第四十四話『死は突然訪れる』
瘴気の渦を倒した事で東方面の霧は消失した。正確にはディアーナへと還元されたと言った方が正しい。
「________俺達の勝ちだ!!」
東塔の最上階から地上にいる騎士団員達へ向け大声を上げるマールス。
「「「おおおおおおおおお!!」」」
其れを横目にディアーナの姿を目で追う黒騎士。
(森の方へと逃げたか......)
瘴気の影響を周囲に悟らせたくない故の行動。
「ふふ、あとは一体だけだな。」
思わず笑みが零れる。マールスに気付かれないように口元を手で覆うが、我慢が出来ない。
「ジョン、大丈夫か?」
その様子を怪しく思ったのかマールスが心配とした様子で聞いてくる。
「あの戦いでお前が大量の瘴気を身体に浴びた事はこの目で確認している。もし体調が悪いのなら帝医隊、いや、聖女に助力して貰うことを進めるぞ?」
「俺は大丈夫だ。」
精神を落ち着かせ、冷静を装う。
「マールス、お前は良い奴だ。だが、その優しさが命取りになる事もある。戦場では己の命が優先であることを先の戦いに置いて肝に命じて置け。」
「俺は帝国騎士団団長だ。戦友である仲間達を救うのは当然の義務であり、責務だ。ジョン、お前が俺の心配をしてくれるのは嬉しいがな、此れだけは譲れない。」
マールスはクスリと笑うと黒騎士へと告げる。マールスこそが真の英雄である。ユーノ程の才覚がなくとも不屈の精神をこの男は兼ね備えている。
「仲間を守れるのは仲間だけだ。ジョン、俺はお前も守って見せる。その背中は俺に預けろ。」
その言葉がずしりとのし掛かる。まるで呪いの様な台詞。
「あぁ、知っているさ。俺も”仲間”を守る為に戦うよ。」
仲間の為に戦う事は当然だ。例え其れが今の仲間を裏切ろうとも。矛盾している様に聞こえるが、其れこそが自分の突き進むべき未来であり、果たすべき目標なのだから。
「_____報告を申し上げます!」
東塔を下り、騎士団の仲間達と談笑をしていると騎士団員の一人が慌てた様子でマールスの元へと駆け寄ってくる。
「どうした、宴にはまだ早いぞ?」
冗談とした様子で冷や汗を浮かべる騎士団員へと言葉を返すマールス。
「瘴気が___________現れました。」
その言葉を聞いたマールスは真剣とした表情へと戻り概要を聞く。
「中央部に瘴気の渦、発生。速やかに対応に映らなければ.......帝国領は壊滅する事になります。」
まぁそうだろうな。
「皇帝陛下は健在か?」
「は、王宮騎士レムス殿率いる親衛隊を中心に防衛に徹しており____既に帝国城からは避難されているとの報告を受けております。」
マールスは直ぐに騎士団員達へと通達する。
「_______此れより此方に留まる全軍を持って帝国領に帰還する!!」
連戦に疲弊をしているであろう騎士団だが、此処が正念場であると活を入れる。
帝国中央瘴気領域内_______
「レムス殿........」
帝国に突如として現れた瘴気。帝国城は禍禍しい魔王城の様な城塞へと置き換わり、魔物達が溢れ出ていた。そして帝国領域内の親衛隊、騎士団員達はほぼ壊滅に近い状態に陥っていた。
「帝国騎士団団長と聖女殿に助力を乞いこの試練を討ち破れ。私はこの場に残り、使命を果たす。」
残り数十名の生き残りを背にレムスは命じる。
「しかし、其れではレムス殿がッ!!」
強力な魔物の群れ。此れらの化物に勝つ事は出来ないだろう。一体一体は渦程の力は無けれど、数が余りにも多すぎる。
「行けッ!!騎士団長と聖女殿が居られればこの程度の闇、払う事など造作もないのだ!!」
レムスは魔物達の攻撃を受けながら叫ぶ。魔物達は縦横無尽に暴れている。魔物達が彼らを追わない様に必死に食らいつく。
「___________あいつ等は行ったか。はは、既に捨てたと思ったんだがな。」
血が滾る。兄弟である前騎士団団長ロムヌスと幼少の頃、剣の高みを目指した日の事を思い出す。
「ふ、直ぐにはお前の元には行かぬさ。」
攻撃を受け致命傷を負いながらも剣を魔物の心臓へと突き刺す。
「帝国の夜明けは近い________始めよう。」
男は一人、魔物へと立ち向かう。例え其れが死ぬものだと分かっていたとしても。




