第百八十九話『吸血の先に』
孤独は辛い。仲間がかつていたものほどその大切さは分かる。自分は怪物だ。決してその事実は覆らない。吸血鬼。世に名を知らしめた代表たる怪異の一つ。フランケンシュタイン、そして狼男を合わせれば世界三大怪物と名を馳せる。恐れられる為の存在。決して人とは相容れない。
「僕は...........」
強大な力と引き換えに失ったもの。其れがあるのだとした一つしかない。
“仲間”
信頼関係とも呼べるものを全て失った故の喪失感。強者は何時も一人だ。一人であらねば真なる力を有する者にはなり得ない。しかしそう言った個の者達は必ずと言っていいほど絆、即ち集団による力に負ける。
「俺”たち”はお前に勝つ、ヴァンパイア!」
仲間との久々の再会がこの台詞だった。ボクはもう、”たち”には含まれない。
何故ならボクは_______
「____________吸血鬼だから」
半身が消滅し、再生も何故か出来ない。
「.............エレンミア、もういいよ。」
恐らくだが、エレンミアの能力の一つだろう。
「こんな無様な姿を晒し続けるのならボクを殺してくれ。」
核たる心臓へと辿り着くには本来ならばストックした命分を殺さなければいけない。総勢にして、978回。しかし、僕自身の心臓をエレンミアは握っていた。その時点でボクに勝機はない。だから選択肢は自決か暴れるかのどちらかだ。もちろんその程度でエレンミアを屠れるなど思っていない。ただの我儘。僕が滑稽で矮小な生き物だと言う爪痕を残したかった。
「_________蚩尤ちゃん、僕の願いを言っていなかったね。」
蚩尤はかつて、皆に願いを聞いた事がある。その際、僕は自分の願いをはぐらかしたんだ。
「言いたくないのであれば言わなくていい。」
蚩尤ちゃんが珍しく優しい。
「蚩尤ちゃん、今日は優しいね.........どうしたの?」
先程までの深淵に閉ざされた空から日の光が差す。
「はは..............眩しくて見えないよ。」
何も見えない。まるで海に沈んだ時の様に。視界がままならない。
「_______僕はね」
吸血鬼をやめたい。出来ることならばかつての様に仲間の輪に入って談笑をしたい。
(ひとりぼっちは........嫌だな、)
視界がおぼつかない理由が自身の涙である事を理解し、小さく笑みを浮かべる。
「普通の人間にね、僕は戻り」
台詞の途中でヴァン・ヘルシングは灰へと還った。
「人並みの願いは持ち合わせておうたか。」
其処には心臓を握りつぶしたエレンミアの姿があった。様々な葛藤がヴァン・ヘルシングの中で渦巻いていた事は嫌でも分かる。彼の最期の表情が其れを物語っていたのだ。
(やはり死ぬのは........辛いか。)
大粒の涙を流し笑いながら死んだヴァン・ヘルシング。灰は風に舞い飛んでいく。
「ディアーナよ、良いのか?」
ディアーナは苦笑をすると首を横に振った。
「彼の方の心情は私に通じた物が少なからずありますので」
闇の眷属としての特性だろうか。彼の心情というものが少なからず、伝わってくる。とても冷たく寂しい、そんな感情がただ淡々と。
「さて座興は終いよ。未知数よ、もし雌雄を決したいと言うのであらば我が城へと来い。歓迎しよう。」
天空へと長く続く黄金の階段が出現する。その最果てに巨大な門が存在し、正に現在、エレンミアはその門へと移動していた。
「そなたらが愛でる人間は生きておる。丁重には扱っておる故、案ずるな。」
クスクスと妖艶な笑みを見せるエレンミア。
「しかし、愛い奴よな。妾も愛が芽吹きよるわ。」
門の中へと入り込む寸前のところ、雷光が如くエレンミアの背後へと姿を現す存在がいた。
”ルキフェル”
明けの明星、光を紡ぐ者。翼が綺麗に咲き、美しき羽が舞う。そして間髪入れずに天の槍による鋭い一撃が脳天へと向け、入ろうとしていた。
「また会おうぞ未知数、くく。」
槍の切っ先がエレンミアの後頭部へと差し掛かったところで姿が消える。
「______向かいましょう、敵城へ。」




