第四十九話『深淵の女王への覚醒』
「やったんだ!俺達の人間の勝利だ!!」「ユーノ達が最後の魔物を倒したぞ!」「これでやっと俺たちの戦いは終わるんだな!」
世界は人で溢れかえり過ぎている。瘴気の選定で半数の人類が大陸から姿を消した。とは言えこの先もまた
人類は増え続け、同じ事が起きるだろう。
「聖女様!無事でしたか!!」「聖女様が生きていたぞ!!」
絶え間のない戦争、そして自然の破壊は繰り返えされる。
「あぁ俺達の未来は此れで守られるんだ!」「団長、副団長、そして聖女様がご健在である限り帝国は平和だな!」
世界の浄化作用は人類の半数を消し去り、其の機能を充分に果たし消えた。
「此れからは俺達帝国騎士団が世界を守る守護者になるんだ!」
此れから新たに創生される世界の為に犠牲になってもらおう。人類はこの世の救済に必要ない。
「_________________ふふ♪それはどうでしょう♪」
骸の魔物がいるであろう間へと繋がる階段にて待機する帝国騎士団の団員達を抵抗する間もなく殺戮する。そして王の間の扉の前に辿り着き、騎士団達の群衆を一薙ぎで血肉に変える。
「あぁ♡これこそが救い、救うと言う事なのですね♡」
頬についた血を人差し指でなぞり、下卑た笑みを浮かべる聖女の成れの果て。
「__________聖女、貴様!」
マールスは激昂とした様子で剣を抜き、ディアーナへと向ける。
「マールス団長さぁん♪お久しぶりです♪」
優雅に一礼をするディアーナ。
「あぁ、本当に........久しぶりだ。」
黒騎士は抑えきれない感情を極力抑えディアーナへと向け、歩き出す。
「貴方は.......ジョン副団長。」
ディアーナのちんちくりんな態度は消え、黒騎士を観察する様に見定める。
「皆を________救うんだろ?」
そしてディアーナの眼前へと迫るとそう問いた。彼女の悲願を自分は知っている。
「貴方は何時も私の心をかき乱す。」
驚いた顔を見せると殺意にも似た敵意を向けられる。しかし、黒騎士は其れをものともせず、ディアーナの手を強く握り締めた。
「俺は何時だって__________お前の仲間だ。」
自身の内包する瘴気を彼女へと還元する。力は無くなるが、此れまで自分が見てきた記憶、経験そして事実を彼女は受け継ぐ事になるだろう。
「あぁ.........そんな、貴方は...........嘘.................」
ジョン副団長。何時も私の心をかき乱す男。そして私が知らなかった初めての感情を強く植え付けた男。
(様々な記憶と経験が頭の中に入ってくる.......私の知らない私。そして、答えを見つけた私。)
不思議な雰囲気を纏い、私の様に瘴気を内に内包する人間。いや、私と彼とでは根本が違うか。私は深淵だ。聖女として全ての闇を受け持つ受け皿。そして彼はその零れ落ちた闇を掬ったに過ぎない。
「貴方は_________」
彼は『私』に会う為に修羅の道を歩んで来たのだ。最も心を許す血族を殺し、自身を慕う少女を利用し戦わせた。
(貴方の心は強くない........なのにっ........私の為に.........)
「あぁ..............ジョン...............ジョン.........私だけの.......ジョン副団長.....」
今度は騎士団として仲間として振る舞っていたマールス団員らを裏切り、私の元へと戻って来ようとしている。
「そう.................だったのですね。」
『俺はお前の味方だ。』は言葉の通り、彼は常に私の為に戦っていたんだ。
「やっとアンタに会えた。」
ディアーナの敵意は完全に消え失せる。そして頬を紅くしながらも黒騎士を抱きしめた。
「何故、貴方がここ迄私に尽くすのか.....ずっと疑問に感じていました。」
ディアーナを強く抱き締め返す。
「もう.......絶対に俺はアンタを離さない。」
更に顔が紅くなるのを感じるディアーナ。
「貴女が私のものであり、私は貴方だけのものである事は理解しました。ですが、此処にいるディアーナは貴方が知るディアーナではないんですよ?」
ディアーナの表情が暗くなる。
「あぁ、けれどディアーナはディアーナだろう?代わりななんていない。俺は今此処にいるアンタが欲しいんだ。」
本当にこの男は私の心をかき乱す事にたけている。絶世の美人にこれ程思われる女が何処にいようか?先程から動悸の揺れが収まらない。どうした私の狂った瘴気メンタル?機能をしない、お馬鹿。
「私.......独占欲、強いですよ?」
彼の知る私がどうであれ、今の彼は私のものだ。
(誰にも渡さない。渡させません。髪の毛から血の一滴まで全て私だけのものっ!)
騎士ヴェヌスと口付けをした記憶を見たが、嫉妬で頭が狂いそうです。後で私が上書きしましょう。もちろん、彼女は最初に救済してさし上げます。時点でユースティティアさんも血祭り、おほん、救済して差し上げましょう。
「構わない。俺の方が独占欲が強いかも知れないからな、ふふ。」
「あう//」
私だけが彼の真実を知り愛し愛される関係であれる。誰でもないこの私だけが!!
(過去の私はもう居ない。其れに今は他の誰もいない。私だけがジョン副団長を独り占め出来る..........ふふ)
この世界には『熾天使』も『童話の神獣』も『星の宝玉』もいない。『深淵の女王』たる私だけが君臨しジョンを専有出来る。もっと話したい。もっと触れたい。世界で彼と二人だけになりたい。だれにも邪魔をされないように________永遠に。
「________________話は済んだか、裏切り者共。」
しかし、私達の邂逅を邪魔をする様にマールス団員が言葉を挟んだ。勇者ユーノもギラギラとした視線で自分達を睨みつけている。
「はぁ、せっかくと気分が良いと言うのに.........つくづくと苛つかせてくれますねぇマールス団長ぉ♪」
「何時からだ.........いつから、お前達は俺達を騙していた。」
マールスは黒騎士へと視線を移し問い掛ける。怒気から微かに感じられる悲観とした感情からマールスが如何に黒騎士と言う男に信頼を置いていたのか計り知れない。
「..........初めから、と言ったら?」
黒騎士の冷たい声色にマールスは小さくそうかと声を漏らす。
「う、嘘だ!!ジョンさんは僕やマールス団長の命を助けたじゃないか!!!」
ユーノが身体を震わせながらも声を張り上げる。
「そ、そうだ......聖女ディアーナの奇跡で操られているに違いないんだ。だって、あんなに優しかったジョンさんが僕達を殺そうとする訳がないんだから。」
剣をディアーナへと震えながらに向ける。
「待っててください、ジョンさん。僕が闇を振り払い貴方の心を取り戻しますから!」
ユーノの見当違いの発言に苦笑を見せるディアーナ。しかし、黒騎士は真剣にその言葉に耳を傾けていた。
(.......慕われていた事は知っていたさ。だからこそ、彼奴の気持ちにも)
自分は主人公などではない。人類にとっての害悪であり悪役。常に茨の道を進み善人を殺す。だから、心の何処かで彼奴に殺されても文句は言えないだろうと感じていた。
(だからこそ......彼奴の相手は俺では務まらない。)
「ディアーナ、ユーノの事は任せてもいいか?」
「ふふ♪もちろんでぇす♪其れとジョン、貴方に『瘴気の加護』を戻しておきましたからぁ心置き無く________救って下さいなぁ♪」
黒騎士はありがとうと言うとマールスの元へと歩き始める。
「と言う訳だ、マールス。アンタの相手は俺がする。」
マールスも同様に黒騎士へと向け歩みを始めた。
「当然の帰結だ。お前を倒し、目を覚まさせてやる。」ブブンッ!!ガキンッ!!!
二人は剣を高速で振るうと同時に火花が舞う。互いの剣は止まらずに剣戟を繰り返す。
『『『『はああああああああああああ!!!!!』』』』
剣へとさらなる力を入れ振り下ろす黒騎士。
「舐めるな!!」
マールスはその一撃を剣で防ぐ。しかしその一撃は余りにも重く片膝が地面につく。
「流石の馬鹿力か。だが、貴様には圧倒的に欠けているものがある!!」
黒騎士の一撃を横へと流し肘鉄を腹部に喰らわせる。
「ぐっ!」
そしてマールスは回し蹴りを顔面へと叩き付けた。
「ぶぐっ!」
蹴られた衝撃で身体を回転させ地面へと転がる黒騎士。
「終わりだ、ジョン!!」
転がる黒騎士へと追撃の攻撃を喰らわせる為、剣で突き刺そうとするが、黒騎士は即座に身体をずらし攻撃を避けた。
(今のは危なかった......)
「手加減無しに殺しに来るとはなっ!」
黒騎士は下段から剣を振り上げる。
「戦場での慢心は命取りだ!!」
マールスも同じく上段から剣を振り下ろす事で互いの剣がぶつかり鍔迫り合いとなる。
(以前、マールスと戦った際に俺は赤子扱いだった。だけど今は彼奴と同等の戦いを演じられている。)
幾度の戦場を得て戦えるまでに成長したからか。
(いや、違うな。俺がマールスと戦えているのは俺が彼奴の動きを冒険を通して目にして来たからだ。)
皮肉だな。仲間だと言いながら裏切り剣を交えている。
「マールスッ!!」
食事や休日も時間を共にし、笑い語り会える関係にまで昇華した筈なのに。
「________ジョンッ!!」
俺は________
ザシュ
「ぐっ........」
__________何時もそうだ。
「ジョン、貴様.........何故だ、」
黒騎士の腹部へとマールスの剣が突き刺さる。痛みを感じつつもマールスの肩を優しく叩いた。
「...........さぁ、なんでだろうな。」
あのまま剣を振って入れば相打ちだっただろう。自身の剣がマールスの首を裂きマールスの剣は心臓を穿つ。
________そんな結末は認めない。
何方かが生き残らなければ何方の未来も進めなくなる。
「戦いは此れからだ、マールス。ディアーナから授かっている瘴気の本領を見せてやろう。」
黒騎士はマールスの剣を腹部から抜き取り笑みを見せる。
「ジョン、貴様.........」
血を吐き出しながらも余裕の態度を崩さずマールスを捉える。
「俺を殺したいなら胸か頭を狙え。」
魔物と同じ弱点を口にする。傷口が超速再生までとは言わないが、塞がっていく。
「その力は_____________」
リザレクションとでも言うのか。原点にして【ディアーナの加護】本来が齎す力。
「__________________魔物の再生能力っ!」
マールスは即座に一歩引き武技魔法の構えを取る。
「お望み通り貴様の胸と首を同時に撥ねてやる。さすれば再生する事もなく地に伏せよう。」
マールスの剣が振れる。
「逝くぞ、怨嗟の元に我が斬撃は別たれる_________」
(速いっ!)
即座に首と胸を守る様に構えを取るがマールスの剣がその守りを崩す様に斬撃が分かたれる。
「_______________フォースラッシュ!!」
四つの斬撃を同時に繰り出す戦士職の最上級武技魔法。
「ッ!」
(避けられない______ならばっ!)
後退するのではなく身体を前進させた。
「ぐッ!」
四つの斬撃全てを喰らう。しかし前進した事で斬撃の威力は半減された。
「貴様、わざと!!!」
狙った部位外へと直撃する4方向同時斬撃。
「ぐっ.......」
血塗れの姿に成りながらも倒れない。剣を地面へと突き刺し、再生を待つ。
「俺の技を受けて生きている奴はお前が初めてだ________だが、次はない。」
マールスは構えを再び取る。
(俺の強さはなんだ.......)
膂力か?
_________否、違う。
再生能力?
___________違うな。
「......危機的状況での冷静な判断力だ。」
絶対絶命でも尚、その余裕の態度を崩さない。
「その技は俺には効かない。既に、この身体が証明している。」
痛みを感じつつも小馬鹿にする様に言葉を撚る。
(.......傷の治りが遅い。)
身体は無残にも四つの斬撃が刻まれている。再生能力は働いているが、傷が深いのだ。
「________俺はこの技を連続して3度放つ事が出来る。この意味が分かるな。」
黒騎士は苦虫をすり潰した様な表情を見せ、剣を持ち上げる。
「ふっ、コケ脅しだな。」
連続であの技を放たれたれれば自分は終わりだ。
(..........知っているさ。)
インターバルなしからの3連続四方連斬。魔力量の消費値から一バトルで一度しか使えず、体力が半分を超えていなければ使えないピッキーな超大技。
【聖剣クラウ・ソラス】を手にする以前のマールスの最終奥義。
「こけ脅しかどうか、その身で試して見るがいい。」
黒騎士は更に身体に無理を掛け、瘴気を活性化させる。
(うぐっ、まだだ........こんなもんじゃないだろ、ディアーナ!)
瘴気の加護は黒騎士の思いに呼応する様に力を増幅させ続ける。
『ふふ♪もちろん、ジョン副団長が私を求めて下さる限り、私は貴方に出し惜しみなく力を与え続けましょう♪』
瘴気が闇が身体へと広がる。まるで、自分が自分でなくなる様な感覚。身体が戦いを闘争を殺戮を求めている。しかし、不思議と気分は落ち着いている。
「あぁ、掛かって来い________________此れで最後にしよう。」
親父に認められたかった。肩を並べて戦いたかった。世界で一番の騎士になりたかった。帝国の英雄になりたかった。
そして_________隣で俺を支えてくれる友が欲しかった。
共に語り合い戦場を渡り歩く。そして背中を預けられる戦友が居てこそ未来の騎士団を率いて行ける。
「我が友よ。共に帝国、そして世界を闇から救い出そう。」
帝国から見える夕立の中、副団長であった恩人に伝えた言葉。あの時の記憶が鮮明に蘇る。彼奴はクスリと笑うとあぁと言ったのを覚えている。
「お前はっ________!」
何時だって先陣を切り戦ってきた。
(________何故なんだ。)
やつ以上の騎士や冒険者はいない。
(何故裏切った。共にここ迄歩んで来たじゃないか。)
彼奴には誰にもない不思議な魅力があった。
「_________俺の手で倒すっ!」
容姿的な意味ではなく奴の振るう剣からは不思議な魅惑と言うのだろうか、何処か儚く寂しいといった負の感情を感じられた。
「団長として________」
されど燃え盛る業火の様に荒々しい。人を惹き付ける剣舞。
「__________友として」
奴と東西南北の渦を鎮める際、俺はもしかしたら求めていたのかも知れない。いつの日か互いの全力を出し合い死合う戦いと言うものを。
(俺は団長である前に一人の騎士だ。)
剣の腕を常に求め続けて来た自分の願い。矛盾しているのかも知れない。仲間を求めると同時に好敵手を探していたと言うのだから。
「友か________マールス、俺はっ!」
黒騎士もまた心の底ではそう考える様になっていたのかも知れない。
(.......今の俺にはこの言葉を口にする資格はない。)
繰り返す剣戟の中、互いの思考が交差する。
「俺が答えてやれるのは剣だけだ。」
武技魔法を連続として使用するマールスに対し黒騎士は限界以上に瘴気の力を引き出し対抗する。
「マールス団長ッ!!」
「あらあらうふふ♪よそ見はいけませんよ♪」
本気の殺し合いをする両者を見てユーノは叫ぶ。そしてディアーナとの戦闘を放って戦かいを止めに行こうとするも瘴気の波が行く手を阻んだ。
「邪魔をするなよッ!!」
勇者としての奇跡の力が膨れ上がり、瘴気の波が蒸発する。
「お前に構って居るほど僕は冷静ではいられないんだっ!!!」
黄金のオーラを出すユーノ。
「あぁ♪此れが勇者のぉ力なのですねぇ♪」
ディアーナは舌なめずりをすると暗く重苦しいほどの膨大な闇を渦巻かせる。
(なんだ......この底しれぬ威圧と恐怖はっ!)
ユーノはそれを感じ取ったのか即座に必殺技の構えを取る。
「光が闇を払うか、闇が光を呑み込むか_________答え合わせをしましょう♪」




