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第百九十八話『深淵と善神』

「未知数、やはり来ましたか.......」


レイピアを抜き応戦態勢に入るエルミア。乙姫は即座にエルミアの元へと移動し、ルキフェルへと敵意を向ける。


「______雑兵は退いていなさい。」


天使はエルミアらへと対し退けと言う。


バン!

「意地悪女.............彼奴、危険........油断、死ぬぞ。」


ウォフ・マナフは胸を押さえながら間へと現れる。


「ふふ、心配か、ウォフ・マナフよ。『不滅の聖性』の名を冠する善神が何を恐れると言うか。」


忠告を鼻で笑い、ルキフェルの元へと歩みを開始するエレンミア。


「ほぉ...........天使の槍を受けて尚死なないのですね。一振りとて大国をも大陸から完全に消し去るだけの力はある天使の大槍。其れを受けて無傷で居られるなぞ本来ならば有り得はしない。」


痛がってはいるが、ウォフ・マナフには外傷が見当たらない。服装の修復はもちろん、傷口すらもない完全なる再生。


「仮に槍を受けて無傷で入られたとするならば、其れは完全なる善性の神だけだ。」


ルキフェルは此方へと向かい歩くエレンミアよりもウォフ・マナフへと警戒の目を向ける。


「其れは、過剰評価、私、記録、する、そして、悪人を、裁く、裁判官でしかない。」


メイド服らしき服が融解するように溶け、神官や修道服、其して裁判官にも似た風貌の衣装へと姿が変わっていく。


挿絵(By みてみん)

「ふふ♩なぁらぁ貴方の相手は私と言うことになりますねぇ♩」


深淵なる闇が城の間にて小さく渦巻くと、その中心から闇が形を成すようにディアーナが現れる。


「ディアーナ、早かったですね。」


ルキフェルはディアーナの左方へと移動し、普段通りの態度で会話を始める。


「えぇ、ブランチェさんがまたしても悪知恵を働かせていますからね。今頃、城内を悠々と歩いていますよ。」


「あの発情犬は、また点数を稼ごうとしているのですか。」


二人が敵と戦っているうちに青年を自ら”一人”で救出をしようとブランチェは動いている。そして青年との再会の折、賢狼は計算高い発言をし、より気に入られようと言うのだ。


挿絵(By みてみん)

「ジョンは何処におるのかのう♩」


スキップをしながら城の長廊下を進むブランチェ。その後を蚩尤はなんとも言えぬ表情で後を追う。


(巨大な気配が一つ減った.........天使の襲撃でエレンミア側の創作物が一機、落ちたか。)


長い廻廊に存在する全ての扉を破壊してまわるブランチェ。


「エレンミアがこれ程容易く散るとは考えられん。順当に考えれば魔眼の魔神を殺害したのだろう。君はどう思うか、賢狼よ。」


エレンミア側にて最強の矛は二体。一人はエレンミア、そしてバロールだ。その内の一人を葬り去ったのだ。大分此方側に分がある事になる。


「であろうな。」


興味がないと言った表情で淡々と青年の捜索をするブランチェ。眉間に皺が寄りつつも、蚩尤は発言する。


「ならば、我らも熾天使の元へと馳せ参じるべきだと思うのだがね。」


人間の捜索など本来ならば二の次にするべき事だ。勝機がある今、其れをみすみす失うわけには行かない。


「構わぬ。今はジョンを見つけ出すことが先決だ。」


蚩尤はその発言を聞き、立ち止まる。


「君達は異常だ。何故、その人間一人に拘る。我らはこの世へと再び生を受けた。そして叶えるべき願いも勝利者には齎される。君達には其れを勝ち取るだけの力がある。しかし、その権利すらも殴り捨てようとしている。」

「何度も言うが、吾輩らには叶えるべき明確な願いは存在せぬ。現状維持、其れが為に我らは戦う。」


ブランチェ達に叶えるべき願いはない。ただ、今の暮らしを不動のものとする為に行動を起こしている。


「ならばこそ、今がその時ではないのか!」

「話は最後まで聞け、蚩尤よ。現状維持のために最重要の欠片はなんだ?青年という母体だ。吾輩らの楔となる彼奴がいなければ吾輩らは生なぞ要らぬ。だからこそ先に救出せねばならぬのだ。」


青年を主軸に行動の基盤があるのだ。


「つくづくと君達の歪んだ『親情』には悩まされる。」


同士となった今、彼らの行動基盤に従わなければならない立場にある。だからこそ蚩尤は苦悩する。


「私は戦場へと向かう。君はその人間の行方を追うがいいさ。」

「言われなくともそうする。」


蚩尤は城の間へと向かう為に反対側へと身体を向ける。


(貴様達の辿る道は破滅だ。だが現状、私には彼らの力に縋るしか生き残る術はない。つくづくと自身の未熟さに反吐がでるよ。)












(............どうしましょうか)


乙姫は達観した様子で現状を分析する。


(私には戦闘には秀でた実力はありませね。ならばのらりくらりと戦場の幕が降りるのを待つべきか。)


「いいえ、」


ボソリと声を漏らす乙姫。


(あの白翼の麗人は神を殺めた。其れも魔の眼を持つ最強の一角をです。)


味方とはいえエレンミアの力は不明。もちろん信じるに値する実力を持っている事も同時に理解はしている。しかし、襲撃して間もなく魔神を葬った敵側は強力な存在である事には変わりはない。


(一度逃げましょうか?いえ、其れをすればエレンミアさん達は私を二度と仲間には戻してはくれませんでしょう。)


ならば敵側へと寝返るか。ルキフェルへと視線を向けると鋭い眼光が戻ってくる。


(何という殺気........)


膝をつき尋常ではない汗が身体から湧き出る。


(無理です、か。私が一番に生き残れる可能性があるのだとしたら_____)


一人の人間の顔が脳内へと浮かぶ。


(_______あの人間。)


エレンミアが拉致をした人間。敵が寄越せと血眼になる存在だ。

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