第百四十八話『扱い方【挿絵】』
「____ジョンよ、起きよ。」
AM11:10、ホテルの一室にて起こされる。周りを見渡すとルキフェルとディアーナは既に起床をしており朝食と言う名のブランチを取っていた。
「おはよう、ブランチェ..........ん、ブランチェ!?」
「吾輩はブランチェである。」
思わず抱きついてしまう。そして、狼体であるブランチェをわしゃわしゃと撫で首元を優しく摩る。ブランチェは気持ちよさそうに眼を細め青年へと身体を預けた。
「なんだか久し振りだなぁ、この感触。」
癒しを感じ頰が緩む。
「うむ、久方ぶりで吾輩も安心する........あぁ」
何処か悲しげではあるが嬉しいと言う感情が見える。何時もならば愛玩犬扱いをするなと注意を呼びかけられる筈なのだが、今日は愚痴の1つも漏らさずに受け入れてくれる。
(ブランチェ........)
カミーユ達の死を間近で確認したブランチェは精神的に参っているのだ。
「..............彼奴らは最後、何か言ってたか?」
膝に乗せ、背中をさすりながら問い掛ける。
「吾輩はカミーユらの最期を見とれなんだ。」
「そうか........」
かける言葉が見当たらない。心の何処かで未だにカミーユ達は生きているのでは無いのかと願っていた。しかし、ブランチェの表情を察し現実へ連れ戻される。
「あぁークソッ!この戦いの勝利者が全てが手に入るって言うなら、死者の蘇生も含めていてくれよ!」
頭を掻きブランチェを膝の上から降ろす。
「あぁ、吾輩も同じだ........」
ブランチェと共にキッチンへと向かうことにする。
「_____おはよう、早いな。」
ルキフェルがコーヒーを入れてくれる。
「実は私達も先程起床したばかりですよ。」
どうやらルームサービスを呼んでいた様だ。
「其れと先程の話、勝ち進んでゆけば自ずと答えが見えて来ましょう。」
ルキフェルの言う通り、先ずは勝たなければならない。
「.............お主達は何人の同族を殺した?」
ブランチェはルキフェル達に問い掛ける。
「残念ながらぁ私達が葬った者は一人しかおりません。そして先日の昼頃に一人と戦闘、ですが逃してしまいましたぁ。」
ディアーナは簡潔にそう説明する。
「吾輩らの間で起きた戦闘での死者は総勢5名である。」
カミーユ、芙蓉、シュヴァルツヴァルト、ゲシル・ボグドー、エルリュングを指し五名だと言う。
「カミーユが死した際ぃ、本来ならばぁブランチェさんも死ぬ定めではありませんでしたぁ?」
ディアーナの言う通り同時召喚された者の命は繋がっている。一人が死ねば片割れも死ぬ筈なのだ。
「吾輩にも分からぬ。だが、カミーユが命を失う直前に吾輩らの繋がりが途切れた。其れも意図的に、だ。」
考えられる可能性が1つだけある。其れは____
「____芙蓉でしょうか。」
ルキフェルが憶測でそう言葉に出す。
「呪術か。」
芙蓉の得意とする呪術。芙蓉は呪術の始祖だと豪語していた。いくつもの秘術を隠し持っているはずだ。それを応用して同時顕現に置けるパスを切断したのだろう。
「未来の戦闘に置いて、貴方の重要性を考慮した結果、芙蓉はカミーユと貴方の間に繋がるパスを断ち切り自身とカミーユの間にパスを繋げたのではないでしょうか?」
ルキフェルが淡々と説明する。その説明を受けたブランチェは椅子から立ち上がり窓際へと向かっていった。悲壮感がその背からは感じられる。
「吾輩がカミーユらの元へ戻った際、カミーユは身体を切り刻まれ、芙蓉の首は跳ねられていた。」
カミーユと芙蓉の死因。
「他の者はどの様に?」
ディアーナが聞く。
「芙蓉の傍に同じく首を刎ねられたものもいた。」
ブランチェは人間態へと変化し青年達の方へと向き直る。
「そして、その少し離れた場所には心臓部が貫かれた鎧の戦士がいた。」
激しい戦場の傷跡と血だまりが広がっていた光景を思い出す。
「なぁブランチェ、1ついいか。」
疑問を感じ質問をする。
「どうやって相討ちだと分かったんだ?」
そう、其れだけの情報ならば第三者が現れカミーユ達を殺していたと言われてもおかしくない。
「大地の権能を使い、その地で起きた過去を断片的に見たのだ。」
大地の権能の有用性を感じる。
「突如現れた黒服の青年が芙蓉を切り裂き、カミーユと鎧の男との戦闘を妨害した。そして鎧の男を下し、カミーユへとトドメを刺そうとした。」
オルホン渓谷での戦闘を思い出し、話を続ける。
「だが、其れを止めるべく瀕死の身体を引きずりながらも姿を現わす芙蓉。そして何かしらの呪術を行使しようとした。しかし、其れを警戒した黒服の男は即座に芙蓉の首を刎ねたのだ。首を切り裂いと同時に黒服の男の首も同じく飛んだ。」
呪術による相討ちを成功させたのだ。ルキフェルは十字架のペンダントを握り唇を噛み締める。
「大バカ者ですねぇ。何故、己の命を投げ打ってまであの方は...........」
ディアーナは悔しそう拳を握り締めた。
「.........大切な、仲間の為か。」
胸が苦しく感じる。大穴が開いた様な感覚だ。
「芙蓉ばかりに負担を強いてしまった............吾輩は」
青年はコーヒーカップを机に置き、ブランチェの肩に手を置く。
「オレはアンタら以上に頑張るし補助もする。だから、一人で背負いこむな!隣にはオレがいる!オレ達がいる!」
修行を乗り越え、力を行使すれば邪魔にならず、サポート出来る筈だ。
「ブランチェ、受け取ってくれ。」
以前買ったリングをブランチェへと渡す。
「これは?」
眉を曲げリングを凝視する。
「俺たちの繋がりみたいなもんだ。」
親指に嵌める指輪を見せハニカムとブランチェは頰を緩ませ嬉しそうに左薬指へと指輪を嵌めた。左手薬指に込められた意味は、「愛の進展と絆」が最も代表的だ。古代ギリシャ時代から、左の薬指には心臓につながる太い血管があると信じられていて、命に一番近い指と呼ばれるとても神聖なものだったそうだ。




