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第二百六話『惚れた訳じゃない』

蚩尤は唇を噛み締め、青年を睨みつける。


「こんな場所で何をしているんだ人間..........逃げろッ!!」


両手両足を破壊された蚩尤は精々相手の注意を引き、サンドバッグになる事しか叶わない。しかし、その間に青年を少しでも遠くへと避難出来る筈だと考える。


「.............どうもアンタと俺は似てる気がするな。」


青年はしゃがみ、蚩尤を背負う。そしてチラリと蚩尤の四肢を見る。


「私の事はいい。この場から離れろ。くそ、あの『狼』は何をしているのだッ」


抵抗する力もない蚩尤に青年は苦笑を見せると前を向く。


「貴方はぁ.........お姉さまのぉ、お・き・に・い・り♩」


クルクルとその場をバレリーナの様に周り、空中へと浮遊する。そして逆さまの体勢へと変え、青年の眼前へと迫った。


「アンタ、さっきと雰囲気が違うな。イメチェンでもしたか?」


冗談交じりにそう口にする。蚩尤は背にて逃げろと耳打ちをして来るが無視だ。


「いめちぇん?ふふ、新しい言語........理解は出来ませんが綺麗な響きですわねぇ♩」


青年の唇へと人差し指を置き妖艶に微笑む。青年は其れに同調する様に笑うとこう告げた。


「なぁ__________オレたちと組まないか?」


協定の申し込み。既に相手側は二人、脱落している。エレンミアとエルミアは同時顕現である為、ウォフ・マナフを殺害すればこの戦場に存在する創作物は五人となる。


「悪くはないだろう?そっちは実質二人。アンタ達、『エルフ』がオレ達と組めば敵無しじゃないと思わないか?」


意地悪く笑う。エルミアは顎へと手を置き考える素振りを見せる。


「そうですねぇ______________」


青年はエルミアの瞳から目を離さない。そしてエルミアの視線は此方へと戻り自分の右手を握手をする形で掴む。


「_________________お断りします♩」


右手がミキサーにでも掛けられたように抉られる。そして血飛沫が空中へと舞った。


(くそ痛ぇッ!!)

「っ............交渉決裂、にはまだ早いだろ?」


三歩ほど下がり、蚩尤を背から下ろす。そして右手の痛みを耐えながらも笑みを絶やさない。


「アンタの願いは何だ?」


エルミアへと一人近く。恐怖はもちろん感じる。しかし、此処で怯んでいては先へとは進めない。勇気の見せ所だ。


「ふふ、貴方はお姉さまのお気に入りなので殺しはしません。ですが痛みは与えますわぁ♪だって、お姉さぁまのお気に入り、いえ、一番は私でなくては行けませんものぉ♪」


鋭い眼光と共に殺意が飛んでくる。


「.................俺の事をどうこうする前にアンタの望みだけは聞かせてくれ。」


エルミアの眼前、それも数センチと近づけば唇が触れる位置へと迫る。


(人間、何をするつもりだ.....)


逆さまの位置にあるエルミア。欲に言う二人の体勢は映画スパイ○ーマンに置けるメ○ージェンとスパイ●ーマンとのキスシーンの様な状態である。


「あの、近いのですが」


距離の近さにエルミアは顔を無意識的に晒しそうになる。だが、其れを耐え、青年の真意を見極める為に瞳を覗き込んだ。


「貴方は本当に知りたいのですね?」

「あぁ。」

「私の悲願を申し上げてもいい.........ですが失笑されるようならばどうなるか、お分かりですわね?」


エルミアは青年が本気である事を理解した上でそう忠告する。


「決して笑わないと誓う。」


地上へと足を着け、青年の周りをゆっくりと回る様に歩き出す。


「簡潔に言うのならば................お慕いしていた殿方の蘇生、とでも言いましょうか。」


背後にて立ち止まり、そう口にするエルミア。青年は其れを聞くと目を閉じ、一度深く呼吸をした。


「死者の蘇生か。その人はアンタの恋人だったのか?」

「お慕いしていただけで結ばれてはいませんわ。そして告白も遂には一度も口には出来なかった.........」


冷たい風が肌を伝う。まるで悲しみを含んだそよ風。エルミアは胸へと手を置き何も出来なかったと言った表情を浮かべる。


「失礼な事を承知で聞く。其れだけの美貌を持っているんだ。アンタなら選り取り見取りではなかったのか?」


青年は振り返りそう尋ねた。


「恋をした。お慕いするまでに好いていた。ただあの殿方だけの妻となりたい。ただ、其れだけが望みなのです。ですが、お姉様にはこの願いは言えません。お姉様に願いがあるのなら、それを優先するべき立場にあるのですから。」


青年は自然とエルミアの頰へと手を置く。


「何をしているのですか、貴方は?」


若干耳が赤くなるエルミア。既に右手も瘴気の回復にて再生済みだ。


「本当にその人じゃないとダメなのか?」


青年は迫真とした顔で問う。


「其れは、どう言う.........」


一歩、後退りをするエルミア。


「_____________代わりにはなれないだろうか?」


エルミアの心臓が高鳴る。


「な、なっ、何をッ!」ドン


青年を両手で突き飛ばしエルミアは息を荒くする。仮にも青年は美男。乙女ならば彼に甘い言葉を掛けられれば少なからずは心が揺れる。魔性にも近い性質を有している。


「その程度の色仕掛け、私には通じません事よ!!」


憤怒とした様子を見せるエルミア。


(色仕掛け?何を言ってるんだ..........)

「俺は冗談を言っているわけじゃねぇ。ただアンタには幸せになって貰いたい。」


エレンミア含め、姉共々二人には幸福な道を歩んで貰いたい。そして孤独や温もりが欲しいのなら共に歩んで行けばいい。


「その幸せを掴む為に私は戦っているのでしてよ!!其れをッ!?」ドン


青年は頭突きをかます。エルミアは後ろへと倒れ頭を痛そうに摩った。


「幸せを掴みたいなら俺の側にいろ!!」


青年はルキフェル達と共に歩めば必ず大成を成すと信じている。しかし伝え方の問題なのか、告白紛いなものとなってしまっている。


「な、なら、なんで頭突きをする必要があるんですか!!そう申して下さればいいだけですのに!」


涙目になるエルミア。青年は若干申し訳無さも感じるが、先程の右手の件を考えると優しい方だろうと内心にとどめる。


「仲間になってほしい。」


倒れるエルミアへと手を差し出す。エルミアは目を見開き青年の眼差しを見た。


(________不思議な人間。それにどことなく、チェルノの面影を感じる。)


彼から光を感じる。


「お姉様が貴方を気にいる理由が少しばかり分かった気がしますわ。」


青年の手を掴み、立ち上がるエルミア。それを遠目で見る蚩尤は安心した様子で身体を後ろへと倒す。


「あれ程荒れて居た風が静寂に包まれていく、か。とんだ色男だな、くく。」


周囲に吹いて居た風は四散し、落ち着いた気候へと戻っていく。そして蚩尤はクスリと笑うと青年から目を離し空を見上げるのであった。

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