第六十二話『望みは一つだった』
置いていていかれた者の悲しみは誰にも分からない。
「私も........年老いたものだ.....」
秘匿される魔法を研鑽し世界で最高峰の力を手に入れる事に成功した。
「次はないぞ..........小僧....」
元姫の付き人であると言う素性を伏せ、王宮に取り入り邪魔な者達はこの手で闇討ちして来た。
(姫様の隣に立つ資格を得るために_____)
国をこの手で変える。いつ如何なるとき、敬愛する姫様が戻って来ても良い様にと。けれど待てど待てども彼女は国へと姿を現さなかった。
「_______不老の魔女」
噂は聞いていた。麗しい姿の魔女。聖域にて出没する魔徒であると。そしてその姿が姫様に瓜二つであるとも。
「負けないさ_______彼女が待っている。」
姫様を探し出す為に聖域を駆け回った。数多の人外や魔の徒には魂
の同調は出来ない。故に傷だらけになり死にかけた事も何度もあっ
た。けれどもう一度だけでいい。
(会いたかった。)
けれど聖域探索では遂には見つけ出す事は叶わなかった。
(50年以上の時は人には長過ぎる。)
姫様への誓いは確かにあった。けれど、時が重なるにつれ怒りが募るのだ。
「貴様ッ!!」
何故姫様は私を連れて行って下さらなかったのか。
(________僕は)
何故、私ではなく目の前の男を選んだのか。
「貴様さえ居なければッ!」
年老いたこの身ではもう姫様の隣には立てはしない。ならば、この
身は貴方の手で_________
(__________殺されたいと願う。)
故に前に立ち塞がる異物が邪魔で邪魔で仕方がない。
「______アンタは俺の手で殺す。」
「同調_________開始ッ!」
足場を踏み付け、瓦礫を吹き飛ばす。
「甘い!」
肌に触れる前に瓦礫らは塵へと消えていく。
「力とは__________」
左右に転がる瓦礫の山達へと視線を向ける。
「____________こう使うのだ!」
そしてそれ等の瓦礫群らは黒騎士を押し潰す為に密集する。宰相はその塊へと手を翳し握り潰す様に手の平を閉じる。
「瓦礫らの摩擦によりその身諸共爆砕するがいい!!」
瓦礫は大爆発を起こし周囲一体を吹き飛ばした。
(まだだっ________この程度の魔法でくたばる程魔法使いは弱くはない。)
両手を広げ数多の建築物を空中へと浮かせ、爆発したであろう箇所へと重点的にそれ等の建築物を叩き落とす。
「__________終りだ、名も知らぬ少年よ。」
宰相はマントをバサッと広げ、背を見せる。
「待てよ、まだ決着は終わってないだろ?」
宰相の表情が徐々に歪んでいく。
「大人しく死んで置けばよいものを。これ以上私を煩わせるな!」
憤怒とした様子で空気を圧縮した魔法を放出する。
「如何なる過去がお前にあろうともカミーユの殺害を命じたお前を許すつもりはない。」
「カミーユ?」
「聖域を単独で独破した少女を覚えて居るはずだ。」
宰相は身体を震わせ、睨みつける。
(不老の魔女、姫様がいながらも尚違うおなごにうつつを抜かすと言うのかッ!)
姫の隣に立つ男が他の女に目をくれるなど言語道断。
「_______万死に値するッ!」
杖へと炎を纏わせ襲い掛かる。黒騎士は身を低く構え、魔法へと集中した。
(奴の纏わせた炎は恐らく自由自在に動かせる。なら、俺がやれる事は其れを相殺するだけの魔法を練ればいい。)
魔法は無機物には絶対の隷属権がある。ならば此方も空気中にある水分を支配し対抗すれば良いのだ。
「_______水よぉ!!」
襲いくる炎の攻撃を水の壁で防ぐ。
(ぐっ、防ぎきれない!!)
だが、やはり技量の差か此方が大きく劣り押し負ける。
(ぐっ、距離を離さなければ炎に呑まれる!)
横に回避行動を取る事で宰相の放った炎は遠く離れた民家へと着火し、爆発した。
「民を守ると謳いながらお前が街を壊してるんじゃあ民達は報われ
ないな!」
「黙れ!!」
挑発をする事で魔法の集中が疎かになる宰相。その隙を狙い宰相の握る自分の剣へと魔法の狙いを定める。
(俺にあるのは魔法だけじゃない!)
宰相の握る剣がひとりでに動き出し、宰相自身へと襲い掛かる。
「ぐっ!」
宰相は即座に剣を杖で弾き飛ばし、声がする方へと視線を向け火球
を放つ。
「うぐっ!」
黒騎士は其れに直撃する。しかしそれでも尚倒れはしない。肉体は炎に焼けボロボロであった。
「立っていることも限界であろうに。」
鎧は砕け、至る所に傷が出来ている。
(致命傷だけは逃れる事は出来たが)
完全に攻撃を防ぐ事は叶わかなかったが命を繋ぐ事には成功した。
「はぁ_________」
息を吐き、宰相が弾いた剣を手元へと引き寄せる。
(カミーユ....ブランチェ......)
剣を握り彼等の顔を思い浮かべる。
(俺はもう死ねないんだ......次に死ねば俺はあいつ等に合う事も、死んでいった奴らを生き返らせる事も叶わない。)
それだけは駄目だ。必ずや王冠戦争第三幕を開演させ、ディアーナ達に王冠を手に入れて貰わなければならないのだ。
「残してくれたこの命、そう簡単には失わないよ。」
剣へと魔法を集中させる。
(この剣に俺の魂を委ねる。ディアーナ、どうか力を貸して欲しい。)
世界の移動時に瘴気の力は失いただの黒剣と貸した。だが、今の自
分には魔法がある。
「________剣よ」
剣と己を同調させ、刃の切れ味を最大限に上げる。
「この一刀で決める。」
黒剣からは凄まじい程の圧が出ている。
「ぐっ、魂全てを一振りの剣に込めるだと........」
宰相は黒騎士の握る剣を支配下に置こうとするが魂が弾かれてしまっ
た。
「........呆れた男よ」
宰相は苦笑した。
(あの剣の性能は数段と跳ねがる_____しかし、傷つけば傷つくほど使用者の魂も削れていく。)
杖を掲げ、魔法を放つ宰相。
「_________姫様の為に全てを掛ける覚悟がある、か」
剣で魔法を叩き切り此方へと近づいて来る黒騎士を昔の自分へと重ねる。
「私は.........」
手を翳し、さらなる魔法を構築しようとする刹那_________
ザシュ
_______翳した腕が斬られる。
(僕は............)
第二撃目へと入ろうする黒騎士の姿を目に宰相は目を細め、バックステップを踏む。
「終わりだ」
剣は腹部へと突き刺さり背中を貫いていた。
「..................くぶ」
魔法では再生不可能な程の致命傷。
「...........姫様」
剣を抜かれよろつきながらも城へと身体を向け倒れる宰相。黒騎士は倒れた宰相の横を抜け城へと目指す。
「_______ブランチェ、今いくよ。」




