第百六十三話『黒髪のエルフ』
ラクナウ都市部を覆っていた瘴気が霧散する。
(あぁ、此れが王冠戦争。)
街の悲惨な姿を目にし、青年は瞳を閉じる。数多の建物は倒壊し、倒れていない建造物には亀裂などのひび割れが目立つ。ガラス類の類は全て割れている。それに人の死骸が無数に倒れているのを容易に目にする事が出来る。
「ディアーナ.................やり過ぎだ。」
ディアーナへとデコピンを入れる。倫理的に考えて、ディアーナは悪側の人間であり裁かなければいけない人物なのは確かだ。この惨状を引き起こしたのもディアーナ本人に違いないのだから。
「ふふ、それだけですか♩」
「なんだ、もっと言って欲しいのか?」
ユーノの瞼を静かに下ろして横へと寝かせるディアーナ。そして自分へと振り向き元気よくこう答えた。
「はい♡」
「なんだ、勇者______死んでしまうとは、情けないぞ?」
横たわるユーノの遺体の側にて突如として現れる黒髪の美女。エルフ耳をしていることから、彼女が創作物である事は容易に予測出来る。
「ジョン、私の後ろに控えなさい。」
「決して戦闘に手を出すでないぞ。」
ルキフェル、そしてブランチェが青年の前へと姿を現し警告する。
(我らの索敵を超えてこの領域へと入って来た..............強い。)
ブランチェは手元に『古の剣』を出現させ、力を増幅させて行く。
「................そうか、お前が『深淵の女王』か。道理でこの男が負ける訳であるな、くく。」
ルキフェル達の敵意を無視し、ユーノの首根っこを掴み上げ異界へと放り投げる。
「そう警戒するな。未知数であるお前達とは敵対はせぬさ。」
「今は、ですよね?」
ディアーナは鎌を低く構えニヤリと助走の態勢へと移ろうとするが、ルキフェルにより止められる。
(やめなさい。貴方では勝てない。)
ルキフェルが冷や汗を流していることから『黒髪のエルフ』が只者ではない事を理解する。
「そうさな。貴様達はこのアジアに置いての主食である。精々残りの有象無象を殺戮し、我が居城へと来い。宴を設けてやろうぞ。」
その姿が目の前から消える。
「おっと............お前は妾に着いて来て貰うぞ、人間。」
「はい?」
黒髪エルフの言葉がこの場にて木霊すると、異空間より現れた手により青年は引き摺られ、その場から消えてしまう。
「「_______ジョンッ!!!」」
ルキフェルとディアーナが手を伸ばそうとしたが既に遅かった。
「ふ、ふざけるな!!」
ルキフェルは乱心していた。その場にて所構わずに天使の権能を行使し索敵を行う。しかし青年の気配を捉える事が叶わない。
(そんな................ジョン、ダメ、そんな、副団長、また、私を、置いていく?だめ、私は、私には、)
ディアーナからはかつてないほどの瘴気が溢れ出す。聖剣により傷付けられた瘴気の力を無理やりと限界以上に引き出そうとしている。
「貴方が必要なんです。」
この身は全てが貴方に帰属する。そして貴方自身も私の一部だ。故にあのような創作物に取られて言い訳がない。
「____________落ち着け。」
二人の怒りを鎮める様にブランチェは拳を両者の頭に叩き落とす。
「「あいてぇ!!?」」
ルキフェルとディアーナが驚愕と怒りを混ぜた目でブランチェを睨みつけた。
「何をするのですか、ブランチェ!!」
「そうですよ、ふざけている場合ではないのです!!」
ブランチェは一度めを閉じると、二人に対して怒声をあげた。
「ふざけているのはどっちだ!!この星を支配に置く事は我らにとっては容易であろう。だが、それをすれば『裁定者』とやらに我らは為す術もなく殺される。故に規則に乗っ取り創作物らを殺しあげ第三のフェーズに進まねばならのだ。」
「ですがジョンが奪われてしまったのですよ!殺生権は彼方にある。それ即ちいつ殺されても可笑しくないと言う事です。それが私には我慢ならない。もし仮に彼が死んでしまった場合、この星の全ての生命を冥府へと連れて行く。『第四の鍵』を使ってでも、です。裁定者、いいえ、理すらも死の概念を与えて絶望の元殺しましょう。」
ルキフェルは本気だった。天使の生きる渇望は青年に対する盲目的な『親愛』だけにある。
「...............ブランチェさんの言う通りですね。」
(大丈夫、ジョンが何処に居るかまでは把握出来ませんが、彼の内にある瘴気は生きています。それに人質として連れて行ったのでしょう。そう易々とは殺しはしない筈です。)
この借りは高くつく。あのエルフ女は血祭りに上げ、瘴気の餌にしてやると内心にして決意する。
「ジョン副団長を取り戻します。行きましょう、皆さん。」




