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第二百四話『獣と深淵』

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(あぁ........なぜだか.........安心しますねぇ........そして...............消えてしまいそう)


余りの心地良さに消えてしまいそうな感覚に陥る。ウォフ・マナフの技である『断罪の塔』を受けてから意識が完全に持って行かれた。


(どうしましょう...........とても.........眠たい........)


意識を完全に失えば自分は消えてしまう。けれども何故か自分はそれを是としている。


「ディアーナ、目覚めよ。」


外界から声が掛かる。何者かが目覚めさせようとしている。


「残骸どもを一掃せねばならぬか。」


大きな爆音が聞こえる。五月蝿い。


「誰ですか、私の居眠りを邪魔する人は」


再生段階にある自身の身体。


「視界も回復せぬとは、余程派手にやられたものよな。」


身体を優しく抱え上げ背に乗せる。獣特有の肌触りの良さからその人物が推測出来た。


「ブランチェ、さん?」


視界が徐々に鮮明になり、己の身体がブランチェの背に乗せられている事に気づく。


「くく、深淵の女王の名が泣くぞ、ディアーナ。」


ディアーナの有様にクスクスと笑うブランチェ。


「私は.........」


意識を削られ、ひたすらと瘴気が浄化されて行く感覚が続いていた。されどもとても気持ちが良かった。その感覚だけが脳裏に焼きつく。


(私は無意識に消え行く自分を望んでいた..........)


心底頭に来る。


(そんな破滅願望、あるはずが、私は、副団長に、永遠に、)


未来へと希望を見出した自分の心の奥底にあるはずがない破滅願望があると言うのか?


「ジョン副団長に会いたい.......」


否。違う。私は私の絶望であり、希望であるジョン副団長の元に戻る為にこの世界に誘われたのだ。


(さみしい..........会いたい...........ジョン.........どこにいるのですか)


ウォフ・マナフの『浄化』の影響か、臆病になっている。これが弱さと言うものか。


「私も相手の力を見誤りました。ブランチェさん、ジョンは見つかりましたか?」


大分身体も人の形に戻って来ている。腕も動く。後は表面に皮が被されば人の姿だ。


「無論だ。だが、ジョンは蚩尤の元へと向かったよ。無駄な争いを止めるべくな。」


ディアーナは即座にブランチェの背から降り、青年の元へと向かおうとする。しかしブランチェは即座に其れを制止した。


「お主にはやるべき事が残されているであろう?」


遥か先に離れた場所にてルキフェルとエレンミアの戦いを観察するウォフ・マナフの姿を捉える。あれは好機を狙って介入をしようとしている。


「この戦場にいる創作物の質は聖鳥やユーノと闘った時の比ではありません!戦闘の余波で死ぬ可能性も大いにあるのです。それに.........あのルキフェルさんが押されている。早急にジョンを退避させなければなりません!!」


何時もの落ち着き、冷静さが欠けるディアーナ。


「ディアーナよ、お主は影響されたのか?」


余裕然とした何時もの態度が瘴気に染まる以前、聖女だった頃の人間性のある表情を見せるのだ。


「私は.............ジョン副団長の心配を、しているだけです......そう、何時ものように.......」


瘴気を自らの周りに這わせ、支配できている事を確認する。冷や汗が頰を伝う。


「ディアーナ、お主........」

「違いますッ!私は通常通りです。ふふ、そぉら?この地球に存在する人間全てを今すぐにでも殺して見せましょうか?」


ディアーナへと顔を近づけ優しく頬擦りをする。


「無理をするな。お主は少なからず善神の浄化の影響を受けている。人間の定める倫理観という物を思い出したのだろう。いや、性格に言うのなら悪心が削がれたのだろう。」


ディアーナはその場へとへたり込む。


(.........以前の様な明確な殺人、破壊衝動が消えています。)


まるで身体が解放されたような。


(ダメだ............この体たらくでは..........ジョン副団長に嫌われてしまう...........いや..............それだけは、いやです...............)


ウォフ・マナフの存在を視認したが、かつての様に闘争心が内心にて浮かばない。まるで蝉の抜け殻の様な感覚。


「これでは逆に枷をつけられた様な気分です、」


乾いた笑いが出る。


「ディアーナ............後は吾輩が蹴りをつけよう。そこらで休息を取るが良い。」

「だ、大丈夫です....私はまだ、戦えます........吸収した能力もあるんです........」


ディアーナは立ち上がる。


「私に触れて下さい。『飛』びます。」


吸収した降霊術師の力を行使する為にブランチェへと触れる様に言う。ブランチェは古の剣を顕現し、口に咥える。そしてディアーナへと近づきちょこんと触れた。


「あの善神を殺す_________そうすれば、ジョン副団長、黒騎士に相応しい『闇』を取り戻せる。」


ディアーナはラディアンス(黒鎌)を手元に出し、強く握りしめる。そしてブランチェと共にその場から姿を消すのであった。

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