第二百三話『大精霊の猛威』
(風の精霊故の特性__________実に面倒だな。)
蚩尤は槍を地面へと突き差し、風圧を堪える。無数の剣を天空へと展開し、エルミアへと投擲しているのだが風の加護を最大に引き出している為に全ての軌道がずらされる。
「あはははは!身体が軽い!ふふふ、あはははははははは!!!」
数多の戦闘により城は破壊され、ごく一部の箇所が不自然に残っている。瓦礫に塗れた足場、そして少し離れた場所からは黄金の塔が天へと上がっていた。
(さて、どうやってこの状況を打破したものか。)
疾風が如き存在と化したエルミア。其れを倒さなければいけないのだ。
「あぁああ!この世はなんて美しいのでしょう!チェルノ、ふふ、チェルノ!もうすぐですよ、もうすぐ........貴方を生き
返らせますから..............ふふ、だから私と踊りましょう?」
エルミアはレイピアを前へ突き出し蚩尤へと迫る。
(くっ、近づくだけでもこの有様か)
豪風にも似た風圧がエルミアが距離を詰めるだけで蚩尤を襲う。そしてそれを追随する様に鎌鼬による見えぬ斬撃が蚩尤の身体を蝕む。
(避けるか.......いや、敢えて正面から受け止めるべきだッ。)
打開方法がない以上、手掛かりを身を持って探るしかない。
「あは♡私を受け止めてくださる?」
エルミアによる一撃が眼前へと迫る。風圧のせいか身を飛ばされそうになるが、神力を完全に解放し、なんとか地との結びを強くする。
「その程度の攻撃、避ける必要もないと言う事だ。」
五兵の一振り、戈にてレイピアの一撃を下段から弾こうとするが、
「足りないですわね..........きひ、きひひひ」
レイピアを弾くどころか自身の得物が手から弾け飛ばされる。
ザクッ!!
「あぁあ痛い!余りにも痛そう!」
エルミアのレイピアが蚩尤の鎧を貫通し、右上部へと深く突き刺さる。
「ぐっ、」
蚩尤は咄嗟に剣を左手に出し、エルミアへと斬り付けるが風の防御により身体へとは到達しない。蚩尤は苦虫をすり潰した様な表情を見せ、レイピアを引き抜こうとするが、
「風よぉ♩舞ぁえ♩」
レイピアから風が舞う。
「うッ、ぐああああ!!!」
蚩尤は痛みの余り叫び声を上げ、膝をついた。レイピアが突き刺さる右上部である肩が内側から破裂したのだ。
「叫びますねぇ♪余程嬉しかったのですねぇ♪なら」ザク
手元へと引き寄せたレイピアを今度は蚩尤の右腿へと突き刺さし、その場を踊るように離れる。
「ぐっ、」
「差し上げますわぁ♪」
(自らの獲物を捨てるか.......)
思考がまともではない証拠だ。行動原理が単純化している。
「鋭い貫通力だな、」
レイピアは風の加護を最大限に纏い、鉄鋼であろうとも豆腐の様に触れただけで貫通してしまうであろう程の斬れ味を誇っていた。
(無理に動かさぬ方が得策か。)
刃を抜こうとすれば確実に四肢ごと持って行かれる。
「あは、あはは!綺麗な塔ですわね♪ねぇ、チェルノもそう思いませんことぉ?」
蚩尤の存在など放置し、黄金の塔へと視線を上げる。そして虚空へと誰かに話しを掛けていた。
「......」
蚩尤は何とか立ち上がり、エルミアの姿を見た。彼女は現実と妄想の区別が出来なくなっている。
「無茶苦茶な娘だ。アレを受け持つ役目が私とはな。」
実力はあるつもりだ。仮にも神に昇華した身。この程度の難業で立ち止まる程、落ちぶれてはいない。
「綺麗な塔、壊してしまいたい♪」
舌舐めずりをし、黄金の塔へと優しく触れる。すると塔はたちまちと内部から亀裂が入り、
「あぁチェルノ、美しいでしょ?」
粉砕された。砕け散る破片の中、一人楽しく笑う姿は狂気に満ちていた。
「空は快晴でとても気持ちがいいですわねぇ。其れにほら、巨人種も楽しく戯れて..........あれ、お姉様がいる?お姉様がいますわ!とても楽しそうに遊んでいらっしゃる!そうだ、私も遊戯に入れて貰いましょう!一人ではなく”星の宝玉”の様に」
霜の巨人にてルキフェルと対峙するエレンミアの姿を確認してしまったエルミア。それを羨ましそうに指を加えて見つめていると、我慢が出来なくなったのか其方へと向かう様にゆらりゆらりと飛んで行く。
(熾天使の元へと行かせる訳には行かない_______)
巨大な剣をエルミアの行く手に出現させ自身と彼女の間を包囲する。エルミアは心底嬉しそうに剣を見つめると背後をゆっくりと振り返り蚩尤を冷めたように半目で見つめた。
「君の相手は私だろう?浮気は良くない。」
冗談混じりにそう口にする蚩尤。
「浮気.........?」
エルミアはその台詞を聞くと同時に先程までの歪んだ笑みを消した。
「貴方は誰が誰と浮気をしたと申すのですか?私の結ばれる相手は一人です。何者にも侵害されはしない。されてはならない。我が悲願であるチェルノの蘇生、この一点に置いてのみに私は存在しています。低俗である貴方には理解は出来ませんでしょう?」
巨大剣に亀裂が入る。そして激昂しているかの様に快晴であった天候も漆黒としたものへと変わっていく。
(踏んではならぬ尾にでも触れてしまったか。『アレ』の使用を考慮しなければならんとはな。)
巨大剣が完全に砕ける。蚩尤は五兵の内の『殳』と『戈』を顕現し装備すると立ち上がった。




