第百九話『呪いの童子』
遥か昔、太古の日本_____一人の童子がいた。いつ生まれたのかも分からない奇怪な娘。人の為に自分の力が役立つのなら振るおう。偽善ではなく本心から人を好きになろう。人でなくともその願いを胸に童子は歩き続けたと言う。だが人は容易く異端の物を恐れる。憎き呪術を生み出した始祖。近づけてはならぬと各里に伝えられた。
童子は鬼に落ちる。人を殺戮する鬼へと。千の命を奪った頃、魔眼が宿ったと言われる。童子が歩いた道筋には屍が重なっていく。古来より日本に伝えられていく事になる童子の伝承_____『死神』。
「た、助けて........」
路地裏へと剣を握り倒れる青年。両足は歪んだ形に曲がり最早歩く事は叶わないだろう。
「それは、でき、ない。」
着物を着た童子。彼女は無慈悲に男に対し自らの赤眼を開眼させる。
「..........あぁ、僕は」
青年は夢を見た。元の世界で幼馴染と交わした幼少の頃の記憶を。海岸にて幼馴染と抱き合い、ようやく結ばれる夢。そんな夢を見ながら青年は砂と化し消えていく。
「せめて、夢の中、幸福を。」
消えた青年を静かに見守る着物の娘は赤い涙を流しその場を去る。
(残り三十三、大分減った。)
数字を指で数えながらボソリと呟く。
「ん、ごめん」
通行人とぶつかってしまう。
「いえ、こちらこそすみません。」
顔を上げると容姿が人よりも整い過ぎるほどの美しさを持つ青年が頭を小さく下げていた。そしてその青年は走り去ってしまう。
「綺麗、だった」
着物の娘は去っていく青年を目で追う。
「........」
心臓が高鳴っている事に疑問を感じる。初めて感じる感情に戸惑いを見せる。
(........この感情は、なに?)
着物の娘は歩き出す。その感情の正体を確かめる為、彼が走って行った方角へと目指し。
「バイトの帰りに着物の女の子とぶつかったんだけどさぁ、めっちゃ美人だった。」
夕飯の用意をしながらルキフェルと会話をする。
「私.......よりも、ですか?」
やや頰を膨らませているところを見るに嫉妬をしているのだろう。
「方向性が違うから何とも言えないな。ほら、ルキフェルは神聖な美しさだろ。その子は何というか日本人形みたいな感じ。」
「私は神聖ですか。そうですか、ふふ。ジョンは仕方ありませんね。確かに私は完璧な存在であり美的にも優れている。ふふ、神聖でしょう。神聖ですね。今度はよそ見して歩いてはなりませんよ。」
頰を抑え嬉しそうに笑う。この天使様はちょろ過ぎるだろうと言わざるを得ない。
「あんたも大分、人間らしくなったな。」
ルキフェルの頭へと手を置き撫でる。
「な、何をするのですか!離しなさい!!」
と言いつつも自分の手が頭から離れない様に抑えつけるルキフェル。てかどんだけ力強いんだよ。引き剥がそうとしても抑えつける手を離さないのである。
「________緊張をするので、次回からは事前に報告をしてから行為に及んで下さい。」
ようやく解放される。そしてルキフェルは胸に手を当てぼーっとし出した。まぁそんな天使の姿を見て言いますが、可愛いですよ?もちろん。
「とはいえ、今時の子が夏でもないのに着物なんて珍しいな。子供の頃は時々、老齢の方が着物を着て街を歩く姿を目にすることもあったけど今は見なくなったもんな。」
おそらくは何かしらの習い事をしているのだろう。夕食の準備をしながらそう口にする。
(...........着物を着た娘、ですか。)
調理をする青年を観察しながらルキフェルは考える。
(ジョン、貴方は創作物を惹きつける運命にあるのでしょう。私を含め、既に貴方は五人もの創作物と相対しています。先の襲撃の際に置いても我らのいずれかを狙うのではなく、貴方が狙われたのです。私は貴方がいなくなる未来に興味はない。警戒しなければ。貴方を死なせた時、私も共に死にましょう。ですが、その未来は起こさせはしない。必ずや、私は熾天使の名に置いて貴方を支え続ける。それが、私がこの世界に舞い降りた意味なのだから。)




