第百二十一話『各自の心情』
世界とはこうも広いものなのか。私はこの世界に降臨してからと言うもの半月と言う時を過ごした。熾天使の座を剥奪され地上へと堕ちた。しかし堕ちた先は真の世界。我が世界を生み出した創作を司る星。アダム、そしてイブら以上に感情の起伏が激しい人間が文明を発展させ住居としている。何よりも驚きが隠せない事があるとすれば、人間たちが己の星を発ち月へと辿り着いた奇跡だ。翼を持たぬ種族が鳥類以上の飛翔能力を有すると言うのは神の掲げる平等と言う概念から掛け離れている気はするが素晴らしい進化である事には変わりはない。しかし、其れと同時に余りにも人口が増え過ぎている。この状態のままでは遠くない未来に人類は滅びる。資源の過剰摂取、環境の汚染と人は大罪に手を染め過ぎている。仮にこの世界が我が世界に連なる世界であるのならば、大半の者が地獄へと送られる事になるだろう。
一つ、ジョンから面白い話を聞いた事があるのだが私の出自には原典の原典があるらしいのだ。教会と呼ばれ神を礼拝する人間の集い場があると言われるらしい。其処に存在する旧約聖書と言う聖典にルシファーと呼ばれる堕天使がいるらしい。それがどうやら私のモデルとなった人物の様だ。神に反逆した敵対者、悪の化身。熾天使であった頃は聡明な人物だとも描かれていた。悪くない気分だ。だが一点にのみ許せぬ事がある。私はミカエル如きに劣る事はない。熾天使としてミカエルは描かれてはいるが、其れは恐らく熾天使の
座を抜けた私の後釜として就任したものだろう。実力不足だ、失せろと言ってやりたい。其れにネットと言うもので調べていくとミカエルへの信仰が強い事が伺えた。どの記事にも私が奴の手により裁かれると書かれている。思わずジョンのパソコンを壊しそうにった。私はミカエルではなく、神の手で裁かれたのだ。メキメキとなるパソコンから微弱な力で引き剥がそうとするジョン。
(あぁ、愛い奴だ。)
思わず私はジョンへと抱きつく。全ての怒りが消えた気がする。この温もりこそが私の全てとなりつつある。しかし、拳骨という物は
余り好きではないですよ、ジョン...........................いいえ、ちょっと好きかもしれません。本心を言うのならば、ジョンにされる事ならば全てが嬉しく愛おしい。ですがこれは内緒です。
「天使である私に何をするのですか、人間。」
★
この世界には余りにも闘争が少ない。良い事なのでしょうがぁ、私は余り好きではありませんねぇ。瘴気を取り込んでからという物、私は昂ぶる感情を抑えつける様に旅をして来ました。純粋であった頃の私は本気で血を流さない世界を願い魔物達と戦っていた。己の特性を生かし、瘴気を己に封じ込めた。一人の犠牲で世界が救えるのならば、と。しかし闘争が起きるたびに瘴気に侵されていく心が全てを呑み干せと叫ぶ。眠れた日々は無かったのでは無いかとさえ思えた。もっとも、最期は魔物達に惨殺された挙句、瘴気と完全に同化してしまったんですがねぇ。完全に同化した後は気分が実に良かった。何と言うか、全てが軽くなったと言った方が良いのでしょうか?己の欲望が満たされていく感覚。簡単に言うのならば常に絶頂に達していると表現をした方が良いのでしょうか。骸の魔物とやらが魔王と言う立場にあった様ですがユーノ達に屠られたと言う事は雑魚だったのは確かでしょう。そして戦闘を終えたばかりの勇者達を私はマールスさんを残し、虐殺した。それが史実の私であった。だが、此処にいる私はジョン副団長に出会った私だ。心に大きな穴が空くと同時に闇が其れを埋めてくれた。いや、副団長が埋めてくれたのだ。心の奥底では仲間を殺した罪に本来のディアーナは泣いているのかも知れない。だが、私は気分が良いと感じた。この世界で私と彼がいれば救済の世を成せるのだと。だが、消えてしまったのだ。絶望の果て世界を掌握した私は希望を見いだせず自害をする。
_________そして私はジョン副団長に再び出会うことができた。
私は満足だった。またあなたとこうしてお話ができる。それだけで私は........救われた。
実に興味深い世界。争いは小規模であれど、平和に近い世界。本当にあなたと過ごす時間は楽しかった。相談出来る人などいなかった苦渋の日々が浄化される。共に暮らし共に笑う。唯の小娘の様に振る舞える事に歓喜した。願わくば永遠にあなたと暮らしたい。その感情を密かに胸にしまい過剰に振る舞う毎日。だけど嫌ではない。
「ディアーナ、離れてくれ。」
ジョン副団長は私が守る。例え、ルキフェルさん達であろうと敵対すると言うのであれば私はあなた方を排除する。
「もう.......」
離しはしない。
「.......離れませんよ♪」
あのような無茶は絶対にさせない。
★
おばあちゃん、何してるんだろう?私の世界が作られた世界ってのは分かる。出来る事なら戻りたいって考えてた。でも最近の私は可笑しい。少なからず、戻りたくないとも考えてしまう。もちろん、祖母とは会いたいが、此処での生活が物凄く心地がいい。手放したくない。ルキフェル、ディアーナ、賢者様、芙蓉、そしてジョン.......みんな大好き。一緒にいたい。戦いだってあった。けど今度はあの時みたいに一人じゃない。みんながいる。ジョンは戦えない。だから私が守らなきゃダメだ。多分だけど、みんなの中で私が一番弱い。其れでも私は戦うよ。みんなを死なせない為に。とはいえ、賢者様とは繋がっている事は感じている。王冠戦争の概要で理解する事はできた。この繋がり方は異常だ。まるで命と命が繋がっている様ながする。賢者様は何も言わないけど、私には分かる。此れは何方かが死ねば片方も同じ結末を辿ると言うことだ。降霊術師以上に強力な敵がこの先、現れるかもしれない。私はもっと頑張らなければ。
「ふっ!はぁあああああ!!」
密かに剣の修行をする。もう二度とジョンには怪我を負わせない為に。
「性が出るな。ほら、夜食作っといたぞ。」
握ってくれた米に飲料水。本当に出来た男の子だ。
「ありがと!ジョン!」
全てを貰えるというならば私は迷わずジョンを貰い受けるだろう(婚姻的な意味で)。そしておばあちゃんの元へとみんなを連れて帰るのだ。
★
闘争と孤独の中に生きてきた。この世界は吾輩にはとても眩しく虚無を埋める安念の地だ。失なわぬ。全てが渡されると言うのならば全てを吾輩が貰い受ける。そして願うのだ。永遠に此処に在ることを。例え、幾人と同胞を殺戮しようとも最後の流血として見せる。
吾輩の幸せの為に。欲深い獣と罵られようともこの暮らしを手放す以上に苦痛な事はない。何よりも心配事があるとすればカミーユ、そしてジョンの存在だ。
あの二人は優先的に護らなければならない。
命の灯火が繋がる少女。そして非戦闘員であるジョンは何が何でも怪我を負わせる訳には行かない。宝剣を一丁、カミィルへと与
えてはいるが国を渡った際には常に戦闘を監視しなければならぬな。
「ブランチェー買い物行こー?」
ジョンが吾輩を呼んでいる。屋上から降りジョンの元へと向かう。
「何か散歩みたいだな。」
ナチュラルに頭を撫でるが吾輩は愛玩犬ではない事を理解してほしい。別にやめては欲しくはないが。
「今日は狼さんではなく女の子なんだな。」
「そっちの方が良かろう?ほれほれぇ?」
「む、胸を当てるな!」
人間体の姿を取りジョンの隣を歩く。ああ、この身体が好きだと言うのならば好きに手を出しても構わないと言うのにな。
★
芙蓉は妬み嫌われていた。歩いた先には屍の山が出来上がる。ふざけた色香の所為だ。そもそも魔眼を宿さなければこの呪われた力を制御しきる事は叶わなかっただろう。山林の奥底、芙蓉は静かに身を縮こませ目を瞑る。そして再び目を開いた時、芙蓉はこの世界にいた。渋谷と呼ばれる都市、その交差点の中心で空を見上げる。ああ、私は夢を見ているんだ。だが現実は違った。間も無くして能力を使いこの世界の情勢を理解していく。資金は色香でその辺の通行人へと幻覚を見せ少量づつ巻き上げた。情報を得る際にネットカフェなる場所が宿泊に適していると聞きその場を拠点とすることにした。其れから半年の間、欲世に染まっていく事になるのだが存外悪くない。時折同族達が芙蓉の位置を特定し襲撃して来るが全て皆殺しにしてやった。
「黒髪の着物美人がこのネットカフェに住んでいると言う事なので、取材をしようと思います。」
テレビ局の取材という者が私の存在を知り、駆けつけたようだ。と言うか、このネットカフェの従業員は芙蓉を売ったのか。死ねば良
いのに。
「う、うわ、すっごい美人!?」
「ほ、ほんまやなぁ」
アナウンサーやら芸人の奴が驚いた顔で自分を見て来る。
「あの〜、お尋ねしたいことがあるので「ムリ......」
その場を即座に離れる。アポ無しで取材を開始しようとするな。其れとカメラを無断で向けるな。
「ちょっとお話をしていただけるだけで宜しいので!」
直ぐに駆けつけるが即座に呪術を使い暗示を掛ける。
「芙蓉.....いない.......あっち......行った。」
「「はい」」
虚とした目になるアナウンサーらは反対の道へと戻っていく。其れから暫くぶらぶらと彷徨っていると誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
相手が出してくれた手を握り立ち上がると其処にはあり得ないほどに美しい男児がいた。頭を下げ謝ると直ぐ様走り去ってしまう。
「綺麗な人」
悟られない様に追いかけようとするが。
「よぅ、アンタも俺達と同じで創作物なんだろ?ちょっと付き合って貰おうか。」
「チッ」
舌打ちをし同類と呼ぶ集団と共に裏の路地へと行く。言わずもがな、数分と立たず周りは血だまりとなるのだが。即座に芙蓉はその場を後にした。其れから数日後、富士の樹海で彼らと出会う事になるのは言うまでもないだろう。
「.........なんだ、変態か。おはよう。」
青年が芙蓉を変態だと言う。芙蓉が変態だと言うのは可笑しい。
「良い加減に俺の逸物から手を退かせ。」
おっと自然に手が動いていた様だね、うん。
芙蓉はノーマルだ。決して変態などではない。
「興奮......した?」
だが一応は確認をしなければならないだろう?礼儀として。
「アホか。」ドン引き
此れは唯のスキンシップなのだが。彼が美しいからついつい手が伸びてしまうだけで決してやましい気持ちはない。そう決してないのだ。うん。
「お姉さん.....ちょっと.....好い事......しよう.....?」
「おじさんとちょっと好い事しようかみたいな言い方やめろ、変態。」
もう一度言う。私は変態ではない。




