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第百五十話『深層世界』

『瘴気』とは元来、星の防衛機能である______


人類の増加に伴い発性した星の抗体、それが瘴気の正体だ。しかし、それは性質を変化させ星のみならず世界を覆い込める程の深淵に昇華する。冥府から出現した魔族。彼らは瘴気の出現を好機と捉え地上へと侵攻を開始する。そして高魔族が四ある瘴気の起点、即ち渦と融合する事により、より冥府との繋がりを強くしてしまう。この時点ではかろうじ星の防衛機能として機能していた。しかし、特異体質を持つ人間が現れてしまう。


_____それこそが聖女ディアーナ


その人間は瘴気を己の肉体へと還元をさせる事が出来る異端の子。神に使える彼女は己の運命を歓喜した。自分を犠牲にする事で世界を救う事が出来るのだと。そして物語は加速し、その聖女は四ある起点を己へと帰してしまう。全ての瘴気が取り込まれ、冥府との繋がりをも完全な物へとしてしまった。聖女其のものが深淵の体現者と化してしまったのだ。己の欲望のゆくままに天界を滅ぼした聖女は冥府と現世を繋げ完全なる闇の世界へとかえてしまった。


闇の住人である魔族ですらも魔力値が高くなければ死してしまう程の混沌の世界。月は赤く染まり太陽は輝きを失う。其処にあるのは底知れぬ暗闇、そして異形と化した化物達の成れの果てである。


「はぁ.....はぁ........」


青年は紅い月が照らす沼を静かに歩んでいた。


(息苦しい.........頭が狂ってしまいそうだ.........)


辺りには屍の山がつもり、沼は月明かりと並行し血の色をする。瘴気の苦痛が常に心身を襲う。精神が常に肉体から切り離されそうな感覚に陥っているのだ。しかし、それをかろうじて自我で抑えつけている。


“ユダネヨ”“ユダネヨ”“ユダネヨ”“ユダネヨ”“ユダネヨ”“ユダネヨ”


屍の口から淡々と言われ続ける。


「黙れ.....俺はっ」

(壊れたりはしない........約束..........守る..)


脳みそが揺れる。痛くて痛くて今すぐにでも中身を取り出してしまいたい。


「約束........何を....守るんだ?」


記憶が曖昧になっていく。身体中に広がる不快感と共に青年は歩くのを止めた。


(...........うぅっ)


そして頭を抑え、沼の中へと身体を沈ませていく。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


沈みゆく沼の中、瘴気で取り込み殺してきたであろう人間、天族、動物、昆虫、魔族の悲鳴の声、そして体感映像が延々と見せ続けられる。


『いや、私、こんなところで死にたくない!』『死にたくないよ、助けて、お母さん、お父さん、誰か、誰でもいいから僕を助けて!』『た、たのむッ!オレに出来ることがあるなら何でもする、だから命だけは!!』


瘴気に呑まれ苦しむ痛み。常人ならば既に発狂し、命を投げ捨ているだろう。


「だめ.........だ」


手を天へと伸ばし沼の奥底から這い上がる。


“貴方は一度、己の精神に入るでしょう。全てを受け入れるのです。例え、大切なものを壊し、殺すという選択肢があろうとも。”


ディアーナの最後の台詞を鮮明に思い出し自我を取り戻す。


「...........そうだ、俺は瘴気そのものと向き合わなければならないんだ。」


拒み続けるからこそ苦痛が続く。だけど意識が、肉体が全てを拒絶反応を示す。


(言うのは簡単、だ..........)


けれど、思考が身体が震え言う事をきかない。


「すぅ.........はぁー」


頭痛や身体の違和感を我慢し深呼吸をする。


「........................いるんだろ?」


青年は顔を上げる。すると紅い月をバックグランドとし屍の丘の上に玉座を構える『深淵の女王』の姿が目に入った。


「私の存在に気づくか、人間。」


深淵の女王ディアーナ。瞳の色は紅く、髪色は白色と染まっていた。


「ディアーナ.................なのか?」


圧倒的緊迫感、そしてプレッシャー。対面しただけで尋常な冷汗が出る。


「.....................くく、それでは問答をはじめようか。」

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