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第百四十九話『優しい瘴気の始め方』

ラクナウ郊外のある大公園____


「さて、まずは先日申した通り瘴気の扱い方について私が教示をさせていただこうと思います。」

「此処って一応、人で賑わう公園だよな。人一人いないのは何でだ?」


本来ならば利用客で賑わう公園に人の姿がいない。無人の状態なのである。


「人避けの奇跡を施しておりますので遠慮なく修練に挑む事が可能でしょう。」


ルキフェルが答える。


「一日で覚えるのならば上々。しかし、吾輩らに残された時間は余りに少ない。本来であらば、数年と言う修行を得てようやく十全の力を扱える様になる。しかし少年には数日の間にて覚えて貰う。」


既に巨大な力は己に施されている。しかしその扱いを十分に扱うには彼等と共に数年の修練を積む必要がある。それを数日の間に会得しようと言うのだから、無茶は承知だ。


(オレを守りながらの戦闘が確実にこの先に出てくる以上は自衛以上の力を持たないと行けない。そして、必ずこの三人には勝って貰う。)


カミーユ達が蘇生する可能性を必ず手に入れる為に。


「十分だ。今日中に自分のものにするさ。」


手を握り締め、ディアーナへと向き直る。


「良いですねぇ♪それではさっそく、やさしい瘴気のはじめ方スタートでぇす♪」


ディアーナの腕が自分の胸の中へと入りこんで行く。その笑みは艶に満ち、頬はいつも以上に釣り上がっていた。











巨大な瘴気が渦巻く巨塔の最上階にて______


「終炎_________迦具土ッ!!」


突き刺した傷口を起点に炎の柱がドラゴンの身体の様々な箇所から上がる。


【愚かなり人間....】


燃える身体に置いても決して倒れないドラゴン。女騎士はレイピアを引き抜くと大地へと降り立つ。


【......あらがいの先にあるのは絶望のみ】


空気へと消えて行くように灰へと身体を変えていくドラゴン。


【この先の戦いに希望はない.....】


そして倒したであろうヴェヌスを見下ろし告げる。


【....精々足掻く事だ。】


ドラゴンはその言葉を最後に完全に消え去った。ドラゴンが消えた事により霧が晴れる。


「瘴気の消失を確認、当方らの勝利だ!」


塔の頂上から、外を見渡すと女騎士達は歓喜の表情を見せた。しかしその中に置いてディアーナだけは険しい顔をしていた。ドラゴンが司っていた瘴気はディアーナへと還元される。この事実は本人以外に知り得ていない事実だ。


「やりましたね、聖女様!」


聖女の付き人が嬉しそうにディアーナへと声を掛ける。だが聖女は胸を押さえながら微笑を見せていた。冷や汗をかいていることから無理をしているのは明白だ。しかしそれを悟られないように付き人達へと言葉を返す。


「人の生きる未来を繋ぐ事が出来たのです。けれどまだ安心するには早いでしょう。」


聖女は杖を大地につけ、上手く身体が倒れないように固定する。


「西方向一帯の霧は確かに消えました。しかし、我々は更なる調査をしなければなりません。」


遥か先に見える大陸を指差すディアーナ。肉眼では見えないが魔力を通して目を強化すれば分かる。瘴気は完全には消え去ってはいないのだ。女騎士らは笑みを捨て霧を睨みつけた。


「______まだ、戦いは始まったばかりだと言う事だな。」


騎士団団長の言葉に一同は神妙な面持ちとなる。


「あれ、聖女様?」


付き人はいつの間にかその場からいなくなっていた聖女に気づく。周りを見渡すが姿が見当たらない。





「はぁ......はぁ........」





最上階より一つ下の階にてディアーナは胸を締め付け、身体を壁につけていた。


(私は.....死ぬわけには......いかない.......)


尋常ではないほどの痛みが心身を襲い、汗が止まらない。今にも意識が失ってしまいそうだ。


「うぅっ.........」


どす黒い闇が泥の様にディアーナを中心として溢れ出す。


『ウケイレルノダ』『セカイハシンニヘイワナドニハナリワシナイ』『ジンルイガキエルマデハ』『死ダケガセカイヲスクウ』『コロセ』『スベテヲ』『ディアーナ』『シンノエイユウトナルノダ』


ディアーナの脳内にて呪符の様に鳴り響く。


“モトメヨ”“モトメヨ”“モトメヨ”“モトメヨ”“モトメヨ”“モトメヨ”“モトメヨ”


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


頭を床へと何度も叩き付け血を流す。


「はぁ......はぁ.......」


頭の中が常に揺れ、視界がままならない________今にも狂い死にそうだ。これがディアーナの腕が入った瞬間に見た光景だ。


「はぁ.......はぁ......何だ、今のは?」


息を荒くし膝をつく。そして目の前に立つディアーナを見上げる。


「何を見たのかは問いません。ですが貴方は経験をした筈です。瘴気を真に身に宿した際の感覚を。」


そうだ。ディアーナの言う通り自分は経験した。あの痛みは本物だ。脳を焼くような感覚。そして身体の中を虫が這い回る様な痛み。常人ならば耐えられない。あれは激痛どころではなかった。


(自我が失いそうになる....その痛みを堪えて最後まで戦ったのか、こいつは。)


人間であった頃のディアーナは不屈の精神を持つ聖人であった事を再確認する。


「ディアーナ、アンタはこの苦痛を常に背負っていたんだな............」


ディアーナはクスリと肩を落とし笑うと青年の額へと人差指を当てた。


「ジョン、今から私の腕を貴方の心から離します。」

「あぁ。」

「この意味をお分かりですね。」


知っている。


(内側にある瘴気が全てオレの支配下に入ると言う事だ。)


ディアーナの制御を完全に離れ先程味わった苦痛が自分を苛む事になるだろう。常に瘴気が自我を取り込もうとする。狂気、絶望、苦痛が無限に続く感触。


「ディアーナ、アンタがどうやって克服したかは物語を通して多方理解している。」


ディアーナはその言葉を聞き頷くと徐々に腕を引き抜いていく。


「貴方は一度、己の精神に入るでしょう。全てを受け入れるのです。 例え、大切なものを壊し、殺すという選択肢があろうとも進みなさい。さすれば______」


完全に腕は引き抜かれ意識が徐々に遠のいていく。


「_______貴方は『黒騎士』となれる。」

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