第二百一話『賢狼と竜宮の乙女』
「その少年は我に連なる者_________離して貰うぞ。」
青年へと絡みつく水鎖を一睨みすると拘束が解除され、水は地へと戻っていく。
「他にも仲間がいたのですか....」
乙姫は動揺した様子で壁へと手をつける。
(間に現れた二体の創作物だけとて強大な力を有していた.......なのに、まだこれ程の戦力を『未知数』は所有をしているというのですか。)
人間程度であれば龍神の娘である自分にもどうにか出来る。しかし、無双を誇る豪傑には勝てはしない。
(逃げの一手、あるのみ。)
水壁を自身の前方に展開し、開いた門へと駆け出す。
「その程度の小細工で逃すほど、吾輩は優しくはないぞ。」ブンッ
「うッ!?」ザク
一振りの剣を乙姫の腿を狙い投擲する。その剣は水壁を裂き見事に乙姫の腿へと着弾する。
「私はこの様な場所で死ねません、」
(死にたくない)
走っていたところに着弾した為、大きく転がる。しかし、すぐ様立ち上がり、足を引きずらせながらも龍宮城への門へと向かう。
「_______」ガシ
腕を掴まれる乙姫。掴まれた腕を振り解こうと視線をそちらへと向けると。
「さっきはやってくれたな。」
「人間っ!!」ギリ
両手両足が再生された青年が短剣を掲げ、自分を行かせまいとしていたのだ。
「お前の終着点は此処だ。」チャキ
「まっ、待ってく」
短剣を乙姫の首筋へと当て、引こうとするが、
「_________お主の手は血に染めてはならぬ。」
ブンンチェにより止められた。
(死んで、いない......?)
目を閉じていた乙姫は静かに瞼を上げる。
(何故、敵である私の命を、)
庇ったのか。そのまま殺せたはず。少しばかりの希望が思考を過ぎる。私は生かされるのではないのかと。
ザシュッ
「........ッ」
だが、胸元から感じる違和感がその甘い思考を吹き飛ばした。
「ぐハッ.......あぁ......嫌だ......」
心臓を貫く手突。下を向くとそれを行った創作物、未知数の一人が鋭い眼光と共に牙を見せていた。
「ぁ.......死.......たす.....................______」
手を引き抜かれ身体が地面へと倒れる。
(............死にたくない、まだ何も成し遂げてはいないのに.........私はっ............)
倒れる瞬間の刹那、その者の姿がどうにも獣の姿を連想させる。己の悲願を身諸共喰い千切るような化物。
「これもまた運命だ、眠れ。」
★
『浦島太郎』の話を知っているだろうか?これは日本人にとっては有名過ぎる程の昔話、お伽話であり、幼少の頃、日本人であれば一度は学び聞かされる話である。
「コラッ、弱き者を虐めるでないわ!!」
この物語は漁師である浦島という若者を中心に物語は展開されていく。浦島太郎は子供が浜で亀を虐めている姿を目にした。
「共に生きる生き物に対し、その様な行いは仏様の怒りを受ける事になるのだぞ。」
子供を諭し、亀を助けた浦島。
「おぉ、貴方様の慈悲のお陰で助かりました。是非ともお礼をしたい。」
「構わない。生き物とは互いに助け合うべきものであろう?」
当初は亀の申し出を拒絶する浦島太郎。
「いえいえ、このままでは私の気持ちがおさまりませぬ。是非とぞ、我が姫の城へとおいで下さいませ。」
「ふむ.......其方がそこまで申すなら、致し方ないか。」
浦島太郎は亀の説得によりお礼を受けることする。
「私の背にお乗りくだされ。」
浦島を龍宮城へ連れて行く事になった。亀の背に乗ると浦島は海なの中にいるとは言え、地上と同じく呼吸が出来たのである。
「ようこそいらっしゃいました、地上の子よ。」
龍宮城では、主の乙姫に非常な歓待を受けた。
「私の子達を助けて頂き感謝致します。宮殿にて宴を催しましょう。是非ともお楽しみになってくださいな。」
美しい深海の姫。浦島は頰を紅くし、この宮殿での生活を楽しむ事にした。
「某もこの都、いや、乙姫殿の宮にて過ごして三年。まっこと永き日に渡り世話になった。楽しくもあり刺激的な経験である故、つい童心に戻ってしまったよ。そろそろと旅立たねばな。堕落ばかりでは漁師としての腕も落ちるというものよ。」
三年が経ち、浦島太郎は里に帰りたい旨を乙姫に話す。
「そうですか、もうお帰りなりますか。残念です。貴方が望むならばこの宮にて生を全うしても良いというのに。」
乙姫は決して開けてはならないという「玉手箱」を授ける事を条件に地上へと戻す事にした。
「おお、やはり陽の光はいい。さっそく皆に某の話を聞かせてやらねばな。」
浦島太郎が浜に帰ると地上の光に感動した。そしてそれと同時に、
「なんだこれは?」
浜辺は様変わりしていた。
「皆は何処だ!浦島が帰ったぞ!!」
しかし里に帰っても知人は誰一人として存在しない。
「すまぬ、そこのもの、」
通りすがりの人に話を聞く事にする。
「_________おかしい奴だな。あんた、頭がイかれちまってるのかい。」
浦島太郎はその場へと膝をつく。何故ならばこの世は自分の生きていた時代よりもなんと六十年もの時が経過していたというのだから。
「某は、」
困り果てていると、帰り際に渡された玉手箱の存在を思い出す。
「開けるなと言われたが」
(この現象の手掛かりが書かれているやも知れぬ。乙姫どのの事だ。某の身を案じ、この玉手箱を託したのであろう。)
浦島太郎は身勝手な自己解釈で玉手箱を開封する。中からは白煙が立ち昇り、浦島は伝説に語られる様に老人の姿になってしまった。
“やはり、人間とは信頼には価せね生き物ですね。忠告を無視し、其れを後世へと私が邪と見えるかのように書き記した。あぁ、恨めしい。礼なぞ果たさなければ良かった。あの箱はあの人間の欲望を封じる為のもの。其れを解き放てば因果は戻りその者の幸を剥奪すると言うのに。”




