻ろう。」
不老の魔女の目からは涙が零れ落ちる。しかし、黒騎士はその姿に気
付かず、ただ歩き続ける。
「お前達のせいで俺の家族が!」
「化物!!」
街の生き残り達は黒騎士の存在に気付き憎悪を言葉を投げつけてくる。
「______力なきお前たちが悪い。なぁ、知らなかったのか、弱者のままでは大切なものは守れないんだ。」
魔法を無意識な内に行使し、住人達を肉塊へと変える。
「はは、俺はとうとう......」
落ちるところまで落ちた。そう内心に感じる。関係ない民達を殺害したのだ。
「いや、違うな」
地に落ちた亡者。罪を感じ常人でいようとしているが、罪人である事に違いはない。
「不老の魔女、俺は........」
君が居てくれたお陰でまた頑張れる。壊れそうな心を持ち直してくれた。彼女の屍を倒壊した城の近くにある広場まで背負う。そこには綺麗な噴水が存在し黒騎士は優しく彼女を寝かせる。
「本当は弔ってやりたい............」
彼女の髪を触り涙を流す。
「何でいつも俺はこうなんだろうな。」
既に身体は消えかけており、この世界での残り時間は少ないのだろう。
「王冠を手に入れて見せるよ、不老の魔女________いや、姫。」
夕暮れの日差しが彼女を照らす。
「君を助け出す。この世界じゃなくて俺の世界に来るといい。そして彼奴とバカをやるんだ。復讐だけじゃなくて、一緒に楽しい事をしよう。」
手を握り、彼女の手を額へと当てる。
「________だから、待っていて欲しい。」
その言葉を最後に黒騎士は消えるように空気へと還って行った。
「馬鹿者が。共に一緒にいてくれると約束したではないか。」
涙が頬を伝う。不老の魔女は辛うじて生きていた。しかし、黒騎士が消える事を悟り魔法による認識阻害を用いて騙したのである。
「あぁ、姫はもう一人にはなりたくない。」
なぜ先に逝ってしまう。姫よりも先に逝くな。
「うぅ.........ジョン、側にいて欲しい。」
血を吐き出し先に消えた黒騎士を想う。
「姫は_________」
空へと手を伸ばし夕日を掴もうとするが掴めない。
「今、そちらに逝くぞ_____少年」
伸ばした手が地へと向かい落ちていく。
パシ
「________姫様は一人ではありません」
閉じかけた目が開く。
「.............付き人、か。」
「はい。」
宰相は全身が血塗れで生きている事が不思議な状態だった。されど最後の気力を振り絞り不老の魔女の元へと馳せ参じたのだ。
「本当に..........老けたな、おまえは」
不老の魔女は小さく笑う。
「___________姫様は何故あの時.....私、僕をお連れしてくれなかったのですか?」
今にも泣き出しそうな表情を見せる宰相。その表情を察したのか、不老の魔女は彼の目を見つめ告げた。
「お前には沢山の迷惑を幼少の頃........掛けたからな.........せめて......後の人生は自由に生きて.........欲しかった」
朦朧とする意識。既に視界はままならなくなっている。
「僕はッ___________貴方と生きたかった!」
不老の魔女の手を握る手に力が入る。
「そうか...........姫は」
宰相の手の暖かさを感じ姫の意識が徐々に途切れて行く。
「想われていたのだな_______」
姫の鼓動は静かに音をしなくなる。
「姫様.......うぅ...........」
それでも尚、宰相は手を離さずにいた。彼の命が尽きるその時まで。
第二章は此処までです!次章では黒騎士の過去編となります。長編です!




